在庫廃棄で節税対策|会計処理と税務上の注意点

在庫廃棄で節税対策|会計処理と税務上の注意点節税対策ノウハウ
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在庫廃棄による節税とは

通常、利益を算出するためには「売上」から「経費」を差し引いて算出します。税金は基本的にこの利益分に対して税率がかけられ算出されます。「在庫分」が残っていると、「利益」が増え、税金も高くなってしまいます。

どういうことかと言うと、売上原価(売れた商品の仕入れや製造にかかった費用)は

売上原価
期首棚卸+仕入-期末棚卸

で計算されます。具体的な数字で見てみると、

例)期首棚卸10万円、仕入500万円、期末棚卸20万円の場合の売上原価

100,000円+5,000,000円-200,000円=490,000円

この場合、売上原価は490,000円となります。

この例で仮に期末棚卸が50万円であった場合には売上原価はどのように変化するのでしょうか。

例)期首棚卸10万円、仕入500万円、期末棚卸50万円の場合の売上原価

100,000円+5,000,000円-500,000円=460,000円

この場合、売上原価は460,000円になります。

つまり、期末棚卸が20万円から50万円に「増える」と、売上原価は49万円から46万円に「下がり」ました。

利益はどのような形で算出されるかと言うと、売上-売上原価-販売管理費で算出されます。

利益の算出方法
売上-売上原価-販売管理費

つまり、売上原価が下がれば、利益は増えます。

例)売上が200万円、売上原価が49万円、販売管理費が50万円の場合の利益

2,000,000-490,000-500,000=1,010,000円

この場合、利益は1,010,000円となります。

先ほどの売上原価が46万円に下がった場合ですと利益は、

2,000,000-460,000-500,000=1,040,000円

利益は1,010,000から1,040,000円となります。

期末棚卸が増えることにより、売上原価が下がり、利益は増えることが分かります。

期末棚卸が増えると売上原価は減り、利益は増える

法人税は基本的に法人の「利益部分」に対して課税されますので、課税計算をする上で、商品在庫を多く抱えていると税金は高くなります。逆に在庫を廃棄することにより、期末棚卸が「減少」しますので、利益も減り税金は抑えることができます。

期末棚卸が減ると、売上原価は増え、利益は減る

商品を仕入れて販売している場合や製造して販売している場合、型落ち商品や流行遅れのものなど、全く売れる見込みがない商品を在庫として抱えていませんか?

そのような場合には、一定の条件のもと「在庫廃棄」することにより利益を減らし税金を節税することができます。

在庫廃棄として節税するための条件

では、どのような手順を踏めば「在庫廃棄」として経費に計上し、税金を節税することができるのでしょうか。在庫廃棄とし会計処理をするためには、実際に在庫を廃棄していなければなりません。

在庫を廃棄するためには処分する在庫のリストを作成し、業者や役所へ処分費用を支払い引き取ってもらうことが多いかと思います。税務調査などが行われた際には税務署に対して在庫廃棄の事実を「証明」できるものが必要となります。具体的には以下の資料が証明となります。

  • 廃棄に関する記載がある取締役会議事録
  • 廃棄棚卸資産のリスト
  • 廃棄業者への引き渡し時の写真
  • 廃棄業者からの請求書や領収証

これらの資料は税務調査があった際の税務署への提示資料となりますので保管しておきましょう。税務署としては調査の際に「廃棄の事実」の有無、「計上時期の妥当性」について確認し、詳しく調べます。

在庫廃棄のタイミング

続いて在庫廃棄のタイミングについてです。在庫廃棄はいつ、どのタイミングで行うべきなのでしょうか?

この在庫廃棄のタイミングについても税務署から指摘されやすい部分となります。例えば決算の前に廃棄をしたのか、決算の後に廃棄をしたのかによってその期の法人税の金額が大きく変わる場合もあります。

在庫廃棄のタイミングについては明確に「いつ」廃棄しなければならないというものはありませんが、在庫廃棄のタイミングが明らかな「税金逃れ」と指摘されないように注意しなければなりません。そのように指摘されないためには、社内に在庫廃棄についての規定などがあると良いでしょう。

「例えば、毎年〇月に在庫の見直しを行う」「在庫の金額が○円に達したら在庫処分を行う」という規定や、在庫処分を行うことを「株主総会」などで決議しておくことで、在庫廃棄のタイミングについての妥当性を証明することができます。

