社用車の購入やリースは減価償却費として経費化できるため、法人節税のため行われることが多い手段のひとつです。ただ、自動車の種類や購入するタイミングなどには注意したいところです。今回は社用車の購入やリースを法人節税に活用する場合、どの程度継続的に経費化できるのか、経費計上する際の注意点などについてご紹介します。
社用車の購入・リース費用は経費化可能、法人税節税に効果的
社用車を購入した場合や、リースをした場合の費用は、減価償却によって経費化できます。経費計上することにより、法人税の節税効果が期待できます。
減価償却の方法は、定額法と定率法とがあります。定額法は減価償却期間中、毎年一定額を償却する方法、定率法は定められた毎年一定の割合の減価償却率で計上する方法です。法人の場合は原則として定率法を用います。なお、それぞれ途中で変更することはできません。
社用車購入時の減価償却期間
社用車を購入した場合の減価償却期間は、「法定耐用年数」に応じて経費計上します。法定耐用年数は資産ごとに異なるため、社用車の場合も購入したのが新車か、中古車かによって変わってきます。
普通自動車(事業用は除く) | 6年 |
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軽自動車(事業用は除く) | 4年 |
貨物自動車(ダンプ、事業用は除く) | 5年 |
新車で購入した場合は、普通自動車で6年、軽自動車で4年と定められています。ただし、購入した社用車を減価償却できるのは、耐用年数が2年以上のものです。
社用車は購入した場合は固定資産として扱われ、固定資産の場合2年以上の耐用年数がないと減価償却できないからです。
一方、中古車の場合は、耐用年数を法定耐用年数ではなく、購入してからどの程度使用可能かを見積もり、その年数で計算します。
ただし、使用可能期間の見積もりができない場合は、下記の計算式に当てはめて計算します。
中古車で購入した場合
- (法定耐用年数-経過年数)+(新車登録されてからの経過年数×20%)
※1年未満切捨、2年に満たない場合は2年として計算する
※法定耐用年数のすべてを経過している場合は、使用期間を法定耐用年数の20%とする
リースの場合、毎月のリース料が経費に
社用車をリース契約にした場合は、毎月のリース料を全額経費化できます。
リース料には、車両代以外に整備費用や各種税金、自賠責保険料なども含まれ、毎月定額を支払うことになるので、資金計画も立てやすいでしょう。
リース契約の場合、所有権はリース会社にあるため、法人側で減価償却費を計上する必要もありません。事務的な負担は少なくなるでしょう。ただし初年度に経費化できるのは、1年分のリース料のみになります。
ただ、デメリットとしては、購入した場合に比べ、割高になりやすいです。一般的にリース契約期間は5年で、本体価格の1.5%程度の支払いになることが多いからです。
リース期間が終了したときは車両を返却するか、再リースして同じ車に乗り続けるかを選ぶことになります。
途中解約すると違約金が発生する場合が多いことや、盗難や事故にあったときのリスク、想定より走行距離数が長い場合は追加料金が発生する点なども考慮したいところです。
社用車の購入で経費にできる項目
社用車を購入した場合、下記の項目を取得価額に含めるものとして判断し、合計金額をもとに法定耐用年数に応じて減価償却を行います。
- 自動車の本体費用
- 各種手続きにかかる諸費用
- 自動車にかかる各種税金
- 自動車購入時に加入する保険料
- 分割購入にかかる利息
自動車の本体費用
社用車購入において、まず経費にできるのは自動車本体の購入費用です。附属品や購入手数料、運搬にかかる費用なども含まれます。
より節税効果を高めるなら、高額な自動車を購入するのもひとつです。会社の状況や目的に合わせて本体費用は検討しましょう。
各種手続きにかかる諸費用
社用車を新車で購入した場合、登録手続きや名義変更、車庫証明費用などが必要です。購入に際し、手続きでかかる諸費用も経費計上できる項目のひとつです。
一般的に発生しやすい手続き費用の例
- 登録代行手数料
- 名義変更費用
- 検査登録費用
- 車庫証明取得代行費用
- ナンバープレート発行費用
- 自動車リサイクル料(車を解体する場合)
自動車に関する各種税金
自動車を購入した場合発生する、各種税金も経費計上が可能です。
主な税金は、毎年発生する「自動車税」と、2年(または3年)ごとの車検時に発生する「自動車重量税」です。
自動車購入時に加入する保険料
社用車に限らず、自動車を購入した場合は自賠責保険に加入する義務があり、任意保険に入るケースも多いでしょう。自動車保険の保険料についても、経費計上が可能です。
分割購入の利息も経費化可能
社用車を購入するにあたり、一括ではなく分割で購入した場合は、利息分についても経費化できます。
ただし、分割で支払う金額の全額が毎年経費計上できるわけではありません。
計上できるのは利息部分のみとなります。自動車の本体費用については、減価償却で別途計上するためです。
社用車の購入とリース、法人だとどっちがお得?
