減資により税金を節税する仕組み
まず会社が支払う税金は大きく分けて法人税等、消費税があります。ここでいう法人税「等」の中には
- 法人税(法人所得税)
- 法人住民税
- 法人事業税
が含まれています。
法人税(法人所得税)とは
法人税(法人所得税)は会社の所得に対して課税される国税です。法人税の税率は法人の種類や「資本金」、所得金額により異なります。法人税(法人所得税)は資本金が1億円以下の中小法人であれば800万円以下の部分に関しては法人税の税率は19%ですが、資本金が1億円を超える普通法人では800万円以下の部分も23.2%となります。(平成30年4月1日以後開始事業年度)
法人住民税とは
法人住民税は法人の事業所がある地方自治体に納付する地方税です。法人住民税は、法人税額に住民税率を乗じて計算する「法人税割」と、資本金などの額に応じて課税される「均等割」の2つの合計になります。
この均等割は、例えば東京都にある市町村のみに法人を有する場合、資本金額が1,000万円以下の場合は20,000円、1,000万円超〜1億円以下の場合50,000円、1億円超〜10億円以下の場合130,000円、10億円超〜50億円以下の場合540,000円、50億円超の場合800,000円となります。
資本金額 | 均等割額 |
---|---|
1000万円以下 | 20,000円 |
1000万円超〜1億円以下 | 50,000円 |
1億円超〜10億円以下 | 130,000円 |
10億円超〜50億円以下 | 540,000円 |
50億円超 | 800,000円 |
資本金の額と変動して均等割額も最大800,000円まで上がっていきます。
法人事業税とは
資本金が1億円を超えると、付加価値割・資本割も加わる
法人事業税は所得に対して課税される「所得割」が基本となる税金地方税です。資本金1億円超の法人の場合は、外形標準課税制度により付加価値を課税標準とする「付加価値割」、資本等の金額を課税標準とする「資本割」も加わります。
外形標準課税とは
資本金1億円超の法人を対象とした法人事業税の課税制度のことを「外形標準課税制度」と言います。外形標準課税はどのような税金かというと、会社が事業を行う上で、地方団体の行政サービスから何かしらの受益を得ているため、その事業活動の「規模」に基づいて税負担を求めるものです。この外形標準課税は会社が「赤字」であっても発生するため、外形標準課税に該当している赤字企業にとっては負担の大きい税金となります。
会社が支払う法人税は全て「資本金」で金額が変わる
つまり法人税等に含まれる法人税(法人所得税)、法人住民税、法人事業税全てが「資本金」を基準にして金額が変わります。
法人住民税の均等割は資本金が1,000万円、1億円、10億円、50億円と変わるごとに税額も変わりますし、その他の法人税(所得割)や法人事業税は資本金が「1億円」に達しているかどうかが1つの境界線となります。
節税の面から考えると、資本金額を1億円以下に抑えることで大きく税金を抑えることができます。
外形標準課税の付加価値割の計算方法
資本金が1億円を超え外形標準課税の対象となった場合「付加価値割」を税金として支払わなければなりません。
この付加価値割は企業の「単年度損益」と「収益配分額」の合計を課税標準としてその合計額に税率を乗じます。
「単年度損益」とは繰越欠損金控除前の法人事業税の所得金額、「収益配分額」は報酬給与額、純支払利子、純支払賃借料からなっています。
会社の規模が大きくなればなるほど給与の支払いや利子の支払い、家賃の支払い額も大きくなりますので税金も高くなります。
付加価値割の税率は1.26%になります。
外形標準課税の資本割の計算方法
外形標準課税の対象になると「資本割」も税金として支払わなければなりません。この資本割は資本金額と非常に大きな関係がある税金となります。
どういうことかと言うと、この資本割の計算式は以下の算式で計算されます。
資本割額=資本金等の額(資本金と資本準備金の合計額)×税率
この資本割は「資本金等」の額に対して直接税率がかけられるので資本金の額が大きくなるほど税額も高くなります。
また資本割の税率は0.525%となります。
外形標準課税の税率は上がっている
