資格取得費用や研修費用は会社の経費になるのか、判断に迷う経営者も多いのではないでしょうか。経費にはできるもの、できないものがあり、資格取得費用や研修費用も条件を満たさないと認められないようです。今回は、どんな費用なら経費化できるのか、条件やポイントなどについてご紹介します。
資格取得費用や研修費用の経費処理方法
資格取得費用は会社負担でも給与扱いに
原則として、社員の研修費用や資格取得費用を会社や事業主が負担した場合は、給与扱いとなります。資格取得や研修を受けることは、社員個人にとっての利益だからです。給与扱いだと会社は源泉徴収する必要があり、社員にとっては源泉所得税や住民税などが発生するので、注意が必要です。
役員の場合は給与扱いにできないことも
役員が資格取得や研修を受けた場合の費用は、給与として経費にすることはできません。役員の給料は、毎月決まった金額分しか会社の経費として認められないからです。ただし、社員と同じく、資格取得や研修を受けること自体は個人に対する利益なので、源泉所得税と住民税は課税されます。
資格取得費用の一部補助も給与として扱われる
会社によっては資格取得費用や研修費用の一部を負担する、補助制度を設けていることもあるでしょう。補助制度により、会社が一部資格取得費用や研修費用を負担する場合も、給与として扱います。会社が行う補助によって、資格取得費用や研修費用に使われたかを後から確認するのは難しいからです。
経費にできる資格取得費用、研修費用
業務上必要であれば「研修費」等で経費処理可
社員の資格取得や研修等は基本的に給与扱いとなりますが、条件を満たせば経費計上が可能です。資格取得費用や研修費用を経費にする条件は、「業務上必要な知識や技能であり、事業の売上に結び付く」ことです。業務上必要というのは、その資格や免許、知識、技術がないと仕事ができない場合をいいます。
勘定科目は、研修費を使って処理するのが一般的です。会社によっては研修費以外に教育訓練費、教育研修費、採用教育費などの勘定科目を使うこともあります。なお、給与ではなく研修費等で処理できる場合、対象者は源泉所得税や住民税の負担がなくなります。
英会話教室
研修費等で経費計上できる例のひとつが、英会話教室やオンライン英会話などの費用です。仕事をする中で、外国人とやり取りをする機会や商談の機会がある、出張で英語を話す必要があるなどの理由で英会話教室に通う費用は経費になるでしょう。英語を話し、円滑なコミュニケーションを取れば商談成立に近づくことや、顧客の満足度アップなどにつながり、売上にも結び付くはずだからです。
実際のやり取りがない場合でも、今後事業を拡大する上で英語が必要な状況であれば、経費として認められやすいです。例えばホームページなどで海外に向け、英語で商品やサービスの情報を発信している場合は、事業にとって英語が必要といえる状況といえるからです。現代はビジネスで英語を必要とする機会も多いため、理由さえあれば経費化し節税できる可能性があるでしょう。
調理師免許
飲食店であれば、調理師免許の資格取得や研修費用が経費に認められやすいです。調理師免許は飲食店開業に必須の資格ではないものの、資格者がいることはお店にとって一定の信頼獲得につながるからです。さらに、免許を取得するために知識や技術を深めることによって、お店全体の質の向上にもつながるでしょう。
運転免許取得費用
運転免許の取得費用も運送業など、車の運転を必要とする事業を行っていれば経費として認められやすいです。運転免許の資格が営業や売上につながっているからです。
ただし、毎日のように車を使ってビジネスをするから経費にできるのであって、月に数回程度の運転では経費になりません。あまり車を使わないのに免許の取得費用を経費に計上しても、税務調査では認められないでしょう。
特殊免許取得費用
建設業やタクシー会社などでは、特殊車両運転免許や第二種運転免許が必要です。特定の車種でしか利用することがない運転免許の場合は、資格取得費用も経費と認められやすいです。明らかにビジネスで必要だと分かるからです。会社によっては資格取得費用を会社で全額負担し、求人に応募してきた人が無償で取得できるようにしていることもあります。
パソコン講座
パソコン講座の受講費用や、ワード、エクセルなどの資格取得費用なども経費にできる可能性が高いです。パソコン作業は多くの事業で必要不可欠だからです。
確定申告や税金対策に関する研修、セミナー
確定申告の研修や、税金対策のセミナーなども経費計上が可能です。事業を行う以上確定申告は欠かすことができませんし、税金も関係性が深いものだからです。税務に関するセミナーや研修に参加することは、節税に対する知識を深める機会にもなるかもしれません。
報奨金規定は全社員が対象であれば経費算入可
資格取得費用や研修費用を経費にするには、会社で報奨金規定をつくるのもひとつです。全社員が対象であれば経費算入ができるからです。報奨金は課税対象ではないため、受け取る社員や役員などにとってもメリットがあります。
