給料や退職金を現物支給することが節税になる理由
なぜ現物支給を行うことが節税に繋がるのでしょうか?それは税務上の「評価額」に理由があります。
例えば現金で1,000,000円社員に支給した場合、評価額はもちろん1,000,000円のままです。つまり所得税、住民税はこの1,000,000円部分(厳密には所得控除を差し引いた「課税所得」)に対して課税されます。
しかしこの支給を「現物」にした場合、実際は1,000,000円の価値があるにも関わらず税務上は600,000円として評価してくれるような場合もあるのです。
個人側としてはこの差額の400,000円分に対する税金の支払いを節約することができます。
現物支給の課税イメージ
- 現金の場合:1,000,000円→評価1,000,000円
- 現物の場合:1,000,000円→評価600,000円
給与や退職金を現物支給で行うことで法人としても、受け取る個人としても双方にメリットがあります。
現物支給を行うことによる法人側のメリット
現物支給を行うことで、法人としてはキャッシュを減少させずに済むというメリットがあります。
例えば
- 社宅として賃貸していた物件を社員の退職時に現物支給する
- 社用車として使用していた車を現物支給する
といったケース。
このような場合、法人の所有している固定資産がマイナスになるだけで、法人としてはキャッシュを減らさずに社員に経済的利益を支給することができます。
キャッシュを減らさずに済むことは資金繰りの改善だけでなく、銀行や投資家がチェックする項目である「流動比率」を高めることもでき、貸借対照表における見栄えの部分も改善させることができ、借入なども受けやすくなります。
また法人が現物支給を行う場合には帳簿上の価格(簿価)ではなく、実際の価格(時価)で支給するため、仮に簿価>時価の場合には会計上、損を計上することができ、その場合法人税も節約することができます。
現物支給を受け取ることによる個人側のメリット
現物支給を行い最も節税となるのは個人に対する税金部分です。現物支給として給与や退職金を受け取ることで個人としては所得税、住民税を抑えることができます。
例えば10万円を給与として受け取るような場合、その10万円部分に対して所得税、住民税、社会保険料が差し引かれ実際の手取りは7万円程度・・・というようなケースもよくあります。
しかし給与としてではなく現物支給で10万円の経済的利益を受ける場合、その10万円部分に対して税金は発生しません。
また現物支給で受け取る分所得を抑えることで税金だけでなく、その他所得に応じて支払いが発生するものや受給できるものなど、付随するメリットが発生します。
更にこれまで使用してきた社宅や車など、使い勝手が良く愛着のあるものを低い評価額で取得できることも個人としてのメリットとなります。
社宅を現物支給し給与分を節税
具体的な現物支給の節税例をご紹介したいと思います。
現物支給による節税の「王道」と言える方法は、社宅を社員に賃貸する方法です。条件の良い場所に安価で社員に賃貸することで、社員としては給料を受け取っているのと同等な経済的利益を受けることができます。しかしその経済的利益部分に対しては課税されません。法人側としても現物支給は従業員を確保、定着させるための良い手段となります。
社宅が節税対策となる仕組み
ではどのようにして社宅を使い節税することができるのでしょうか。その背景には、「法人から社員に社宅として物件を賃貸する場合、法人が受け取る賃貸料が賃貸料相当額の50%以上であればその差額は、給与として課税されない」という制度があります。
例えば、賃貸料相当額が1ヶ月10万円の物件を5万円で社員に賃貸する場合、賃貸料相当額(10万円)と家賃(5万円)の差額に対して社員は経済的利益を受けています。しかしこの経済的利益部分である5万円は給与として課税されません。
社員は相場よりも5万円安い家賃で生活することができ支出を抑えられているため、給与としてプラス5万円受け取っていることと同等の効果を受けることができます。更に実際給与を5万円増額させようとすると所得税、住民税も増額されます。しかしこの社宅を活用した方法であればそれらの税金がアップすることはありません。
この節税方法は法人として不動産を所有している場合、借りている場合双方で使うことができます。
不動産を賃貸している場合であれば賃料10万円は経費として落とすことができます。社員から受け取る5万円の家賃は法人の収入に計上しますがそれでも差額5万円分は損を作ることができるので法人税を節税することにもなります。
給与として課税されない基準の賃料相当額とは
では社員から受け取る家賃の基準となる「賃料相当額」はどのようにして決定されるのでしょうか。賃貸料相当額とは、次の1~3の合計額をいいます。
- (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
- 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
- (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
この計算による合計額の50%以上を社員から家賃として受け取っていれば、賃料相当額と受け取る家賃の差額は給与として課税されません。この仕組みによれば社員は実際の家賃相場の10~20%の家賃で入居することも可能となります。この制度の代表的なのは議員宿舎の例です。新赤坂宿舎の議員宿舎では、近隣で同じ広さの賃貸住宅の民間相場は月額約50万円であるにもかかわらず月額9万2127円で入ることも可能となっています。
役員へ社宅を現物支給
また社員だけでなく会社名義の不動産を社長や役員へ現物支給することもできます。この場合、通達による計算方法によれば役員は相場の2割程度の家賃で入居でき、8割以上を損金に算入させることも可能です。例えば家賃が10万円の場合、2万円で役員が居住し、差額の8万円を経費とすることもできます。
役員に貸与する社宅が小規模な住宅ではない場合
役員に貸与する物件が社会通念上一般に貸与されている社宅と認められない豪華社宅であるような場合には先ほどの計算式とは異なる算式で賃料相当額を算定します。豪華社宅の場合には以下の算式で賃料相当額を計算します。
