赤字会社の買収は節税対策になる?繰越欠損金の節税効果

赤字会社の買収は節税対策になる?繰越欠損金の節税効果企業経営者に必要な知識
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赤字の会社を買収すれば、買収先の繰越欠損金を使って節税効果があるのでは?
そうお考えの経営者の方も少なくないようです。しかし、実際のところ赤字会社の繰越欠損金を引き継ぐためには、買収の際に様々な条件をクリアしていなければなりません。今回の記事では赤字会社を買収することで得られる節税効果や、赤字を引き継ぐための条件について解説していきます。

赤字会社の繰越欠損金とは

まず、赤字会社が保有している「繰越欠損金」とは何でしょうか。繰越欠損金とは、翌期以降に繰り越すことができる会社が持っている赤字のことをいいます。

売上(益金)よりも経費(損金)が多く、利益がマイナスになっている場合に会社に赤字が計上されます。会社が赤字を計上した場合、一定の条件を満たしているとその赤字を翌期以降に繰り越すことができます。
つまり、翌期以降(繰越期限切れとなるまでの期間)に黒字(課税所得)が発生した場合にはその黒字部分を減額することができるのです。

繰越欠損金額を確認する方法

会社が保有している翌期以降に繰り越すことができる赤字のことを「繰越欠損金」と言います。
繰越欠損金額を確認するためには、法人税の申告書の「別表1」にある「翌期へ繰越す欠損金・災害損失金額」という欄を見ます。そこにある金額が会社の保有している繰越欠損金の合計金額となります。

また別表7を確認することでいつ発生した赤字なのか、いつまで使うことができるかなど繰越欠損金の明細を確認することができます。

買収先の会社の繰越欠損金を確認する際には法人税の申告書別表1、別表7を確認しましょう。

繰越欠損金控除を行うための条件

この繰越欠損金控除を使うためには一定の条件を満たしている必要があります。繰越欠損金控除を使うための法人の要件は以下のとおりです。

  1. 欠損金が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出している
  2. その後の各事業年度も連続して確定申告書(青色申告書でなくとも良い)を提出している
  3. 帳簿書類等を保存している

また法人の規模としては資本金1億円以下である場合、繰越欠損金のうちその事業年度の所得金額までを、資本金1億円超の場合にはその事業年度の所得金額の100分の50までを当期の所得金額から控除することができます。

10年を過ぎた欠損金は繰り越すことができない

この繰越欠損を行うことができる期間は平成30年4月1日以後に開始する事業年度においては期間「10年」とされています。
つまり10年を過ぎた欠損金は繰り越すことができなくなります。

また先程の資本金1億円超の法人の場合、控除の限度額はその事業年度によって異なり、平成27年3月31日までは80%、平成29年3月31日までは65%、平成29年4月1日〜50%の控除限度額が定められています。

繰越欠損金を使った節税効果

では繰越欠損金を使うことでどの程度の節税効果が見込めるのでしょうか。
繰越欠損金は翌年以降の決算において損金参入できるので、その年に納める税金を減らすことができます。

仮に今期の利益が200万円であった場合、法人税率を30%とすると60万円の法人税等が発生します。

200万円×30%=60万円

しかし、もし前年までの繰越欠損金が100万円あった場合、

(200万円−100万円)×30%=30万円

となり、30万円の税金を抑えることができます。
繰越欠損金が100万円あるから100万円税金が安くなるわけではありませんので注意しましょう。

赤字会社を買収することが節税になる仕組み

この繰越欠損金を利用した節税が赤字会社を買収することによる節税対策です。
様々な条件を満たしている必要がありますが、赤字会社を買収することでその赤字会社が保有している「繰越欠損金」も引継ぎ、合併法人が保有している黒字と相殺させることができます。

しかし、買収先の繰越欠損金を引き継ぐためには様々な条件も課されています。
税務署としては租税回避防止のため多くの条件を課しています。黒字の企業が税金逃れのために赤字の会社を買収するということも容易に考えられるからです。
そのため買収から5年間、繰越欠損金は使うことができないなどの制限が課される場合もあります。

特に節税目的だけで赤字会社との合併を考えている場合、赤字の使用が認められないケースに該当することが多くなります。また節税目的だけでない場合であっても条件に該当せず繰越欠損金を使えない場合もあるので注意しましょう。

買収した会社の繰越欠損金を使うための条件

では具体的に、どのような買収であれば繰越欠損金を使うことができるのでしょうか。まず、繰越欠損金のある会社を株式取得により買収し子会社とした場合、その子会社自身がその後黒字化して繰越欠損金を使用するのであれば法律上の制限は特にありません。