平成28年度の改正により外形標準課税の税率は高くなりました。
- 付加価値割:0.72%→1.2%
- 資本割:0.3%→0.5%
平成28年の改正で「資本割」に関しては6.0%から3.6%に引き下げられましたが、外形標準課税は高くなっています。
つまり所得が多い黒字企業にとって税金負担は少なくなりますが、赤字企業にとっては税金負担が更に増える形となりました。
また今回の改定では見送られましたが、外形標準課税の基準も「財源確保」のために対象法人の見直しが検討されました。
現在は資本金1億円以上の法人が対象となっていますが、将来的にはこの資本金額の基準も下げられる可能性もあります。
つまり、現在、国としては黒字企業に対して税金面での優遇を与え赤字企業に税金面での負担を増やしていく傾向にあります。
今後の可能性としては外形標準課税の税率が更に上がり、対象となる枠も広げられる(資本金1億円という基準が下げられる)可能性もあります。
企業防衛としての「減資」も今後ますます考慮する必要があります。
消費税を資本金の額で節税するための基準
ちなみに、法人税だけでなく資本金の額を下げることで「消費税」も節税することができます。
消費税を節税するための資本金額は1,000万円が1つの基準となります。1,000万円未満であれば消費税を会社設立後2年間「免税」とすることがます。
ただし注意しなければならないのは資本金1,000万円「未満」ですので資本金の額が1,000万円の場合には消費税は課税対象となってしまいます。
有償減資と無償減資
新たに会社を設立するというのであれば資本金を1億円以下に設定することはできますが、すでに1億円を超える資本金の会社はどうすれば良いのでしょうか。
そのような場合には「減資」を行うことよって資本金額を1億円以下に下げることができます。
減資を行うには「有償減資」と「無償減資」という方法があります。
有償減資とは
「有償減資」とは、資本金を減少させ、それに伴い増加する「その他資本剰余金」を財源として剰余金の配当を行う減資のことを言います。
無償減資とは
一方「無償減資」とは、株主に対して金銭等の交付により会社の純財産を減少させずに会社の資本金額を減少させることで、貸借対照表上の科目間の数字は移動しますが、会社財産に動きはありません。
減資を行うための手続き
減資は原則株主総会の特別決議によって定める
減資をするためには原則として「株主総会」を開催する必要があります。この株主総会では、以下の事項を決定します。
- 減少する資本金等の額
- 減少する資本金の額の全部又は一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額
- 減資の効力発生日
これらは基本的に株主総会の「特別決議」によって定める必要があります。ただし、定時株主総会決議により、定時株主総会の日における欠損の額を超えない資本金の額を減少する場合には株主総会の決議は「普通決議」で足りるとされています。
その他の減資による優遇制度
減資を行うことによりその他の優遇制度を受けることができ、その優遇制度を利用することにより間接的に節税することもできます。資本金の額により受けられる可能性のある制度には以下のものがあります。
それぞれの制度についてご紹介します。
- 中小企業投資促進税制
- 交際費の損金算入
- 繰越欠損金額の上限
- 減価償却費の一括損金
減資により中小企業投資促進税制で税額控除
減資により資本金額を3,000万円以下にすれば、「中小企業投資促進税制」を受けることができます。
中小企業投資促進税制とは、機械装置等の対象設備を取得・製作等をした場合に、取得価額の30%の特別償却または7%の税額控除が選択適用できるというもので、資本金3,000万円以下の法人であればこの内の「税額控除」を選択することができるようになります。
減資により交際費を損金算入
交際費は基本的に損金として算入できませんが、「中小法人」であれば、交際費の損金算入できる金額について、次の2種類のうちどちらかを選択適用できます
- 年800万円の定額控除限度額まで全額損金算入
- 接待飲食費の50%の損金算入
※適用期間は2020年度3月31日までに開始した事業年度
