なぜ固定資産を除却すると節税になるのか
不要な固定資産を除却することで、固定資産の帳簿価格を「固定資産除却損」として経費に計上することができます。経費に計上することができるということは「利益」を下げることができますので法人であれば法人税、個人であれば所得税を節税することができます。
どのように除却すれば良いのか
では、どのようにして資産を除却すれば良いのでしょうか?会計上資産を除却するためには対象の資産を「解撤、破砕、廃棄等」をする必要があります。資産がそのような状態であれば会計上ももちろん除却を行うことができます。しかし除却したい資産を解撤、破砕、廃棄等していない、またはできない状況もあるかと思います。
そのような場合、一定の条件のもと、解撤、破砕、廃棄等をしていない資産であっても当該資産の帳簿価額からその処分見込価額を控除した金額を除却損として損金の額に算入することができる場合があります。そのような場合の除却を「有姿除却」と言います。「姿」が「有」る状態でも「除却」することができるのです。
有姿除却とは
有姿除却とは以下の条件の該当する場合に、実際に解撤などしていなくても除却できるというものです。条件は以下の通りです。
(1) その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
(2) 特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等からみて明らかなもの
つまり「使用の廃止」や、「将来使用しない」ということが挙げられているため、遊休資産であったり「一時的な使用の停止」等では有姿除却として除却損を計上することはできません。
この有姿除却を採用する場合、当該資産の帳簿価額からその「処分見込価額」を控除した金額を除却損として損金の額に算入することができます。
ポイント:有姿除却の除却額=帳簿価格−処分見込価格
ソフトウェアの除却により節税
ではもともと形のない「無形固定資産」などはどうなるのでしょうか?例えば「ソフトウェア」を資産として計上していた場合は以下の条件に該当していれば除却損を計上することができます。
1) 自社利用のソフトウエアについて、そのソフトウエアによるデータ処理の対象となる業務が廃止され、当該ソフトウエアを利用しなくなったことが明らかな場合、またはハードウエアやオペレーティングシステムの変更等によって他のソフトウエアを利用することになり、従来のソフトウエアを利用しなくなったことが明らかな場合
(2) 複写して販売するための原本となるソフトウエアについて、新製品の出現、バージョンアップ等により、今後、販売を行わないことが社内りん議書、販売流通業者への通知文書等で明らかな場合
つまり今後、当該ソフトウェアの利用がない(できない)ということを明らかにすることができれば、ソフトウェアを除却し、除却損を計上して節税することができます。
固定資産を除却した際の会計処理
では固定資産を除却した際には会計上どのように処理すれば良いのでしょうか?
会計上の処理方法は、これまで資産を「直説法」により減価償却をしていたか、「間接法」により減価償却をしていたかにより異なります。
直説法による資産の償却とは
直説法では減価償却をする場合に、資産を直接減額させていきます。
例)機械装置の減価償却100,000円を直説法により減価償却する場合
減価償却費100,000 | 機械装置100,000 |
減価償却するたびに資産が減額されるため、会計上の資産価額=固定資産台帳の帳簿価額となります。
間接法による資産の償却とは
一方、間接法では減価償却をする際、貸方で資産を減額させるのではなく「減価償却累計額」という科目を使用します。
例)機械装置の減価償却100,000円を間接法により減価償却する場合
減価償却費100,000 | 減価償却累計額100,000 |
この間接法によるメリットはこれまで償却した累計額を残しておけるので、その資産のもともとの価値を把握しやすいといったものがあり、投資家や銀行、補助金を出す場合に国などの機関が間接法を求めるようなケースもあります。もちろん、直説法を採用していても間接法を採用していても支払う税金に変わりはありません。
間接法の場合、会計上の資産価額=取得価額となります。
直説法と間接法による除却の際の仕訳
では資産を除却した場合、直説法と間接法ではそれぞれどのような仕訳を行うのでしょうか?