不動産会社における宅地建物取引士取得による手当支給
報奨金規定は不動産会社で設けられていることが多いです。不動産事業を行うには、宅地建物取引士の資格取得者がいなければなりません。当然、資格取得者が多い方が会社にとっては有利です。そこで会社側で報奨金規定を設け、資格取得者に報奨金を支給するケースが多いです。
経費にならない資格取得費用、研修費用
現在の業務に関係しない資格、研修費用
経費になる資格取得費用、研修費用がある一方、事業に関連性がない資格や研修はいくら取得したり参加したりしても経費にはなりません。判断に迷ったときは、現時点での事業、業務内容に関係するかを基準に考えましょう。
自己啓発セミナーなど個人的な資格、研修費用
経費にならない資格取得費用、研修費用のひとつは、社員が個人的に取得した資格や参加した研修の費用で、事業とは関係性がないものです。例えば、自己啓発セミナーの参加費なども経費にはならないでしょう。
また、運送業で働く社員でも、事務職で通常社用車の運転をする機会もない社員が、特殊免許の資格を取得したからといって費用を経費にするのは難しいです。
本業ではない事業立ち上げに関する研修代
経営者の場合も、本業ではない事業立ち上げのため参加するセミナーや、研修費用は経費にならない可能性があります。
例えば、現在不動産業を営んでいるのに、調理師免許の資格を取得したからといって、経費として認められる可能性は低いです。現時点で事業と関係あるかが重要だからです。「今後飲食業をはじめるつもり」と説明しても、税務調査で認められるのは難しいです。
ただし、事業立ち上げの段階によっては経費になる場合もあります。まだ事業を始めるか未定で情報収集をしているだけの状況であれば「本業ではないセミナーや研修に参加しているだけ」とみなされ、経費はするのは難しいです。しかし、すでに飲食業を始めるための準備を進めていれば、「事業に関連性がある」と判断され、経費に認められる可能性もあります。
スキルアップのための研修・セミナー費用
たとえスキルアップのために資格を取得したり、研修を受けたりする場合でも、事業と関連性がない、あるいは合理的な理由が説明できなければ経費にするのは難しいです。個人的な資格取得と判断されるからです。
例えば、個人事業主の場合、税金や節税の知識を得るために簿記やFP資格を取得しても、経費に認められないことがあります。個人事業主は受講するのが事業主「本人」なので、個人的なスキルを高めるために取得したと判断される可能性があるからです。
会社の制度次第で経費になるかはケースバイケース
個人事業主の場合は経費にするのが難しい場合でも、会社なら経費化できる場合もあります。個人事業主は資格取得や研修参加を決めるのを、個人事業主「本人」が主体となって行います。あくまで個人が主体となって決めるため、事業関連性が薄いといわれる可能性があります。
ですが会社の場合、決定するのは本人ではなく「会社(第三者)」です。会社が制度を設けて資格取得や研修への参加を勧め、費用補助を行うなら、事業に関連性があると説明しやすいでしょう。実際、会社にとっては資格取得者が増えれば、業務の幅が広がり、売上にもつながるはずです。会社で制度を整えることで、マーケティングやMBAなどスキルアップを目的とするビジネスセミナーの費用も、事業と関連性があると主張しやすくなるでしょう。
資格取得費用を経費にするときの注意点
業務に必要だと証明する資料を残しておく
資格取得費用や研修費用は、資料をしっかり残しておくことが大切です。たとえ経費になるとわかっていても、客観的な証拠は必要だからです。万が一税務調査が入っても、「業務に必要な資格・研修」であると説明できるよう、内容が分かるパンフレットや資料は残しておきましょう。
事業に関する資格取得費用や研修費用は経費算入できる
会社で必要な資格は報奨金規定等を活用して経費化を
社員や役員の資格取得費用や研修費用は、原則として給与扱いになりますが、事業と関連性があれば経費算入が可能です。判断基準は、資格を取得したり、研修を受けたりすることで事業の売上に直結するかどうかです。事業と関連性がない場合は、個人的な資格取得や、研修費用と判断され、経費として認められない可能性が高いので注意しましょう。
特に個人事業主の場合は、資格取得や研修を受けることを決めるのが事業主「本人」なので、スキルアップのためであっても、経費にするのが難しい場合があります。社員や役員も、個人的な資格取得や研修と判断されると、会社が費用負担していても、給与とみなされるので注意しましょう。
ただし、会社で報奨金制度を設けている場合は、経費となる場合もあります。全社員が対象であれば、経費算入できる場合もあるでしょう。社員のスキルアップを後押しし、会社全体の成長につなげるためにも、報奨金制度を設けるのは有効な手段と考えられます。資格取得の費用は高額になることもあるので、できれば経費算入したいところです。判断に迷ったときは事前に税理士や税務署などに相談しながら上手に経費化をしていきましょう。