減価償却が節税につながる仕組みとは

減価償却が節税につながる仕組みとは節税対策ノウハウ
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減価償却とは

まず減価償却とは一体どのようなものを指すのでしょうか。

個人や法人が建物や機械を購入した場合、その費用は全額その期の経費には入れず期間配分して徐々に経費としていきます。その際、「減価償却費」として費用計上することになります。
この期間配分を何年間で行うかというのは対象となる資産や構造によって異なり、例えば建物などの資産で鉄筋コンクリート造りの場合には47年、普通自動車は6年などとそれぞれ年数が国によって定められています。

減価償却資産に含まれるもの

ではどのようなものを購入すると「減価償却資産」に該当するのでしょうか。
減価償却をする資産に含まれるものは、事業などの業務のために用いられる建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などです。

減価償却資産に含まれないもの

一方、使用可能期間が1年未満のものまたは取得価額が10万円未満のものは、その取得に要した金額の全額を業務の用に供した年分の必要経費とします。

しかし10万円を超える場合でも取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産については、一定の要件の下でその減価償却資産の全部または特定の一部を一括し、その一括した減価償却資産の取得価額の合計額の3分の1に相当する金額をその業務の用に供した年以後3年間の各年分において必要経費に算入することができます。

また一定の要件を満たす青色申告者が、平成18年4月1日から令和2年3月31日までに取得した取得価額10万円以上30万円未満の減価償却資産については、一定の要件の下でその取得価額の合計額のうち300万円に達するまでの取得価額の合計額をその業務の用に供した年分の必要経費に算入できるという特例もあります。

減価償却を行う理由・2つの根拠

ではなぜ減価償却をする必要があるのでしょうか。減価償却を行う理由は基本的に2つの根拠に基づいています。

費用を配分し、収益と費用を正しく対応させる

購入した資産を初年度に全額経費計上してしまうと、翌年度以降は実際にその資産が稼働して収益を生み出しているにも関わらず費用計上はされずに「利益のみ」が計上されてしまいます。それでは費用と収益が対応しませんので、減価償却を行うことにより収益と、それを生み出している費用を対応させることができます。

資産評価に資産の価値減少を反映し、適正なものにする

貸借対照表上に計上されている資産は、その額を金額換算して計上する必要があります。つまり資産の価値が下がっているのであれば相応の評価にしなければなりません。
具体的には、「100万円で購入した機械の価値が90万円に下がっているなら貸借対照表上でも90万円として計上してないとおかしい」ということです。資産は購入後徐々に価値が減少しますので、資産の評価も減価償却によって同様に下げていく必要があります。

大きく分けると上記の理由により会計上、減価償却を行うことが求められています。

減価償却による節税の仕組み

減価償却費を計上することで、個人や法人としては利益を減らすことができます。税金計算は基本的に売り上げから経費を差し引いた「利益部分」に対して税率をかけられるので、経費が増えればもちろん税金は下がります。

税金の算出方法

  1. 売上−経費=利益
  2. 利益部分×税率=支払い税額

例えば100万円の売上があり、経費が50万円だった場合、

  1. 100万円−50万円=50万円
  2. 50万円×19%※=9.5万円

※法人税率19%の場合

この場合、税金の支払いは95,000円となります。

減価償却を計上した際の税金

では減価償却費を10万円計上するとどれくらい税金は変わるのでしょうか。

  1. 100万円-(50万円+10万円)=40万円
  2. 40万円×19%=7.6万円

減価償却費10万円を計上することで、19,000円(95,000円−76,000円)税金を節税することができました。
この10万円の減価償却費は耐用年数に応じて継続して経費計上することができます。