例)帳簿価格1,000,000円の機械装置を直説法により除却した場合
固定資産除却損 1,000,000 | 機械装置 1,000,000 |
直説法を採用した場合、借方には固定資産除却損、貸方には機械装置を計上します。機械装置の帳簿価格1,000,000円をそのまま貸方に計上するので、除却した後、対象の「機械装置」は会計上から無くなる形になります。
例)帳簿価格1,000,000円の機械装置を間接法により除却した場合
(機械装置の取得価格は10,000,000円、これまでの償却累計額は9,000,000円とする)
固定資産除却損 1,000,000 | 機械装置 10,000,000 |
減価償却累計額 9,000,000 |
固定資産除却損1,000,000+減価償却累計額9,000,000=機械装置10,000,000
間接法を採用していた場合、機械装置の「取得価格」、これまでの「減価償却累計額」もこの仕訳により消す形になります。貸方には機械装置10,000,000円、借方には9,000,000円の減価償却累計額を載せています。
直説法を採用していたか、間接法を採用していたかによって除却の際の仕訳は異なります。ただし、借方にある「固定資産除却損」の1,000,000円は直説法を採用していても、間接法を採用していても変わりません。つまりどちらにしても同額の除却損が計上されているため、節税に関しては直説法でも間接法でも変わりはありません。
取り壊し費用が発生した場合の除却
では取り壊し費用などの「廃棄料」などが発生した場合にはどうなるのでしょうか?そのような場合には固定資産除却損とは別に「雑費」などの科目で廃棄料を計上します。
例)帳簿価格1,000,000円の機械装置を直説法により除却し、廃棄料が10,000円発生した場合
固定資産除却損 1,000,000 | 機械装置 1,000,000 |
雑費 10,000 | 現金 10,000 |
この雑費に関してももちろん経費として計上することができますが、現金として支払いもしているのでこの部分について大きな節税効果が見込めるわけではありません。
それよりも節税として効果があるのは使っていない資産の「帳簿価格」部分が「固定資産除却損」に計上できる部分です。特に除却損を計上する際にキャッシュが出ていくわけではありませんので企業や個人としてもありがたい節税方法となります。
資産の除却でどれくらいの節税効果があるのか
では資産を除却することでどれくらいの節税効果があるのでしょうか?
例)帳簿価格1,000,000円の資産を除却した場合(除却前の利益は10,000,000円)
1,000,000円の帳簿価格の資産を除却するため、除却により利益を1,000,000円マイナスすることができます。つまり資産を除却した後の利益は9,000,000円となります。
法人税の税率を19%とした場合、
(除却前)10,000,000円×19%=1,900,000円
(除却後)9,000,000円×19%=1,710,000円
となり、法人税については190,000円の節税効果があります。
仮に法人ではなく個人事業であったという場合、所得税の税率は所得に応じて変わっていきますので、利益が10,000,000円か9,000,000円かによって税率も異なります。この場合、除却を行うことで695万円超え900万円以下に該当するようになるので、税率を従来の33%から23%に下げることができます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
(除却前)10,000,000円×33%-1,536,000円=1,764,000円
(除却後)9,000,000円×23%-636,000円=1,434,000円
個人事業主の場合、税率が下がるということもあり、資産1,000,000円の除却を行うことにより330,000円の節税効果があります。
除却を利用した節税のメリット
除却を利用した節税のメリットは大きく2つあります。1つはキャッシュを減らさずに経費を作ることができること、もう1つは決算直前でも経費を作ることができるということです。
キャッシュを減らさずに経費を作る
除却を行うことのメリットとしては、キャッシュを減らさずに節税を行うことができます。決算を迎えると法人税や消費税、また税理士に対しての決算料などキャッシュでの支払いが多くあります。そのような時に節税対策ということで何かを購入すると、同時に現金も出て行ってしまっているので逆に企業や個人の首を絞めていることになる場合もあります。
しかし除却を行う際には取り壊しや廃棄等を行わなければキャッシュが出ていくことはありません。キャッシュを出さずに節税を行うことができるというのは除却を利用した節税の大きなメリットです。
除却により決算直前での節税が可能
除却を利用した節税のもう1つのメリットは決算期の直前でも経費として落とすことができるということです。
例えば節税対策として決算期の直前に備品を購入したとしても、減価償却の対象になった場合は結局支払った費用を「耐用年数」で割り、更に直前の購入である場合には1ヶ月しか償却できないため「1/12」したものだけが経費として計上され、節税効果はあまり発揮されません。