在庫廃棄による節税対策のメリット

在庫廃棄による節税対策のメリットとしては大きく分けてキャッシュを出さずに利益を減らすことができる、決算直前でも廃棄損を計上可能、商品の維持コストの削減、などがあります。

在庫廃棄がもたらす節税上のメリット

  • キャッシュを出さずに利益を減らすことができる
  • 決算直前でも廃棄損を計上可能
  • 商品の維持コストの削減

一つ一つについて解説していきます。

キャッシュが減らない節税

まず在庫廃棄による節税のメリットはキャッシュを減らさずに節税できるという部分です。例えば決算の締め直前に節税対策として

  • 保険への加入
  • 中小企業倒産防止共済
  • 修繕費の支払い
  • 物品の購入
  • 中古車の購入

などが考えられます。しかしどの節税対策についても、必ず現預金も会社から出ていってしまいます。この節税対策のための「キャッシュアウト」が逆に経営を圧迫してしまうこともあります。決算の締め月の2ヶ月後には申告期限があり、税金の支払い期限にもなります。

また決算申告を税理士事務所に依頼している場合には、税理士に対しての決算料の支払いもあります。決算時期には現預金での支払いが多くなるため、そのような時期に節税対策としてキャッシュを出してしまうと、会社を経営する上で資金繰りのリスクにもつながります。

在庫廃棄による節税の場合、使っていない在庫を処分することにより経費を作るわけですから、何かキャッシュでの支払いをすると言うわけではありません。もちろん廃棄に係る費用(処分費など)はかかりますが、「在庫分の廃棄」に関してはキャッシュを減らさずに費用として金額を参入させることができます。

決算直前でも廃棄可能

税務署から廃棄時期の妥当性についても指摘される場合もありますので、税金逃れと見られるためあまり決算直前に行うことはお勧めできませんが、決算直前でももちろん在庫を廃棄することはできます。しかし実際に廃棄するという行為が必要なので、期末日までには必ず廃棄業者に引き渡す必要があります。

その場合、「なぜこのタイミングで処分したのか」というタイミングに対しての妥当性が必要です。社内の内部ルール(在庫を何円抱えた場合には在庫廃棄する、毎年〇月に在庫を見直すなどの決まりごと)などを記録として明確に保管しておきましょう。

在庫維持コストの削減

在庫を多く抱えている場合、保管のための費用や維持コスト、人件費なども少なからずかかります。例えば在庫を補完するために会社の部屋を一室使っているだけでも本来家賃台として「数万円」は在庫のために毎月支払っていることになります。この在庫廃棄を行うことでそれらの「維持管理コスト」も削減することができるのも在庫廃棄に付随するメリットと言えます。

在庫廃棄による節税の会計処理

在庫廃棄を実際に行った場合、会計上は以下の仕訳を行います。

借方貸方
商品廃棄損商品

毎期継続して商品廃棄損が発生するという業種でない場合、決算書上この「商品廃棄損」は通常、「営業外費用」や「特別損失」のくくりの中に計上します。特に金額が大きい場合などには「特別損失」として処理します。

営業外費用毎年のように計上される
特別損失通常発生しないもの

棚卸評価損と商品廃棄損

在庫廃棄に近い処理として、「商品評価損」という会計処理もあります。この商品評価損と廃棄損はどのような違いがあるのでしょうか。

商品評価損は商品を購入した時の原価よりも決算時点における時価(正味売却価額)の方が低くなっている場合に商品の帳簿価額を時価まで切り下げる(時価に評価替えする)処理のことを言います。会計処理としては以下の通りです。

借方貸方
商品評価損商品

ただし、この商品評価損という処理は税務署としては嫌っており「税務上」は原則損金として基本的には認められません。

「自己の所有する資産を評価減した場合には、原則としてその減額した金額は、所得の計算上損金に算入しない(法33①)」

税務上、損金として認めないとはどういうことかと言うと、税務上の損金=会計上の費用と言うわけではなく、会計上は「費用」と認められていても税務上「損金」と認められないものもあります。

そして税金計算は税務上の収益(益金)から費用(損金)を差し引いたものに対して計算しますので、会計上費用として認められていても税務上損金として認められていなければ節税対策にはなりません。

