三大疾病の生前給付保険は法人契約することで節税対策に

三大疾病の生前給付保険は法人契約することで節税対策に保険で節税する
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保険には就業不能や三大疾病などで就業が難しくなることへの備えとして「生前給付保険」というものがあります。この生前給付保険は特定の病気にかかったり、要介護状態になったりしたときに一時金が支払われるものですが、法人として加入することもできます。
生前給付保険は経営者が動けなくなった時の備えだけでなく「節税対策」として活用されることもあります。今回の記事ではで節税対策としての三大疾病の生前給付保険の活用方法についてご紹介します。

生前給付保険とは

生前給付保険とは、ガン・急性心筋梗塞・脳卒中などの三大疾病により特定の疾病になった場合に、生存中にまとまった保険金を受け取ることができるものをいいます。
保険の種類には大きく分けて、

  • 死亡保険
  • 生存保険
  • 生死混合保険

がありますが、近年ではそれに加え「がん・急性心筋梗塞・脳卒中」などに対する

  • 生前給付保険

などの商品も注目を集めています。

これらの三大疾病になると基本的に就労不能となることが多く、従業員、会社役員のそのような就労不能状態が長く続くと会社としても大きなリスクとなります。生前給付保険を活用するにより一時金を受け取ることで法人としてもリスクを回避することができます。

三大疾病の生前給付保険は法人契約することも可能

この三大疾病の生前給付保険は「法人契約」が可能です。法人として契約することにより、保険料に関してはもちろん法人で支払うことができます。

また実際に三大疾病の状態となった時には法人として保険金を受け取ることとなります。(若しくは受取人を個人と設定することも可能です。)

法人契約することで、役員や従業員へ保険の保証を提供することができるため「福利厚生」の一環として、また経費処理することで法人税を抑え、「節税対策」としての効果も期待できました。

2019年の国税庁方針の変更で、保険の節税効果は限定的に

「できました」と過去形としているのは、法人の節税対策としての利用ケースが増加していたことから、2019年に国税庁によるメスが入り、保険を活用した節税に厳しい制限が設けられたためです。
法人による生前給付保険の活用方法・考え方と合わせて、記事終盤でこの制限についても解説していきます。

三大疾病の生前給付保険を法人契約した際の経理処理

三大疾病の生前給付保険を法人として契約した際、どのような経理処理を行えばよいのでしょうか。
保険料支払い時、保険料受取時の経理処理をそれぞれ確認してみましょう。

保険料支払い時の経理処理

保険料支払い時には、定期保険料として経費に計上する場合と、前払い保険料として資産計上する方法があります。
保険の種類によっても異なりますが、支払時期の前半には前払い保険料と計上し、支払時期の後半ではその前払い保険料を相殺して経費計上していくという形もあります。

定期保険として処理する場合には法人の「経費」となりますので法人税の支払額を下げる働きがあります。
前払い保険料として処理した場合、前払い保険料は法人の「資産」項目ですので経費にはなりません。

それぞれ仕訳処理としては以下のように行います。

保険契約前半に定期保険料として10万円の支払いを経費にした場合の仕訳処理
借方貸方
科目金額科目金額
定期保険料100,000現金・預金100,000
保険契約中盤に前払い保険料として5万円、定期保険料として5万円の支払いを経費にした場合の仕訳処理
借方貸方
科目金額科目金額
前払い保険料50,000現金・預金100,000
定期保険料50,000
保険契約後半に前払い保険料として10万円の支払いを経費にした場合の仕訳処理
借方貸方
科目金額科目金額
前払い保険料100,000現金・預金100,000

同じ金額の支払いをしていても支払の期間によって処理方法が異なる場合もあるため注意が必要です。
税金関係の部分ですと前払い保険料として処理している際には経費となりませんが、この前払い保険料を取り崩した際に法人は経費として計上することができます。

保険料受取時の経理処理

では保険料受取時にはどのような経理処理を行えばよいのでしょうか。

受取時の経理処理は、支払時にどのような処理を行っていたかによって異なります。
定期保険料として経費に計上していた場合、受取時は「雑収入」として法人の収入に計上します。
前払い保険料として資産計上していた場合、受取時には資産の減少処理を行う形となります。それぞれ仕訳処理としては以下のように行います。

前払い保険料として処理していた場合の仕訳処理

借方

貸方

科目金額科目金額
現金・預金100,000前払い保険料100,000
定期保険料として処理していた場合の仕訳処理
借方貸方
科目金額科目金額
現金・預金100,000雑収入100,000

雑収入として計上した場合、法人の利益が増えますのでその分法人税が高くなります。
一方、前払い保険料を取り崩した際には特に法人の利益は変わりません。

個人が受け取る保険金は非課税

法人ではなく個人として保険金を受け取る場合には、基本的には非課税とされています。国税庁では「所得補償保険の保険金を受け取ったとき」の税金については以下のように判断しています。

いわゆる所得補償保険とは、被保険者が病気やけがにより勤務又は業務に従事することができなかった期間の給与又は収益の補てんとして保険金を支払う損害保険契約のことです。
このような所得補償保険の保険金は、身体の傷害に基因して支払を受ける保険金に該当するので非課税とされています。なお、事業主が自己を被保険者とした所得補償保険の保険料を支払ったとしても、その保険料は家事費であり「業務について生じた費用」とはいえませんので、所得の金額の計算上必要経費に算入することはできません。
No.1760 所得補償保険の保険金を受け取ったとき

ただしこの場合、保険料の支払い部分に関しても個人として経費とすることはできません。
基本的な考え方としては、経費として処理していたものは受取時に所得に、経費として計上していなかったのであれば受取時にも収入としないという考え方があります。