また減価償却の対象とならない消耗品などを購入した際も決算期の直前での購入となると「棚卸資産」になりその期の経費として認められない場合があります。
それに比べこの除却を利用した節税の場合には3月決算の場合、例えば3月31日に除却したとしても除却金額をまるまる経費として参入させることができるのです。
ポイント:除却による節税のメリットはキャッシュが出ていかないことと決算直前でも経費を作ることができること
除却により償却資産税も節税に
固定資産の除却により節税になるのは「法人税」や「所得税」だけではありません。その他、除却する資産が償却資産に該当している場合には「償却資産税」も節税になります。
償却資産税とは固定資産のうち、償却資産に課せられる税金のことを言い、毎年1月1日に所有している償却資産について申告することにより1.4/100の割合で市区町村により課税されるものです。
償却資産の対象となる資産
現在使用していない機材などについても課税の対象となるため、除却していない場合には課税されてしまします。具体的には
- 構築物
- 路面舗装、門、弊、看板等
- 機械及び装置
- 各種製造設備、機械式駐車設備等
- 船舶
- ボート、釣船、漁船、遊覧船等
- 航空機
- 飛行機、ヘリコプター、グライダー等
- 車両及び運搬具
- 大型特殊自動車等(自動車税、軽自動車税の対象となる車両は対象外)
- 工具・器具及び備品
- パソコン、理美容機器等
が償却資産の対象となります。
償却資産の対象とならない資産
償却資産の対象とならない資産は以下の通りです。
- 自動車税、軽自動車税の課税対象となるべきもの
- 無形固定資産 (例:アプリケーションソフトウェア、特許権、実用新案権等)
- 繰延資産
- 平成10年4月1日以降開始の事業年度に取得した償却資産で、耐用年数が1年未満又は取得価額が10万円未満の償却資産について、税務会計上固定資産として計上しないもの(一時に損金算入しているもの)
- 取得価額が20万円未満の償却資産を、税務会計上3年間で一括償却しているもの
- 平成20年4月1日以降に締結されたリース契約のうち、所有権移転外リース及び所有権移転リース資産で取得価額が20万円未満のもの
※つまり償却資産の対象とならない「ソフトウェア」などの除却を行なったとしても償却資産税の節税にはなりませんのでご注意ください。
この償却資産税は課税標準額が150万円未満の場合は課税されません。しかし150万円以上の場合には課税標準額全体に対して課税され、課税標準額(千円未満切捨)×1.4%(税率)=年税額(百円未満切捨)の計算に基づき償却資産税を納税しなければなりません。
もし資産の除却を行い課税標準額が150万円未満になった場合には償却資産税は一切課税されませんので大幅に節税をすることができます。
決算期が近づいたら固定資産台帳を確認
決算期が近づき節税を検討する場合、一度、法人や個人の「固定資産台帳」を確認してみましょう。固定資産台帳は法人の場合には申告書と決算書の間に挟まっている場合が多く、個人事業の場合には白色申告の収支内訳書、青色申告の場合には青色申告決算書に「減価償却費の計算」というページがあるので確認することができます。
その固定資産台帳を確認してどのようなものが資産として計上されているのかを調べることができます。そこで使っていない資産が計上されたままになっていないか確認してみましょう。税理士に会計処理を頼んでいるというような場合でも、税理士が会社や個人のどの資産を実際に使っているのか、または使っていないのかという部分までは把握していない場合が多いので、ご自分で確認することをお勧めします。
工場やオフィスを見渡して、今使っていないもので今後も使わないようなものがあれば、処分することによって固定資産除却損を計上し節税できないかどうか検討しましょう。
除却による節税対策の注意点
除却による節税対策の注意点は、廃棄したという事実を「証明」することです。廃棄証明書や廃棄した際の領収書など資料を残しておきましょう。
また有姿除却については今後、通常の方法により事業の用に供する可能性がないことを証明すること、将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等からみて明らかであることを証明する必要があります。万が一調査があり税務署から問い合わせがあった場合には除却の事実を証明できるように必要な資料は取っておきましょう。
まとめ:不要な固定資産は除却して節税!対象となる資産の条件
今回の記事では固定資産を除却することによる節税方法をご紹介しました。除却損として計上することができるのは基本的には「解撤、破砕、廃棄等」している資産となります。しかしそれだけでなく将来使用される可能性がほとんどないなど、一定の条件を満たしていれば「有姿除却」をすることもできます。また無形固定資産であるソフトウェアも除却することが可能です。
除却による節税効果は法人であれば「法人税」、個人であれば「所得税」、またそれ以外に「償却資産税」も節税することができます。除却による節税はキャッシュも出て行きませんし、決算直前の節税対策としても有効です。除却による節税をお考えの方は、節税に精通した弊社の節税コンサルティングサービスにご相談ください。