短期前払費用の特例を節税に活用! 活用方法やメリット、注意点

短期前払費用の特例を節税に活用! 活用方法やメリット、注意点経費で節税する
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節税対策にはさまざまな方法がありますが、短期前払費用の特例は決算前にも使える節税方法のひとつです。ただ、特例を活用するには継続的にサービスを受けているなど、一定の要件を満たす必要があり、どんな場合でも損金算入できるわけではありません。今回は、短期前払費用の概要や損金算入が認められる条件や費用の種類、特例を活用する際の注意点などについてご紹介します。

短期前払費用の特例とは?

前払費用とは

短期前払費用の特例による節税方法を行う前に、前払費用について押さえておきましょう。

前払費用とは、

法人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの

を指します。
国税庁「No.5380 短期前払費用として損金算入ができる場合」より引用

家賃・保険料・リース料も前払費用

継続してサービスを受けるものには家賃や保険料、リース料などが挙げられますが、通常月末に来月分を支払うのが一般的です。サービスの提供を受けるために前払いした分の費用が、「前払費用」となります。
前払費用の会計処理は、原則として支出した時は資産に計上し、役務の提供を受けた時点で損金算入することになります。したがって、支払った時点では費用に計上することはできません。

しかし、企業会計原則における重要性の原則では、「重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも、正規の簿記の原則に従った処理として認められる」とされています。

前払費用を厳密に経理処理するとなると、事務作業も煩雑になりやすいです。
そこで、例外として一定要件を満たす場合は、支払った時点で損金算入が認める、「短期前払費用の特例」が設けられました。

前渡金(前払金)との混同に注意

前払費用と似た勘定科目に前渡金(前払金)がありますが、両者の区別はしっかりつけておきたいところです。

まず、前払費用は継続的なサービスの提供に対して行う前払いのときに使用する勘定科目です。

一方、前渡金(前払金)は一時的なサービスの提供や商品代、仕入れ代、材料費、諸経費などに対する前払いに使用します。

例えば、商品代を前払いした時点でまだ商品が納品されていないときは、前渡金(前払金)を使用します。混同しないよう気を付けましょう。

前払費用の損金算入が認められる条件

前払費用のうち、短期前払費用として損金算入が認められる主な要件は、下記の通りです。

  • 一定の契約に従い、等質・等量のサービスの提供を継続的に受けるものであること。
  • 支払日から1年以内にサービスの提供を受けるものであること。
  • 毎事業年度、継続して同様の経理処理を行うこと
  • 重要性の原則を逸脱しない費用であること
  • 収益に直接対応しない費用であること
  • 当該事業年度中に支払いが済んでいること

1年以内にサービスの提供を受けるもの

短期前払費用の特例のポイントは、支払った期に損金算入できるのは、支払日から1年以内にサービスの提供を受けるものであることです。例えば3月決算の会社で、3月に4月分から翌3月分までの1年分を支払った場合は、短期前払費用が適用されます。

支払った金額をその事業年度内に損金算入していること

支払った金額が、その事業年度内に損金算入されていることも、短期前払費用の特例を活用する重要なポイントです。現実に対価として支払う必要があるため、未払い計上で決算後に支払っても認められません。

短期前払費用の特例を節税に活用するメリット

短期前払費用の特例は支払った時点で経費化できるので、当期中に支払った翌事業年度1年分の費用を当期の費用として計上できるのがメリットです。例えば、期末に翌事業年度の1年分を前払いすれば、その事業年度は当期分と合わせて2年分が経費化でき、節税効果が期待できるでしょう。

決算期前でも節税対策として活用しやすい

短期前払費用の特例は、費用を支払うだけで事前準備の必要がないのもメリットといえます。契約書があり、毎月継続して支払う費用であれば、利益が出そうと分かった時点で節税対策として活用することができるでしょう。例えば決算ギリギリに利益が出ることが分かった場合でも、期末までに月払いの契約を年払いに変更すれば、翌事業年度分の前払いができるので、節税につなげられるはずです。

短期前払費用の特例に該当する費用の種類

短期前払費用の特例が適用されるには、継続してサービスを受け、前払いする費用である必要があります。下記の費用については、短期前払費用として認められる可能性が高いでしょう。

  • 地代家賃
  • 生命保険料
  • リース料
  • 月払いの会費
  • 工業所有権の使用料
  • サーバー代
  • 支払利息

短期前払費用の特例を使って節税対策するときの注意点

1年分の前払いを毎年継続する必要がある

短期前払費用の特例は節税対策として有効ですが、毎年継続できるかどうか十分検討することが大切です。
特例が適用されるには1年分の前払いを毎年継続することが要件となっており、一旦短期前払費用として損金算入すれば、少なくとも3年程度は継続する必要があるからです。「今期は年払いして経費計上し、翌期は赤字だから計上せず月払いに戻そう」というのは認められません。

