法人と個人の節税対策として役員へ社宅を貸与するという方法があります。役員としては手取り額が増え、法人としても差額部分を損金として処理することができ節税対策に非常に有効です。役員に対する社宅の貸与は一定額の家賃を役員から受け取っていれば、給与として課税されません。しかしこの「一定額の家賃」はいくらなのでしょうか。今回の記事ではこの役員社宅の賃料相当額の計算方法について具体的な事例を交えながら解説していきます。
役員社宅の種類
役員が支払う賃料相当額の計算方法は社宅の規模によって異なり、計算区分は
- 小規模な住宅
- 小規模な住宅でない場合
- 豪華住宅
に分けられます。
これらの区分によって計算方法が異なり、例えば豪華住宅に該当する場合には家賃の全額が役員の負担となるなどの決まりがあります。
ではどの程度の規模の社宅が「小規模な住宅」に該当し、どこからが「小規模住宅でない」と判断されるのでしょう。また程度の規模の社宅が豪華住宅と判断されるのでしょうか。
それぞれの基準は以下の通りです。
小規模住宅に該当する条件
小規模住宅に該当する要件は、法定耐用年数によっても異なります。
法定耐用年数が30年以下の建物の場合には床面積が132平方メートル以下である住宅
法定耐用年数が30年を超える建物の場合には床面積が99平方メートル以下である住宅
が条件となります。
耐用年数 | 小規模住宅の条件 |
---|---|
30年以下 | 床面積132㎡以下 |
30年超 | 床面積99㎡以下 |
法定耐用年数は建物の構造や用途によって異なり、例えば鉄筋コンクリート造りの住宅の場合には47年、木造造りの場合には22年などと税務署によって法定耐用年数は定められています。
区分所有の建物は共用部分の床面積を按分し、専用部分の床面積に加えたところで判定します。
小規模な住宅でない場合に該当する条件
一方、上記の条件に該当しない住宅は「小規模な住宅でない場合」に該当し、異なる計算式によって賃料相当額を計算します。
小規模な住宅でない場合とは先程の条件以上の規模である住宅のことを言い、30年以下の耐用年数の場合には床面積132㎡超、30年超の耐用年数の場合には床面積が99㎡超の場合に小規模な住宅でない住宅が該当します。
豪華住宅に該当する条件
では、どのような住宅が豪華住宅に該当するのでしょうか。
豪華住宅は床面積が240平方メートルを超えるものを言い、そのうち取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況等各種の要素も総合勘案して判定します。
ただし、床面積が240平方メートル以下のものであっても、一般に貸与されている住宅等に設置されていないプール等の設備や役員個人のし好を著しく反映した設備等を有するものについては、いわゆる豪華社宅に該当することとなります。
各住宅の家賃計算方法
どの規模の住宅に該当するかによって賃料相当額の計算方法は異なります。先ほどもお伝えしましたが、豪華住宅に該当する場合には家賃の全額が役員の負担となります。小規模宅地と、小規模宅地でない場合の家賃計算方法は以下の通りです。
小規模住宅の家賃相当額計算方法
小規模住宅に該当する場合、次の(1)から(3)の合計額が賃貸料相当額になります。
- (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
- 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
- (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
小規模住宅に該当するかどうかを確認するためには、
- 建物の固定資産税の課税標準額
- 建物の総床面積
- 敷地の固定資産税の課税標準額
を調べる必要があります。建物と敷地の固定資産税課税標準額は毎年4月から6月の間に送られてくる固定資産税の納税通知書からそれぞれの課税標準額を確認することができます。また建物の総床面積は不動産の売買契約書、不動産登記簿謄本、建築計画概要書などで調べることができます。
小規模住宅でない場合の家賃相当額計算方法
では役員に貸与する社宅が小規模住宅に「該当しない」場合にはどのようにして賃料を算出するのでしょうか。小規模住宅に該当しない場合、その社宅が自社所有のものか、他から借り受けた住宅等であるかによって賃貸料相当額の算出方法が異なります。
自社所有の社宅の場合の賃料相当額算出方法
自社所有の社宅の場合、次のイとロの合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。
- イ (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12% ※法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12%ではなく10%を乗じます。
- ロ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
自社所有の社宅の賃貸を調べる場合にも建物と敷地の固定資産税の課税標準額が必要となります。
賃貸住宅の場合の賃料相当額算出方法
賃貸住宅が自社所有ではなく他から借り受けた住宅等である場合、下記のいずれか多い金額が賃料相当額となります。
- 会社が家主に支払う家賃の50%の金額
- 上記で算出した賃貸料相当額
この場合、先ほどの固定資産税の課税標準額に加えて家主へ支払う家賃がいくらであるかを確認しておく必要があります。
役員の賃料相当額計算例
では具体的なケースで役員の賃料相当額をシミュレーションしてみましょう。
小規模住宅に該当するケース
例えば、以下の条件に該当する場合には賃料相当額はいくらになるのでしょうか。
- 建物の固定資産税の課税標準額:1,000万円
- 敷地の総床面積:80㎡(法定耐用年数30年超)
- 敷地の固定資産税の課税標準額:500万円
- 1ヶ月あたりの家賃:15万円
上記のケースに該当する場合、役員から一ヶ月あたりいくらの賃料を受け取らなければならないのか試算してみましょう。まず、法定耐用年数が30年超で敷地の総床面積が80㎡であるため、「小規模の住宅」に該当します。
小規模住宅の計算式は以下の通りでした。
(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
(2) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
(3)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
この計算式に上記の数字を入れていきます。
