節税の方法はさまざまありますが、決算期変更が効果的なケースもあることをご存じでしょうか。決算期は、1事業年度の区切りとなる最終月のことで、決算月と呼ばれることもあります。決算期は法人の場合、自由に設定できますが、設立後も変更が可能です。今回はこの記事で、どのような場合に節税効果が見込めるのか、その仕組みや決算期変更によるメリットおよび注意点についてご紹介します。
決算期変更による節税が有効なケース
期末に大きい利益が見込まれるとき
決算期変更は、期中に大きな利益が出る、あるいは見込まれるなどの場合に効果的な節税手段のひとつです。例えば決算月に大きな利益が発生することが分かった場合、そのままだと今期の利益として計上し、法人税が課されることになります。しかし、決算期を大きな利益が計上される直前で区切ることにより、発生する見込みの大きな利益は翌期に繰り延べることができます。
消費税の簡易課税選択ができる場合
消費税を納める面でも、決算期変更が節税に効果的なケースがあります。特に、売上が少なく、消費税の簡易課税選択ができる事業者の場合です。
消費税の課税方式は、利益から算出されて納める「原則課税」と、売上に対し一定の割合を経費と考え、みなし仕入れ率を適用して納める「簡易課税」があります。みなし仕入れ率は業種によって異なりますが、原則課税と簡易課税とは、好きな方式を選択できるため、少ない課税ですむほうを選べば節税につながることもあるでしょう。
ただし簡易課税は、前々年の課税売上が5,000万円以下で、簡易課税の適用を受けるための書類を事前に提出している事業者に認められています。なお、期中に簡易課税のほうが有利とわかっても、ただちに簡易課税へ移行することはできません。そこで、決算月変更と行い、簡易課税を選択する書類を提出することで、翌月から簡易課税を選択できるようにします。
簡易課税のみなし仕入れ率
- 卸売業:90%
- 小売業:80%
- 製造業:70%
- その他の事業:60%
- サービス業等:50%
- 不動産業:40%
決算期変更による節税の仕組み
決算期変更が節税になるケースとして、例をもとに仕組みを見ていきましょう。
7月 | 8月 | 9月 | |
---|---|---|---|
単月利益 | 300 | 500 | 2,000 |
累計利益 | 300 | 800 | 2,800 |
9月決算の利益 | 2,800 | ||
8月決算に変更した場合の利益 | 800 |
(※便宜上、10~6月までの利益を0、税率は30%とする)
9月決算の場合に発生する法人税等
2,800万円×30%=840万円
例年通り9月決算のままにしておくと、9月に2,000万円の利益が見込まれる分、法人税等は840万円を支払うことになります。
8月決算に変更した場合に発生する法人税等
800万円×30%=240万円
一方、決算月を1か月前倒して8月決算に変更した場合は、240万円まで抑えることができます。決算月変更により、600万円を節税できる計算となります。
決算期変更によるメリット
翌事業年度に利益の繰り延べができる
決算期変更を行うメリットのひとつは、翌事業年度に利益を繰り延べられることです。繰り延べにより、資金繰りを楽にする効果も期待できるでしょう。
事業を行っていると、売掛金の回収や、手形の現金化までに時間がかかることもあります。大きな利益が出ても、現金を回収できていない状態で確定申告等を行い、法人税等の支払いをすることになれば、資金繰りは苦しくなるでしょう。決算期変更を行い、大きな利益を翌事業年度へ繰り越せば、売掛金等の現金化まで、時間的余裕も生まれるはずです。
役員報酬の改定が行える
決算期変更は、役員報酬を見直したいときにも有効な手段です。
法人の場合、利益を圧縮する方法のひとつに役員報酬を増やす手段がありますが、むやみに高額な役員報酬を出すのは難しいのが実情です。役員報酬が高すぎると、累進課税制度によって所得税も増えるからです。
さらに役員報酬は、決算後3か月以内に金額を設定し、1年間は一律適用されるのが原則です。他の時期に増減することもできますが、差額分は損金不算入となります。全額を経費化し、利益圧縮を見込むのであれば、期中に役員報酬を変更するメリットはないでしょう。
役員報酬の増減を考える場合は、決算期変更で早めに今期を終わらせ、翌事業年度で調整するほうがいいと考えられます。
次の期までに他の節税対策を実施できる
決算期変更で大きな利益を翌事業年度に繰り延べることができれば、1年間かけて節税対策を取ることや、キャッシュフローの改善を見込むこともできるでしょう。
例えば節税対策として、中古資産の購入や、生命保険への加入、経営セーフティー共済(中小企業倒産防止共済)への加入などを検討される機会は多いようです。利益を繰り延べるだけだと、結局翌事業年度の決算で、法人税を支払うことになります。1年かけて、上手に節税対策を行いましょう。
決算期変更の手順
定款の変更