無理に支出した金額を短期前払費用として損金に算入すると、後々の資金繰りが苦しくなるリスクも考えられます。当期だけの利益だと分かっている場合は、慎重に判断するほうがおすすめです。

短期前払費用の特例が適用されないケース

短期前払費用に該当する可能性が高い費用はさまざまありますが、同じ費用でも状況によっては特例が適用されないケースもあります。どのような場合に適用が認められないかについても、押さえておきましょう。

1年を超える前払費用を支払ったとき

短期前払費用の特例は、1年以内にサービスを提供されるものが適用要件であるため、1年を超える前払費用については特例の適用が認められません。例えば3月決算の会社で事務所の家賃を前払いする場合、2月に4月分から翌年3月分を支払うと、支払った時期から1年を超える期間を対象とする前払費用になるため、短期前払費用の特例は適用されません。

貸主の了承を得ない前払費用

支払いを前払いする際は、貸主の了承が必要です。もともと月払い契約を結んでいる場合で、貸主の了承を得ず、契約書の変更もしないまま1年分を前払いしても、短期前払費用の特例は適用されないので注意しましょう。特例を適用されるには、事前に貸主の了承を得て、月払い契約から年払い契約に変更しておく必要があります。

転貸(又貸し)して収益を得ている場合

マンションやビル等を借りて家賃を支払っているとしても、転貸(又貸し)して賃貸料収入を得ている場合は、支払う家賃を短期前払費用の特例で活用することはできません。転貸(又貸し)で得ている収入は、収益に直接対応する費用とみなされるからです。

税理士報酬を1年分前払いした場合

顧問税理士の報酬も継続して毎月支払うことが多い費用ですが、1年分を前払いしても原則として短期前払費用の特例は受けられません。税理士が提供するサービスは、適用要件のひとつである等質・等量のサービスとはいえないからです。したがって、たとえ期末直前に1年分を前払いしても、節税対策につなげることは難しいでしょう。

期間限定のCM等の広告宣伝費の前払費用

期間限定のテレビCMの放映料雑誌広告掲載料についても、前払費用を短期前払費用として計上できないのが一般的です。期間限定のCM放送料や雑誌広告掲載料は、適用要件にある等質・等量のサービスの提供を継続的に受けるものとはいえないためです。

ある程度のキャッシュアウトを伴う

1年分を先に支払うことで身動きが取りづらくなる場合も

短期前払費用の特例を節税に活用するには、実際にお金を支払う必要があることも意識したいところです。前払いとはいえ、1年分の経費をまとめて支払うとなると、会社からまとまった額を支払うことになります。資金繰り状況によっては負担になることもあるでしょう。

さらに、一旦前払いすると、他のサービスの提供を受けたいと思ったとき、身動きが取りづらくなる可能性もあります。例えば別のテナントを借りたい場合や、他の保険に入りたいときなどは、1年分を支払っている状態だとすぐに動くことができないでしょう。節税効果だけにとらわれて、会社の経営状況に悪影響が出ないよう、短期前払費用の特例を活用するかどうかは、十分検討することが大切です。

短期前払費用の特例は継続した節税対策には向かない

短期前払費用の特例は、毎年継続して節税効果が得られるわけではないことも留意したいポイントです。

確かに初年度は、期末に翌事業年度分の費用を支払うことで2事業年度分の経費化ができ節税につながるでしょう。しかし、元々翌事業年度の経費になるはずだった費用を当期に前払いするだけなので、税金面で考えると本来支払うはずだった税金の支払いを、先延ばしにしたに過ぎないといえます。

また、翌事業年度以降は、通常の1年分の費用の支払いが続くことになるので、原則的な処理と変わらず、節税面でのメリットもなくなるでしょう。経営状況によっては、継続適用が求められる分、まとまったキャッシュアウトを伴うことで負担となる可能性もあります。

短期前払費用の特例を適用する際は、永久に続く節税対策でないことを理解し、初年度に得られる節税効果だけでなく、継続して費用を支払えるかについても検討しましょう。

短期前払費用の特例は決算期前にも活用できる節税対策

資金繰りも考慮して上手に節税対策として活用を

短期前払費用は、前払費用のうち、重要性の乏しいものについては簡便な処理を認めるとする特例です。短期前払費用の特例を適用すれば、支出時の損金算入ができるようになるため、期末に翌事業年度の1年分の費用を支払えば、節税につながるでしょう。さらに、事前準備の必要がない分、決算期前でも節税対策として活用が可能です。

ただし、短期前払費用の適用には、一定の要件を満たす必要があります。特に、一度短期前払費用の特例を適用すると、翌事業年度以降も継続しなければなりません。後々、会社の状況によっては資金繰りが苦しくなる可能性もあるため、適用するかどうかは顧問税理士や専門家と相談しながら検討されることをおすすめします。

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