減価償却で行われる会計上の処理

会計上、減価償却を行う時にどのような処理が行われているのでしょうか。まず資産を購入した場合、会計上以下のような処理を行います。

借方貸方
建物預金
5,000万円5,000万円

この会計処理によって貸借対照表上の「資産の部」に建物5,000万円がプラスされ、同じく資産の部の預金から5,000万円がマイナスされました。

この購入した建物は期末に減価償却を行います。減価償却を行う場合には下記のように会計処理を行います。

借方貸方
減価償却費減価償却累計額
100万円100万円

借方にある減価償却費は損益計算書上の「費用の部」に計上し、貸方の減価償却累計額は貸借対照表上の資産の部に計上され、建物からマイナスします。

建物5,000万円
減価償却累計額△100万円
建物(純額)4,900万円

毎年減価償却を行うことで最終的には以下のような形になります。

建物5,000万円
減価償却累計額△4,999万円
建物(純額)1円

減価償却の特徴

減価償却費は、その他の経費と若干異なる性質を持っています。異なる部分は以下のような点です。

減価償却はキャッシュを出さない

まず、減価償却費はキャッシュを出さずに計上することができます。初年度に購入代金の支払いをして、そのあとからはキャッシュを出さずに経費を作ることができます。つまり2年目以降は、耐用年数が終了するまで会社から現金を出さずに経費を作り続けることができるのです。

減価償却は計上するタイミングを選べる

次項でも紹介しますが減価償却費は「定率法」と「定額法」という償却方法があり、どちらを選ぶかによって経費計上するペースを選ぶことができます。
例えば、前半多めに経費を作るのか、それとも一定の経費を計上するのかを償却方法により選ぶことができます。

以上が減価償却費の特徴です。減価償却を行うことでキャッシュを出さずに経費を作り、経費計上のタイミングをある程度選ぶことができます。

定額法と定率法の仕組み

減価償却には「定額法」と「定率法」の償却方法があります。定額法と定率法には以下のような違いがあります。

償却方法定額法定率法
対象資産建物機械装置
建物附属設備車両運搬具
構築物器具備品
ソフトウェア
償却額毎年一定前半多

定額法の対象となる資産には建物、建物附属設備、構築物、ソフトウェアがあり、定率法の対象となるのは機械装置、車両運搬具、器具備品となります。このうちの機械装置、車両運搬具、器具備品は税務署に届け出を提出することで定額法を選択することも可能です。

償却額について、定額法は毎年一定額を償却するのに対し、定率法は前半に多くの減価償却費を計上するという違いがあります。

定額法の計算方法

定額法で計算する場合、以下のように減価償却費の計算をおこないます。

例)取得価格100万円、耐用年数10年の資産
まず、取得価格に耐用年数10年の償却率0.1を乗じ減価償却費の額を算出します。

100万円×0.1=10万円

1年目から9年目までは毎年この10万円の減価償却費を計上し、10年目は帳簿価格から1円を差し引いた99,999円を減価償却費とします。

定額法
償却額
1年目100,000円
2〜9年目100,000円
10年目99,999円

定額法では文字通り、「定額」を毎年経費としていく形になります。

定率法の計算方法

定率法で計算する場合、以下のように減価償却費の計算をおこないます。

例)取得価格100万円、耐用年数10年の資産
耐用年数10年の償却率は0.2となりますので、100万円に0.2を乗じます。

100万円×.02=20万円

2年目から6年目は前年までの償却費の合計額に0.2を乗じて減価償却費を計上し、8年目からは改訂償却率0.25を乗じて計算します。

定率法
償却額
1年目200,000円
2〜6年目(1,000,000-前年までの償却費の合計額)×0.200
7年目65,536円
(=改定取得価格262,144円×0.250)
8〜9年目65,536円
改定取得価額×0.250
10年目65,535円
期首帳簿価額-1円 < 改定取得価額×0.250

同じ条件で定額法と定率法を比較すると、初年度の減価償却費は定額法10万円なのに対し定率法は20万円と2倍の差があり、定率法の方は特に前半に多く費用計上することができることが分かります。

減価償却で節税するためのコツ

減価償却の節税で違いが出てくるのは「償却方法」と「耐用年数」です。先ほどご紹介したように定率法を採用することにより前半に多くの経費を計上することができますし、耐用年数の長さによって償却額も変わってきます。

耐用年数に関しては資産の種類や構造によって変わってきます。また中古資産の場合には耐用年数は短くなります。
この

  • 償却方法
  • 耐用年数
  • 中古資産

の特徴を利用することにより、より節税効果を高めることも可能となります。よく4年落ちの中古車が節税になると言われますが、それはこの減価償却の特徴を利用しているためです。