ポイント:会計上の費用≠税務上の損金

評価損に関しては原則損金には参入できませんが、以下のような場合には損金として計上することができます。

1. いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが既往の実績その他の事情に照らして明らかであること。

2. 当該商品と用途の面ではおおむね同様のものであるが、型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売されたことにより、当該商品につき今後通常の方法により販売することができないようになったこと。

逆に、

棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、令第68条第1項第1号《棚卸資産の評価損の計上ができる事実》に掲げる事実に該当しない

とされています。

参考リンク:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_01_02.htm

棚卸資産の評価損についてはグレーな部分が多く税務署からも指摘されやすい部分となります。しかし一方で「商品廃棄損」については商品の廃棄という明白な事実があるため、商品評価損と比べ損金として計上しやすいというメリットがあります。

在庫処理で現金化できるものがないか

在庫を廃棄して節税する場合、まず在庫処理で現金化できるものがないかも検討しましょう。在庫処分としての売却価格が取得した原価と同等である、または売却することで赤字になるとしても、もし売却できるのであれば全くゼロであるよりかは企業にとってプラスになります。

売却ができた場合、帳簿価格と売却代金の差額は会計上もちろん「雑収入」として処理するので利益がプラスされます。しかし手元に資金を残すことができるので、その他の在庫処理のための資金を作ることができるなどメリットも多くありますので、まず在庫処分する際には現金化を検討しましょう。

在庫を従業員に支給する場合

その他、在庫を廃棄せずに安価で従業員に支給する場合もあるかと思います。そのような場合には「現物給与」とみなされ、在庫支給分は従業員への給与となります。現物給与は従業員への給与ですので、従業員は源泉所得税を負担することになります。

在庫廃棄による節税の税務上の注意点

在庫廃棄の記録を残しておく

「棚卸」部分は税務署が目をつけやすい部分です。もちろん税務調査でも優先的に見られる項目となります。その理由としては、棚卸資産は金額が大きくなる場合が多く、その金額が課税所得に直結することが挙げられます。

決算申告の際に税務署に提出する「内訳書」には棚卸資産の内訳を記載する部分があり、そこには棚卸資産の種類(商品又は製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵品、作業くず、副産物等)、棚卸を行なった日時を記載します。

税務署はこの棚卸部分を金額的な妥当性などを総合的に確認し、確認が必要な場合には税務調査を行います。税務調査での対策としては、先ほどの節税するための条件でご紹介したように、

  1. 廃棄に関する記載がある取締役会議事録
  2. 廃棄棚卸資産のリスト
  3. 廃棄業者への引き渡し時の写真
  4. 廃棄業者からの請求書や領収証

これらの記録は取っておき、廃棄の事実を証明できるように準備しておきましょう。税務署は実際に当該棚卸商品が期末までに廃棄されたかどうかを確認するため、その商品を廃棄した理由を聞き取り、その後、廃棄業者から受領した原始記録や社内稟議書など廃棄の事実が明らかとなる資料から、計上の妥当性を検討します。

在庫処分が決算日までに完了しているように

在庫処分費として処理するためには決算日までに実際に処分が完了していなければなりません。節税対策として在庫処分をする際には時間に余裕を持って在庫処分を行いましょう。

万が一決算日に処分が間に合わず在庫が残っているような場合には、会計上も在庫として残しておかなければならず、在庫処分費として費用計上することはできません。

まとめ|在庫廃棄で節税対策|会計処理と税務上の注意点

今回の記事では在庫廃棄による節税対策、そして会計処理と税務上の注意点についてご紹介しました。在庫廃棄することにより期末の棚卸資産が減少し、利益を減らすことができ、そのことにより税金を抑えることができます。在庫廃棄による節税は

  • キャッシュが減らない
  • 決算の直前の節税が可能
  • 維持管理コストの削減

と言うメリットがあります。

しかしこの棚卸に係る節税については金額が大きい、ある程度利益を調整できる部分であるため税務署からも目を付けられやすい項目です。

対策として廃棄の事実」、「計上時期の妥当性」についての証明が出来る資料を記録として取っておきましょう。在庫廃棄による節税にご興味がある方は節税に精通した弊社のコンサルティングサービスにご相談ください。

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