1. 自社所有の社宅の場合
次のイとロの合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。
イ (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%
ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12%ではなく、10%を乗じます。
ロ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
2. 他から借り受けた住宅等を貸与する場合
会社が家主に支払う家賃の50%の金額と、上記1.で算出した賃貸料相当額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。
※豪華社宅ではなく「小規模宅地」に該当する場合には社員に対しての賃貸料相当額計算と同じ方法になります。
役員や社員へ社宅を現物支給する際の注意点
役員や社員へ住宅を現物支給する際には以下のことを注意しなければなりません。
- 社内規定
- 社会保険料
- 水道光熱費や駐車場代
まず、社宅を現物支給する場合には社内規定により定めておきましょう。税務署からの調査があるような場合に規定により定められていることをしっかりと提示することができます。
また社会保険料については一見、現物支給により下げられるようにも思えますが、定められた金額を超える家賃を会社側が負担している場合、その経済的利益は標準報酬月額に含めなければなりません。
そして最後に、社宅だとしても光熱費や駐車場などは本人が負担しなければならず、経費に入れることはできません。仮に会社が負担をしてしまうとその部分は役員報酬や給与として課税されてしまいます。
保険を活用した現物支給による節税
保険の特質を活用した現物支給による節税方法もあります。よく使われているものは退職金で保険を使う節税方法です。退職金として名義変更による現物支給で行うことで節税対策を行うとができます。
この場合、生命保険の評価は支給時点での「解約返戻金」になります。保険の商品によっては一定期間解約返戻金が低く設定されていて、ある時点から解約返戻金が大幅に上がる商品があります。逓増定期保険や終身保険の中にこのタイプの商品があり、この保険商品の特徴を活用することにより、将来返戻金が上がるにも関わらず退職時には低い評価で支給し節税することが可能になります。
注意点としては、個人に保険の名義が移ったのち、実際に解約する際には所得税が課税される場合があります。
要注意!節税にならない現物支給
現物支給を行うことにより、どのようなものでも節税になるというわけではありません。例えば以下のようなものを現物支給したとしても節税効果はありません。
商品券・クオカード
これらのものは例え現物で支給したとしても、税務署としては「給与」として課税します。国税庁によると、
記念品の支給や旅行や観劇への招待費用の負担に代えて現金、商品券などを支給する場合には、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されます。
とされ、商品券は給与として課税されることが明記されています。
その他、給与扱いで課税される経済的利益
またその他、以下のものは金銭以外のものであったとしても「給与」として課税されます。
- 物品その他の資産を無償又は低い価額により譲渡したことによる経済的利益
- 土地、家屋、金銭その他の資産を無償又は低い対価により貸し付けたことによる経済的利益
- 福利厚生施設の利用など2.以外の用役を無償又は低い対価により提供したことによる経済的利益
- 個人的債務を免除又は負担したことによる経済的利益
給与として課税される以上、個人としても法人としても節税面でのメリットを得ることはできません。
この「給与扱いになるかどうか」という部分は調査の際に法人と個人から徴収できる部分にもなるため念入りに調べられる可能性があります。
現物で退職金を支給する際の注意点
退職金に関しては税金面ですでに大きな優遇があります。つまり退職金としてある程度の支払いをしても個人に税金はかからない仕組みとなっています。
退職所得の算定方法
(収入金額(源泉徴収される前の金額) - ※退職所得控除額)× 1 /2 = 退職所得の金額
※退職所得控除額は以下の算式で算出され、年数が長くなるほど控除額も多くなります。
勤続年数(=A) | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円 × A |
(80万円に満たない場合には、80万円) | |
20年超 | 800万円 + 70万円 × (A – 20年) |
退職金控除を差し引き、さらに1/2した額が退職所得となり、その部分に対して以下の税率がかけられます。
課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
退職金は税制面での優遇が大きいため、現物支給をせずに現金で支払ったとしても税金が発生しないという可能性も十分にあるわけです。
逆に、現物支給をしてその額が時価よりも低いと税務署から指摘された場合、退職所得ではなく給与所得に参入させられ、退職所得の控除が使えなくなる可能性もあります。
そのようなリスクも考えるならば、もし法人にキャッシュの余力があり税金が発生しない程度の金額であれば現金で退職金を支給する方が良い場合もあります。
まとめ:給料や退職金を現物支給して節税する方法
今回の記事では給料や退職金を現物支給して節税する方法についてご紹介しました。
現物支給することにより法人側としても経費を作ることができ、個人としても所得税や住民税を節税することができます。
現物支給が節税になるためのポイントは評価額の差です。時価と簿価に差がある場合には節税につながります。
具体的な現物支給の対象としては社宅、保険などが代表例として挙げられます。しかし退職金に関しては税務上控除があるので税金負担がかからないケースもあります。
現物支給による節税は法人、個人を総合的に考える必要があります。また保険などの商品に関しては法律の改正もありますので、弊社の節税コンサルティングサービスにご相談ください。