減価償却による節税が向いているケース

ではどのような場合に減価償却による節税が効果的なのでしょうか。
例えば、資産を購入した期以降も継続して利益を見込めるような場合には、減価償却による節税が向いています。減価償却により購入年度以降も経費を計上することができますので、購入後も減価償却により利益を減らし税金を抑えていくことができます。

例えば、5000万円で耐用年数50年の事務所を購入した場合、50年間もの間毎年100万円経費を作り続けることができます。

5000万円×0.02※=100万円

※耐用年数50年の償却率

減価償却による節税が向いていないケース

一方で、突発的に売上が増加したようなケースでは減価償却による節税は向いていません。
具体的には、資産を購入した年は利益を大幅に出し、それ以降は赤字というようなケースです。
減価償却では購入した期以降にも継続して経費を発生させることができます。しかしそれ以降に赤字が続くような場合には減価償却による節税に効果的とは言えず、むしろそのような場合には特例を活用し「即時償却」などを使い一括で経費計上する方法を検討した方が良いでしょう。

「中小企業経営強化税制」により、要件を満たしている場合には「即時償却」を行うことができ、設備投資にかかった費用を初年度に全額損金(経費)として計上し、利益から差し引くことができます。

減価償却を行わず繰越欠損金として活用する

青色申告を行っている法人の特典として平成30年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金額からは10年間の繰越しが認められています。

つまり、法人が100万円の赤字を出した場合、その後10年間の間に法人が利益を出したとしても100万円までであれば黒字部分に対して課税されず、赤字を繰り越すことができます。
この繰越欠損金は使い切らなければ切り捨てとなります。つまり繰越欠損金100万円を使わないまま10年が経過してしまうということもあります。

減価償却は任意計上ですので、計上するかしないかはあくまでも「任意」となっています。例えば、法人に繰越欠損金が残っているような場合には減価償却を行わずに先に繰越欠損金を使うというのも一つの手です。ただし減価償却を行っていない場合には銀行などからの評価は下がりますので注意が必要です。

減価償却資産の除却で一括に経費とすることも可能

資産計上することによるもう一つのメリットは、使わなくなった資産は「除却」して一括で経費とすることができることです。この除却もタイミングも時期を選べますので利益をある程度調整し、税金の支払いを最小限に抑えることも可能です。因みのこの除却は解撤、破砕、廃棄等をしていない場合であっても、以下の条件を満たしていれば「有姿除却」することができます。

  1. その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
  2. 特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等からみて明らかなもの

減価償却による節税の注意点

減価償却での節税を検討する場合、以下の点を注意しなければなりません。

不動産の購入・売却は税率に注意

長く所有されている不動産ほど税率は低くなる

個人で不動産を購入し節税対策を検討している場合、注意しなければならないのは売却のタイミングです。1月1日時点で所有期間が5年以下であるか5年超であるかによって税率が異なり、5年以下の短期譲渡所得の場合は所得税、復興特別所得税、住民税合わせて39.63%にもなります。(長期譲渡所得の場合には20.315%)

減価償却は節税にならないという考え方もある

減価償却が経費になると言っても、その分キャッシュも会社から出ていっています。
また購入した資産はいつか税金が発生します。例えば将来その資産を売却する、譲渡する、相続するような場合、いずれの場合にも税金が発生します。
このことから税理士の方によって「減価償却は利益計上の繰り延べにすぎず節税にならない」と考える方もいます。しかしこの利益計上の繰り延べを行うことで利益を計上するタイミングをズラし、支払税額を最小限に抑えることも可能です。

まとめ:減価償却が節税につながる仕組みとは

今回の記事では減価償却による節税の仕組みについてご紹介してきました。減価償却は適正な費用配分や資産評価を行うために行われます。そして耐用年数に応じて毎期経費を計上していきますので、資産購入の翌期以降はキャッシュを出さずに継続して経費を計上し節税することができます。しかし、減価償却の対象となる資産購入は金額が大きいので注意が必要です。弊社の節税コンサルティングサービスにご相談ください。

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