法人から保険金を受け取った場合の税金

保険を活用した一つの方法として、これまで法人として一定期間払い込んだ保険を退職などの際に個人に名義変更させることで医療保障をプレゼントするというような形がこれまで多くとられてきました。
この際、受け取る個人は「解約返戻金」部分を所得として計上しなければなりませんが、解約返戻金がゼロの場合には実質タダで保証を受け取ることができます。
また若干返戻金があるとしても、退職金控除と相殺されることがほとんどです。

生前給付保険を法人契約することによる節税対策

生前給付保険を法人契約することで、どのような節税ができるのでしょうか。

実際保険料を支払った際には経費として処理することができますが、解約や満期により保険金が入ると法人としては収入に計上しなければならず、その分税金は課税されてしまいます。
経費として処理できても保険金が入るときに収入を計上しなければならないので、一件節税効果が無いように思えますが、生命保険金は退職金などと組み合わせることで大きな節税効果を生みます。

受け取った保険金収入は退職金と相殺

ではどのようにして生前給付保険を退職金などと組み合わせて節税することができるのでしょうか。

法人として受け取った保険金を原資として役員や従業員に退職金を支払えば、退職金は経費となりますので保険金の収入を相殺し、利益が抑えられて税金が安くなります。いわゆる、保険収入と退職金を「相殺」する方法です。

退職金控除により個人の課税を低く

税金は所得に対して課税されるため、この所得が低くなればなるほど税金は安くなります。退職所得の金額は、

(収入金額(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除額)× 1/2

の算式で計算します。

ここでいう退職所得控除額は勤続年数によって異なり、勤続年数が長くなるほど控除額も多くなります。
さらにその額を1/2にしたものに対して税率が掛けられます。

勤続年数(=A)

退職所得控除額
20年以下

40万円 × A
(80万円に満たない場合には、80万円)

20年超800万円 + 70万円 × (A – 20年)

この退職所得控除が非常に大きいので、退職金として受け取った保険金にほぼ税金を掛けずに受け取るということが可能な場合もあります。

生前給付保険による課税の繰り延べを使った節税対策

このように、生前給付保険を使うことにより現在支払わなければならない税金を将来に繰り延べることができ、課税のタイミングをコントロールすることができます。
先ほどご紹介した退職金に関しては特に期間が経過すればするほど控除額も大きくなるものですので、保険を活用し課税を繰り延べることで退職所得控除額も増やしていくことができます。
また法人が大きな赤字を出している時に解約することでも赤字と収入を相殺することもできます。

つまり保険を活用することにより、課税の時期を選ぶことができるので間接的な節税効果を作ることができるのです。

決算直前の節税対策として有効

また通常、決算直前に慌てて資産などを購入したとしても支払額がまるまる経費計上されることはなく、耐用年数で按分し、さらにその期で使用した期間で按分しなければなりません。例えば決算直前に購入した場合には1ヶ月の使用しか認められず、1/12で按分しなければなりません。

しかし保険商品に関しては決算直前の支払いだとしても支払額(損金割合部分)を経費とすることが出来、期間按分をする必要はありません。
ただし、保険商品によっては事前の健康診断などが必要となるため、ある低程度の時間的余裕が必要となりますので注意しましょう。

保険を活用した節税対策にメス

しかし、2019年にこのような保険を活用した節税対策にメスが入りました。

2019年2月に国税庁から生命保険会社各社に対して従来通り節税保険を全額損金算入できないという方針が伝えられ、同じ年の7月上旬に、死亡定期保険の新制度の詳細が明らかになり全額損金の保険商品に対して非常に厳しい条件が課せられました。

変更点については以下の通りとなります。

最高解約返戻率損金の割合
50%以下全額損金
50%超70%以下契約期間の当初4割まで60%を損金
70%超85%以下契約期間の当初4割まで40%を損金
85%超当初10年間 保険料×最高解約返戻率×0.1 を損金

これまでの保険商品について遡って否認されることはないものの、全額損金となるのは最高解約返戻率が50%以下のものだけとなり、解約返礼率が高いものは損金として認められる金額も大幅に制限されてしまいました。

利益の繰り延べ効果が薄くなった節税保険

この改正によって

  • 全額損金の保険に関しては将来の返戻率も低い
  • 返戻率が高い商品に関しては損金算入の率も低い

こととなり、保険を活用する節税対策でのこれまでのメリットがほとんど生まれなくなってしまいました。

また今回の改正によっても「保険期間が3年未満」であれば全額損金も認められていますが仮に3年間課税を繰り延べたとしても、節税効果はあまり期待できません。

節税対策となる医療保険にもメス

この一連の生命保険に関する規定と合わせて、医療保険にも一部メスが入る形となりました。

医療保険に対しての規制としては、

一被保険者あたりの年間保険料が30万円を超える部分に関しては損金算入を認めない。

というものです。

30万円までの部分に関しては全額経費として認められますがそれ以上分に関しては認められなくなりました。
医療保険に関してもこの年30万円(月2.5万円)という上限により節税という側面での利用は非常に厳しくなっています。

ただし、この制限はあくまで一被保険者当たり30万円ですので、例えば複数加入している場合は、それぞれの被保険者に対して30万円までは損金とすることができます。
しかしこの30万円というのは保険会社や保険契約にかかわらず、全ての保険の合計となりますので注意が必要です。

まとめ:三大疾病の生前給付保険は法人契約することで節税対策に

三大疾病の生前給付保険は法人契約することで節税対策につながることもあります。保険を活用すると利益を繰り延べることができます。その性質を利用して退職金などと組み合わせることで節税につながりました。しかし近年の改正により節税を目的とした生前保険の活用は厳しくなっているのが現状です。

保険を活用した節税をお考えの場合には、専門の税理士や節税コンサルティングサービスによくご相談ください。

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