(1)10,000,000×0.2%=20,000円
(2)12円×80㎡/3.3㎡=290円
(3)5,000,000×0.22%=11,000円
(1)+(2)+(3)=31,290円
この場合、役員は会社に対して31,290円以上の家賃を支払えば会社が支払っている賃料を社宅として損金に認められることとなります。
役員個人としては150,000円の家賃の住宅に31,290円の家賃で入ることができるのです。
小規模住宅に該当しないケース
では以下の条件の場合、役員はいくらの家賃を支払わなければならないのでしょうか。
- 建物の固定資産税の課税標準額:1,000万円
- 敷地の総床面積:100㎡(法定耐用年数30年超)
- 敷地の固定資産税の課税標準額:500万円
- 1ヶ月あたりの家賃:15万円
この場合、法定耐用年数30年超で敷地の総床面積が99㎡を超えていますので、小規模住宅には該当しません。小規模住宅に該当しないので、自社所有か賃貸かによってそれぞれ計算方法が異なります。
自社所有の社宅の場合
役員に賃貸する社宅が自社所有の場合、以下の金額の合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。
計算式は以下の通りでした。
イ (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12% ※法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12%ではなく10%
ロ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
この金額に今回の条件を当てはめてみます。
イ 1,000万円×10%(30年を超えるため)=100万円
ロ 500万円×6%=30万円
イ+ロ=130万円
130万円×1/12=108,333円
役員に賃貸する社宅が自社所有の場合には108,333円が賃料相当額となります。
他から借り受けた住宅等を貸与する場合
一方、会社が借りている社宅の場合、以下の計算式のいずれか多い金額となります。
- 会社が家主に支払う家賃の50%の金額
- 上記で算出した賃貸料相当額
今回のケースの金額を当てはめると以下の通りです。
家賃:150,000円×50%=75,000円
賃貸料相当額:108,333円
この場合、75,000円<108,333円となるため賃料相当額は108,333円となります。
法定耐用年数が30年以下のケース
では仮に法定耐用年数が30年以下の場合にはどうなるのでしょう。
- 建物の固定資産税の課税標準額:1,000万円
- 敷地の総床面積:100㎡(法定耐用年数30年以下)
- 敷地の固定資産税の課税標準額:500万円
- 1ヶ月あたりの家賃:15万円
先ほどは総床面積が100㎡ということで小規模住宅から外れましたが、今回のケースでは法定耐用年数が30年以下ですので小規模住宅に該当します。法定耐用年数が30年以下の場合、総床面積の基準は132㎡までとなります。
小規模の住宅に該当しますので計算式は以下の通りです。
(1)10,000,000×0.2%=20,000円
(2)12円×100㎡/3.3㎡=363円
(3)5,000,000×0.22%=11,000円
(1)+(2)+(3)=31,363円
この場合、役員が会社に支払う賃料相当額は31,363円となります。
これらのケースから、小規模宅地に該当する場合に賃料相当額を大幅に抑えられることが分かります。
- 小規模宅地に該当する場合:31,363円
- 小規模宅地に該当しない場合:108,333円
役員社宅を活用した場合の節税効果
役員に対しての社宅を活用した場合、法人と個人双方に節税面でのメリットがあります。
社宅による法人としての節税効果
役員社宅を活用した場合、どのようにして節税効果がうまれるのでしょうか。役員から家賃を受け取った場合、会社としては「収入」として計上しなければなりません。しかし法人が支払う賃料は「経費」として計上できますので、この受け取った収入と支払った経費の差額部分で節税をすることができます。この差額に関しては小規模な住宅に該当する場合、実際の支払い家賃の80~90%程度と言われています。
例えば先ほどの例ですと、1ヶ月あたりの家賃は15万円、役員からの家賃としての徴収額は31,363円ですので差額の118,637円が法人として節税できる部分となります。もちろんこの金額の全額部分税金が安くなるわけではなく、税金計算のもととなる利益が減るため税金が安くなるということです。
社宅による個人としての節税
この社宅を使った方法は法人だけでなく、個人としても節税効果があります。役員は通常の給与(役員報酬)として受け取る場合、所得税が課税されます。しかしこの社宅による節税を使った場合、役員は給与を受け取るわけではありません。給与は受け取らないのですが、家賃が下がるため実質的には利益を受けることができます。
給与として受け取らないことにより
- 所得税
- 住民税
- 社会保険料
をそれぞれ節税することができます。
社宅活用による節税の注意点
社宅を活用する節税対策を考えている場合、最も注意しなければならないことは賃料相当額部分ですが、その他以下の点にも注意しましょう。
社内規定の整備
税務署からの調査などがあった場合に備え、社宅を活用する場合には事前に社内規定を整備しておきましょう。従業員の社宅に対する社内規定がある場合にも、役員に対する社宅については別途規定を定めて社内規定を保管しておきましょう。
家賃以外は本人負担
社宅で経費とすることができるのはあくまで家賃部分ですので、家賃以外に発生する水道光熱費などに関しては役員本人に負担してもらいましょう。これらの負担を会社が負担していた場合にはその負担部分は役員報酬として課税されてしまいます。
契約時の注意点
また法人として賃貸契約をする際には最初に敷金や手数料などの一時的な出費がありますので注意しましょう。また契約する前には法人契約が可能かどうかを確認しておきましょう。また事務所として契約してしまうと消費税の課税対象となってしまいますが、居住用ですと消費税は非課税ですので居住用として契約しましょう。
まとめ:役員社宅の賃料相当額の計算方法
今回の記事では役員住宅の賃料相当額の計算方法についてご紹介しました。賃料相当額は小規模住宅かそうでないか、また豪華住宅に該当するかによって金額が異なります。また小規模住宅の判断は法定耐用年数と総床面積によって変わります。小規模住宅に該当する場合には大幅な節税効果が見込めます。役員社宅を活用した節税に関して不安なことがある場合には専門の税理士か節税コンサルティングサービスにご相談ください。