社用車を取得する際の選択肢として、法人の場合、購入とリースとではどちらが節税につなげやすいのでしょうか。それぞれのメリットも見ていきましょう。
社用車を購入するメリット
諸費用をまとめて経費計上できる
社用車を購入すると、各種手続き費用や税金、保険料、ガソリン代などの費用も経費計上できます。諸費用をまとめて経費計上できるのはメリットのひとつといえるでしょう。
売却時の価値は高め
社用車を購入する際、資産価値の落ちにくい車を選べば、次回社用車を刷新する際に高値で売却できる可能性があります。車種によっては、資金繰りが厳しくなったときの保険にもなるでしょう。
さらに、自動車は固定資産であり、固定資産を売却した場合は減価償却が完了していても、およそ10%の残存価格が発生します。
売却したとき、下取り価格や買取価格が残存価格より高ければ高いほど、売却益は大きくなります。ただし、売却益については収益として計上が必要です。
法人税節税には新車より中古車の方が効果的
社用車を購入する場合、法人税の節税効果を高めるなら、新車を購入するより中古車のほうが効果的です。
新車で購入した場合、基本的に減価償却は毎年一定額ずつ償却するため、1年で一括計上できません。
ですが、中古車の場合、耐用年数が2年未満の場合や、30万円未満で購入した場合は一括で経費計上が可能です。
およそ4年以上経過した中古車であれば、購入費用を初年度で一括計上できるでしょう。
さらに、一括で費用計上することにより、翌年度以降の減価償却は不要になります。メンテナンス費用が都度必要になることや、故障する可能性も念頭に置く必要はあるものの、中古車も選択肢に入れてもよいでしょう。
デメリットも少なくない新車購入
社用車を新車で購入するには、デメリットも考慮する必要があります。
決算期直前の新車購入の節税効果は低い
例えば、社用車の減価償却は1カ月単位で行うので、購入するタイミングによっては大きな節税効果は得られない場合があります。
一般的に決算月の翌月に購入すれば次の決算までの月数分節税に活用できますが、決算月に購入しても1ヶ月分しか償却できないからです。年間で節税できる金額に対し、購入に際し発生する支出のほうが大きくなることもあるでしょう。
年間の維持費がかかる
年間の維持費がかかることも留意したいポイントです。自動車にかかる維持費は、税金、自動車保険料、車検代、オイル交換代、駐車場代、積雪地域ならタイヤ代など、年間で見るとある程度まとまった額が必要です。購入すれば資産になり節税効果が期待できるとはいえ、維持費も含めて検討したほうがよいでしょう。
売却益が生まれず、税金を払ったほうが安くなることも
売却時の価値についても、車種によっては利益が生まれないどころか、損失になる可能性があります。場合によっては、購入せず税金を払うほうが支出を抑えられることもあるでしょう。節税目的で購入し、売却を検討するのであれば、一括で経費計上できる自動車を選ぶ、故障が少なく売却時に残存価値が高い自動車を選ぶなど、節税効果と売却価格とを予想、比較し慎重な判断が必要です。
社用車をリース契約するメリット
決算期直前のリースでも1年分を経費計上できる
リース料の支払い方法は月払いや年払いなど選べる場合があります。決算期直前のリース契約であれば、月払いより年払いのほうがお得です。月払いだと決算月までの月数分しか計上できませんが、年払いなら1年分のリース料をまとめて経費計上できるからです。
購入時のキャッシュアウトを抑えられる
社用車をリース契約する場合は、購入に比べ初期費用を抑えられるのもメリットです。社用車を購入する場合は、本体費用以外に登録費用や各種税金など諸費用が必要ですし、税金や保険料など毎年支払いが必要なものも多いです。リース契約の場合は、諸費用が含まれた状態のリース料を一定額ずつ支払うことになるので、購入時のキャッシュアウトを抑えられるはずです。