ここでいう中小法人とは期末の資本金または出資金が「1億円以下」(資本金の額等が5億円以上の大法人による完全支配関係がある普通法人は除く)の法人のことを言います。
減資により繰越欠損金制度の限度額が全額に
繰越欠損金とは会計上の「赤字」のことで、繰越欠損金制度とはこの欠損金は10年間の間に会社が黒字になった場合に相殺することができる制度のことを言います。
この繰越欠損金制度も大法人か資本金額1億円以下の中小法人かによって扱いが異なります。
大法人であれば控除限度額は50%であるのに対し、中小法人であれば繰り越欠損金の限度額は100%(全額)が可能となります。
しかも大法人の控除限度額は年々下げられてきており、平成27年3月31日までは80%まで認められていましたがその後65%、平成29年4月からは50%となっています。
減資により減価償却費の一括計上が可能に
減資を行い資本金または出資金が1億円以下になれば、「中小企業者等」に該当し、取得価額30万円未満の減価償却資産で一定のものを取得するなどして事業の用に供した場合、適用を受ける事業年度においてその全額を費用とすることができます。
これらの制度は減資により資本金の額を抑えることにより使うことのできる優遇制度で、活用することにより間接的に節税することができます。
減資によるメリット
節税できる
減資による大きなメリットはやはり「節税」面での部分が大きいものとなります。
先ほどご紹介した法人税関係は資本金の額が1億円を超えるか超えないかによって数十万〜数百万の違いがあります。
また資本金1,000万円未満であれば消費税も2年間免税されます。
企業の体質改善
また減資によるメリットはその他に、「企業の体質改善」があります。
無償減資を行うことで貸借対照表の資本金と繰越欠損金の相殺を行います。この相殺により累積赤字を減額させることができますので貸借対照表上の見栄えを改善できます。
そのことにより銀行などからの融資も受けやすくなります。
減資によるデメリット
逆に減資を行うことによるデメリットはどのようなものがあるでしょうか。
有償減資か無償減資かによって異なりますが、減資を行うことにより以下のデメリットが考えられます。
会社財産の流出
有償減資を行う場合のデメリットとして「会社財産の流出」が考えられます。
有償減資では資本金の減少に伴いその他資本剰余金を財源とする剰余金の配当を行うため、会社の財産が配当として流出してしまいます。
会社の信用低下
また無償減資を行うことによるデメリットは資本金額が減少しますので会社の信用低下に繋がる恐れに繋がるということです
シャープが行なおうとした減資による節税対策
以前「シャープ」が1,200億円以上ある資本金を1億円に減らすという計画を立てたことがありました。しかし実際にはこの計画は実行されず減資は5億円に留められます。
仮に1億円まで減資されていれば「中小企業」という扱いになり、外形標準課税の対象外となりますし、その他の様々な税制面での優遇を受けることができました。
シャープとしては税制面での優遇はメインではなかったと主張していますが、世間からは税金逃れとして批判を受けることになります。
このシャープの例から分かることは「減資」を行うということで株主はもちろん様々な関係者にも影響を与えるということです。
企業が減資を行うことで「あの会社は業績が危ないのかもしれない」との印象を与えることになるかもしれませんし、企業イメージに傷をつける可能性もあります。
もし「節税面」だけど考えて減資を行おうかと検討している場合にはその他関係者への影響も考慮しましょう。
まとめ:減資で外形標準課税の対象外に!均等割を減額する方法
今回の記事では資本金を減らすことによる節税方法をご紹介しました。
1億円以下への減資を行うことで外形標準課税の対象外にすることができ、その場合、「付加価値割」と「資本割」を節税することができます。また資本金の額によっては法人地方税の「均等割」も抑えることができます。
減資を行うためには原則株主総会の特別決議により定めます。減資により間接的に節税につながるその他のメリットもあります。ただし、会社財産の流出や会社の信用低下などのデメリットもあるので注意しましょう。
減資による節税をお考えの方は弊社の節税コンサルティングサービスにご相談ください。