中小企業の節税対策はさまざまありますが、出張旅費規程をつくるのも方法のひとつです。業務上必要で、適切な範囲で支給する出張旅費については、全額経費化が可能だからです。出張旅費規程は会社であれば、株式会社や合同会社、医療法人など法人格を問わず活用が可能です。今回は中小企業にとってどんな節税メリットがあるのか、また作成にあたって気を付けたいポイントなどについてご紹介します。
出張旅費規程での節税は中小企業こそ活用すべき
出張での宿泊費・日当を損金にできる
出張旅費規程が中小企業の節税に効果的な理由のひとつは、出張時の宿泊費や交通費などの実費や、日当を損金にできることです。出張旅費規程を定めれば、規定の分の旅費は必要経費として処理できるようになります。経費化できるようになることで利益の圧縮ができ、法人税の節税にもつながるでしょう。
消費税の節税・社会保険料の軽減にも効果あり
さらに消費税の節税にも効果的です。国内出張の場合、宿泊費や交通費、日当が全て「課税仕入れ」に該当するからです。課税仕入れとは、消費税がかかる仕入れや経費のことをいいます。
その他、社会保険料の計算で、算定基礎となる報酬にも、出張の日当は含まれません。したがって、中小企業において社会保険料の負担軽減にもつながると考えられます。
社員は非課税で支給分を受け取れる
中小企業にとって出張旅費規程を作成することは、会社だけでなく社員にもメリットがあります。支給された日当は、所得税や住民税に対し、非課税扱いとなるからです。個人の税負担も増やさずに済むでしょう。
また、宿泊費等で支給分と実際にかかった費用とで差額が発生した分についても、非課税所得扱いになります。
例えば、出張旅費規程で1日10,000円の宿泊費を支給することを定めているとします。もしホテル代の実費が8,000円だとしても、10,000円を宿泊費として支給し、差額分の2,000円は非課税所得扱いとなります。つまり、社員は2,000円分の現金支給を受けられることになります。
精算処理も効率的に
実費精算よりスムーズ!出張旅費規程に則った精算処理が可能に
出張旅費規程の作成は、中小企業にとって事務処理の効率アップにも効果的です。精算処理をする際に、出張旅費規程に則って精算処理を行えるようになるからです。日当や宿泊費、交通費等を定額支給にしておけば、領収書確認などの処理の手間も省けるでしょう。
一方、実費精算だと出張中の食事代や通信費まで、細かく確認し処理しなければなりません。出張回数が多い会社や、社員数が多い会社はそれだけで精算の手間が増えます。経理担当者の負担を減らすためにも、出張旅費規程の作成は有効だと考えられます。
中小企業が出張旅費規程を作成するときのポイント
全社員を対象に周知、適用する
中小企業が出張旅費規程を作成する際のポイントは、全社員を対象にすることです。社長や役員など、一部のみに適用する規定を作成しても、税務調査では否認されるでしょう。ただし、役職によって支給額に差をつけて規定を設けることは可能です。
支給金額は適正な金額で
出張旅費規程に定める日当や宿泊費等の支給額は、税法上明確な決まりがなく、中小企業が独自に設定することが可能です。ただし、支給金額は、同規模の同業他社と同水準の支給額に設定する必要があります。国税庁のサイトでも、下記の通り通達されています。
(1) その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2) その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。
引用:国税庁「〔旅費(第4号関係)〕(非課税とされる旅費の範囲)9-3」
支給額を高額にすればそれだけ経費化し、節税できるかもしれません。しかし、そもそも出張旅費規程の目的は、出張ごとの精算処理を簡素化することであって、節税のためにあるものではないからです。出張分の給料も通常通り支払うことになるので、むやみに高額である必要はありません。時給を換算し、妥当と思われる適正な金額に設定するようにしましょう。
高額にしすぎると税務調査で否認される
出張旅費規程に定める支給額には特に上限はありません。しかし、高額すぎる支給額は、税務調査で否認されるリスクがあります。必要以上に高額の支給は、「給料の支給と同等」と判断されやすいからです。
一般的には30,000円以上の支給額は高額と判断される可能性が高いようです。最悪の場合、追徴課税を受ける恐れも出てくるため、支給額は適正な金額を設定するようにしましょう。
中小企業が出張旅費規程を活用する場合の注意点
領収書を保管する
出張旅費規程を活用する際は注意したいこともあります。ひとつは、出張の記録を残すとともに、領収書の保管をすることです。1回ごとに、出張時の宿泊代や交通費などの領収書はすべて保管しておく必要があります。
カード決済など、領収書が発行されなかった場合は、決済時のメールやカードの利用明細を領収書代わりに保管しましょう。コインロッカー代など、領収書が発行されない費用については、支払った額をメモし、出張後に旅費精算書に書き込むようにします。
出張旅費規程を定め、日当や宿泊費等を定額支給することにすれば、領収書は必要ないと考えるかもしれません。しかし、領収書がなければ「本当に出張に行った」証拠もなくなり、「空出張」を疑われるリスクも生まれます。空出張は、本当は出張していないのに出張したことにする脱税行為のひとつです。無用な疑いを避けるためにも、出張の記録をきちんと残し、領収書を保管するようにしましょう。
出張先での外食費は日当に含めない
出張後の精算をする際注意したいのは、外食費は日当に含めないことです。例えば出張先で取引先と外食や接待をした場合は、交際費として会計処理を行います。出張に行くと、外食をする機会も多いです。精算時に外食費は日当に含めないよう留意し、支出の目的に適した会計処理を行いましょう。
実費精算より支出が増える可能性
出張旅費規程を定めると、中小企業によっては実費精算より支出が増える可能性もあります。実際にその出費があったかどうかは関係なく、定額を支給することになるからです。社員数や出張が多い中小企業の場合、経営に影響するリスクも生まれるかもしれません。節税や精算処理のメリットだけにとらわれず、会社の経営状態も考慮して、出張旅費規程の作成や内容を検討することが大切です。
出張旅費規程作成は中小企業にとってメリット多数
上手に活用して効果的な節税を
中小企業にとって、出張旅費規程を作成すれば法人税や消費税の節税、社会保険料の負担軽減といったメリットがあります。加えて、支給する日当は非課税所得扱いになるため、個人の所得税や住民税負担も増やさずにすむでしょう。業務面においても、出張旅費規程により一定の支給額を定めることで、経理処理も簡素化が可能です。経理担当者の業務効率向上にもつながるでしょう。
出張旅費規程の作成時は支給金額の設定や、実費精算より支出が増える可能性がないかなど、いくつか注意したい点はあります。とはいえ、作成することで中小企業にとっては効果的な節税対策となり、支給を受ける側にもメリットがあると考えられます。出張旅費規程をまだ導入していない会社では、作成を検討してみてはいかがでしょうか。