リース料は購入に比べ、多少割高といっても、事務手続きの負担軽減や点検や車検などの手間もいらないため、管理面の手軽さもメリットになるでしょう。
社用車の購入が向いている会社の条件
社用車の購入をするかどうかは、経営状態を見て判断することが大切です。社用車は経費化して節税できるとはいえ、まとまった支出であることには変わりないからです。
継続的な黒字が計算できる会社
社用車を購入するか検討する際は、今年度だけでなく、継続的に安定して業績が黒字になる見込みがあるかどうかを考慮しましょう。利益が出ていない状態のときだけでなく、突発的に利益が上がったからといって、不安定な経営状況のまま購入することは、かえってリスクを生むこともあります。
社用車の刷新を収益につなげられる
今使用している社用車を入れ替えて収益につながる可能性があれば、社用車の購入は有意義なものとなるでしょう。ただ、社用車を刷新することで収益効果が見込めるかどうかについては、慎重な判断が必要です。
会社のステータス、社員のモチベーション向上
社用車を購入することが会社の価値を高めたり、社員のモチベーションアップにつながったりする場合も、購入するメリットはあると考えられます。とはいえ、あくまで適切な管理ができてこその資産です。会社の状態を把握し、ステータスやモチベーションアップのためだけに、無理に購入するのは控えましょう。
社用車での節税でおすすめの購入方法
中古車を購入する
社用車を使った節税方法では、中古車中の中でも、4年落ちの自動車を購入するのが効果的といわれています。4年落ちの自動車は、定率法により1年目で取得価額の全額を経費化できるからです。
個人の自動車を会社名義に変更
法人節税の効果を高めるなら、個人の自動車を会社名義に変更し、社用車にする方法もあります。登録を変更して社用車にすれば、ガソリン代や保険料を経費化できるからです。個人から法人への登録変更は売却と同様とみなされるため、個人にも資産が入ることになります。減価償却の方法は、中古車の計算方法と同じなので、個人名義で購入した4年落ちの自動車を、登録を変更して社用車にすると、節税に効果的でしょう。
ただし、社用車として認められるかどうかは、税務署の担当調査官によります。少しでも認められやすくするには、売買契約書があることが大切です。個人から法人へ売却した事実を作りましょう。
売却する場合は、金額についても適正な時価で売買しなければなりません。あまりに安い金額だと個人に対し、贈与税が発生することもあるからです。適正価格がいくらかについては、第三者のディーラーなどに見積もりを依頼しましょう。
決算直前での節税策にするならリースがおすすめ
決算直前の法人節税対策なら、中古車購入より年払いのリース契約をしたほうがお得になる可能性が高いです。初年度に1年分のリース料を経費化できるからです。購入するか、リースにするかは、社用車を用意するタイミングによって判断しましょう。
社用車を購入する場合の注意点
個人事業主は購入費用を全額経費化できない
社用車が節税に活用できるのは、基本的に法人の場合です。社用車として経費計上するには、あくまで会社のお金で自動車を購入する必要があるからです。個人事業主の場合、個人と会社とのお金の区別が明確でないため、経費に計上するのが難しい面があります。
一般的に、個人事業主やフリーランスが社用車を購入した場合、経費計上できるのは半分程度までといわれています。購入費用を全額経費化することはできないので注意しましょう。
高級車は購入したあとの使用方法がポイント
社用車にする自動車の車種については、明確な決まりがあるわけではありません。大切なことは会社の業務上で使用するかどうかであり、ベンツやBMWなどの高級車を、社用車として経費計上しても問題ないとされています。