決算期変更をするには、いくつかの手順を踏む必要があります。ひとつは定款の変更です。定款は会社の基本的な規則を定めたもので、事業年度も定款によって定めています。したがって、決算期を変更する場合は定款のほうも変更しなければなりません。
臨時株主総会の開催
実際に定款を変更するには、臨時株主総会を開く必要もあります。会社法により、定款の変更には株主総会の決議が必要とされるためです。
株主総会の種類は、「普通決議」と「特別決議」とがありますが、定款変更の場合は特別決議を行います。特別決議は、普通決議より重要な事項を定める際の決議であり、議決権の過半数を有する株主が出席した上で、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が可決の判断基準です。
なお、決算期変更が可決された場合は、作成した株主総会議事録は定款とともに保管しましょう。
異動届出書の提出
株主総会で定款変更が可決され、決算期変更ができることになった場合は、税務署、都道府県税事務所、市町村役場へ「異動届出書」を提出します。提出時、株主総会の議事録の写しも添付が必要なので注意しましょう。
なお、許認可事業を営む場合は、別途届け出が必要な場合がある他、取引先や金融機関によっては伝えておくほうがいい場合もあります。ちなみに、決算期変更は登記事項ではないため、法務局へ登記申請をする必要はありません。
決算期変更による節税の注意点
法人税は例年より前倒しでの支払いに
決算期変更をすれば、今期の決算期を早めに区切るため、必然的に確定申告期限や税金の納付期限も例年より早まることになります。大きな利益の繰り延べはできても、例年より前倒しで納税のためのキャッシュが必要となるので、資金繰りに注意しましょう。
消費税が免除にならない可能性
事業規模によっては、決算期変更で消費税の免除が受けられなくなる可能性もあります。消費税の免税対象となるのは、1年度の売上が1,000万円以下且つ資本金1,000万円以下の事業者などです。例えば2年前の売上が1,000万円以下の場合や、個人事業者から法人成りした2年度までの事業者は免税事業者に該当します。
決算期変更で早めに決算期を切り上げた場合、売上が1,000万円を超えることは少ないかもしれません。ですが、短い決算期の間に多くの売上が計上されている場合は、免除にならないことがあるでしょう。また、決算期を早めに切り上げることで、本来なら2年度ある消費税の免税期間が短くなり、かえって消費税の納付額が増える可能性も考えられます。
前期との比較・経営分析が難しくなる
事業を行う上で経営分析が必要ですが、決算期変更で分析が難しくなるデメリットもあります。通常経営分析は1年単位で行うことが多いですが、決算期変更をした場合、その分を考慮する必要が出てくるからです。例年より事業年度の期間が短くなる分、前期との比較がしづらくなることもあるでしょう。
税理士費用が増える可能性も
決算期変更は、税理士報酬の支払いを増やす可能性にも注意が必要です。一般的に、毎月の支払いとは別に、決算期には決算書作成代や確定申告費用として税理士への支払いが発生することが多いでしょう。決算期変更でいつもより支払いが早まる分、資金繰りに影響が出ないよう気を付けましょう。
決算期変更の理由づけが必要
決算期変更は法律で認められており、変更回数にも制限がありません。10年に1~2回程度までなら問題にならないことが多いですが、頻繁に変えるのは避けましょう。明確な理由がなければ、税務調査で「節税目的のために頻繁に変更しているのではないか」と捉えられかねないからです。
例えば繁忙期と閑散期がある事業では、「以前に比べ売り上げが増える時期がずれたため、経営計画を立てやすいように決算月を変更した」など、理由付けできるようにしましょう。
ちなみに、決算期の変更は、12か月を超えて変更することはできません。法人税法において、一定の例外を除き、1事業年度は1年を超えることができないと定められているからです。
決算期変更は急な高額利益が生まれた場合の節税に効果的
メリットや注意点もふまえて決算期変更を
大きな利益が発生する予定があるときは、決算期変更により早めに切り上げることで、節税対策として有効です。翌事業年度に利益を繰り延べることができるので、1年間かけてほかの節税対策を取ることができるでしょう。事業者によっては、消費税の節税効果も期待できます。
決算期変更は、定款の変更のため臨時株主総会を開き、税務署などへ届け出をすることで変えることができます。ただし、決算期を早めることで、納税や税理士報酬の支払い等のタイミングも早くなるので、資金繰りには注意が必要です。
また、法律上、変更回数に制限はありませんが、高頻度で変更すると税務調査で疑われやすいので、最低限に抑えるようにしましょう。メリットと注意点を踏まえた上で、会社経営において効果的なタイミングがあれば、決算期の変更を検討してみてはいかがでしょうか。