とはいえ、税務署は実際の使用や管理方法、業務に必要かどうかによって、社用車として認めるかどうかを判断します。たとえ会社名義の自動車で、会社で費用を支払っているとしても、必ずしも資産と認められるわけではないため、気を付けましょう。
社用車として最適な使用方法でなければ認められない場合も
例えば、社長や役員が利用する社用車であれば、役職上必要であると判断され、経費として認められやすいですが、役員でない従業員が作業用に使用する場合は社用車として認められにくいです。
あるいは、役員用の社用車であっても、ほとんど使用せずガレージに置かれている場合も認められない可能性があります。購入した自動車が会社の経営状況に見合っていない場合も同様です。
高級車の場合、社用車であると客観的に証明できるか、認めてもらえるかは微妙な判断にもなることも多いです。特にオープンカーやスポーツカーについては、税務署から見て社用車と認識しにくいことが多いので注意が必要です。高級車を社用車にする場合は、顧問税理士と相談しながら決めるほうがおすすめです。
社用車を私的な目的で利用する場合は節税にならないことも
社用車を経費として認めてもらうには、公私の区別をつけることが大切です。社用車を私的な目的で利用する場合は、その部分を否認され、節税にならないこともあるからです。
例えば社用車として使用しているのが週3日なのに、それ以外に私的に使用している分があれば、経費計上しても否認されます。節税目的で個人名義から会社名義に自動車の登録を変更する場合も、業務で使用しないと税務署から指摘される可能性が高いです。
役員の私物と判断されると、余分な税金支払いのリスクも
さらに、社用車を役員の自宅ガレージに保管したままで使用していない場合などは、税務調査の際役員の私物と判断される可能性があります。
役員の私物と判断されると、経費として認められないだけでなく、購入費用が役員賞与としてみなされます。役員賞与になると給与課税対象になり、法人節税どころか余分な税金の支払いが必要です。加えて、源泉所得税も追加で支払わなければなりません。役員個人も所得税が追加で発生します。場合によっては延滞税や加算税など、ペナルティが課せられるリスクもあります。
もし私的に社用車を使用するのであれば、申告の際は適正に按分し、社用車として使用した部分のみを計算して経費計上を行いましょう。計算の根拠として運転記録や会社用ETCの履歴を残すなどすることも大切です。
社用車購入はタイミングを見計らう
社用車を購入する場合はタイミングも考慮しましょう。購入する場合、自動車の本体費用だけでなく税金、保険料などの維持費を含め、まとまった支出になるため、場合によっては経営が圧迫されることもあるからです。
タイミングによって、決算期直前の場合はリース払いにする、あるいは、決算が終わるのを待って中古車を購入するなどの判断が必要になるでしょう。
社用車の購入・リースは経費化・法人節税に利用できる
自動車の購入か、リースかは会社の状況に合わせて判断を
社用車を購入したり、リース契約をしたりした分については、かかる費用を経費化して法人節税に活用できます。ただし、購入する場合は新車か中古車かによって、経費計上の方法が変わってきますし、決算期直前はリース契約のほうがいい場合もあります。場合によっては、個人名義の自動車を、会社名義に登録変更するほうが節税につながることもあるでしょう。
また、社用車は会社にとって大きな買い物ですし、高級車の場合や、プライベートでも使う可能性がある場合などは、経費として認められない可能性もあるので注意が必要です。社用車を購入、リースする時期、会社の経営状態的に経費として認められるかなどについては、顧問税理士とも相談し、タイミングを見て効果的な節税につなげましょう。