その他の合併では

  • 適格合併であること
  • 一定の完全支配関係内において清算された法人であること

の条件を満たしていれば繰越欠損金を引き継ぐことができます。

適格合併とは

繰越欠損金の引き継ぎに必要な「税制適格要件」を満たす合併のこと

まず適格合併とは、「税制適格要件」を満たしている合併のことを言います。
この要件を満たしている場合には合併時に法人税が課されません。またこの要件を満たしていないと繰越欠損金の引き継ぎを行うことはできません。

では適格合併とみなされるためにはどのような要件を満たしている必要があるのでしょうか。大きく分けて以下の要件があります。

  • 金銭等の不交付
  • 完全支配関係(支配関係)の継続
  • 従業者の引継ぎ
  • 事業の継続
  • 事業の関連性
  • 事業規模
  • 経営参画

金銭等の不交付

合併の対価として合併法人の株式等以外の資産が交付されないことが要件となります。

完全支配関係(支配関係)継続

合併前に完全支配関係または支配関係があり、合併後もその関係の継続が見込まれていることが要件となります。

従業者の引継ぎ

被合併法人の直前の従業者の概ね80%以上が合併後に合併法人の業務に従事することが見込まれていることが要件となります。

事業の継続

被合併法人が合併前に営んでいた主要な事業を合併後にも合併法人において引き継がれることが見込まれることが要件となります。

事業の関連性

被合併法人の被合併事業と合併法人の合併事業が相互に関連するものであることが要件となります。

事業の規模

合併法人と被合併法人の売上高、従業者数、資本金の額のいずれかが概ね5倍を超えないことが要件となります。

経営参画

合併法人の特定役員のうち1名以上と被合併法人の特定役員のうちの1名以上が合併後の合併法人の特定役員になることが見込まれていることが要件となります。

※適格合併であれば無条件に繰越欠損金引継ぎを行えるわけではありません。

買収先の会社との関係により適格合併の条件は異なる

これまでご紹介した適格合併の要件は、必ずしもすべて満たしている必要があるわけではなく、買収先の会社と買収元の会社の関係によりどの要件を満たしている必要があるのかが異なってきます。

完全支配関係のある法人間の合併の場合

まず、完全支配関係の合併である場合には、

  • 金銭等の不交付
  • 完全支配関係の継続

の2つの要件を満たしていれば適格合併とみなされます。

※完全支配関係とは、法人の発行済株式100%を直接、もしくは間接に保有する関係のことを言います。

支配関係のある法人間の合併の場合

支配関係のある法人間の合併の場合には、

  • 金銭等の不交付
  • 従業者の引継ぎ
  • 事業の継続
  • 支配関係の継続

の4つの要件を満たしていれば適格合併とみなされます。

※支配関係とは、法人の発行済株式50%超を直接、もしくは間接に保有する関係のことを言います。

共同事業を行うための合併

合併法人と被合併法人間に特に完全支配関係や支配関係がない場合でも、共同で事業を行うための合併であれば適格合併とみなされる場合があります。

しかしこの場合には

  • 金銭等の不交付
  • 事業の関連性
  • 事業規模または経営参画要件
  • 従業者の引継ぎ
  • 事業の継続
  • 支配関係の継続

の全ての要件を満たしている必要があります。

繰越欠損金の引継制限

これまで適格合併の要件についてご紹介してきましたが、適格合併であれば必ずしも全て繰越欠損金の引き継ぎができるわけではありません。
税務署では租税回避防止のため「繰越欠損金の引継制限」というものを定めています。

繰越欠損金の引継制限が発生するケース

ではどのような場合に繰越欠損金の引き継ぎ制限が発生するのでしょうか。
具体的には、

  • 5年超の支配関係または設立時からの支配関係がない
  • みなし共同事業要件を満たす適格組織再編ではない

場合に制限が発生します。それぞれに内容について詳しく見ていきましょう。

5年超の支配関係または設立時からの支配関係がない

被合併法人と合併法人との間に、次のうちの最も遅い日から継続して支配関係がなければなりません。

  • 適格合併の日の属する事業年度の開始日から5年前
  • 日合併法人またはその合併法人設立の日

つまり5年経過して支配関係が継続しているか、または設立時から支配関係があるかが要件となります。それらの要件を満たしていない場合には繰越欠損金の引継制限」が発生します。

みなし共同事業要件を満たす適格組織再編ではない

みなし共同事業要件には、

  1. 事業関連性要件
  2. 事業規模要件
  3. 事業継続要件

が含まれており、2と3を満たしていない場合には経営参画要件を満たしていることが必要となります。

100%出資での5年経過後なら繰越欠損金を全額引き継げる

また一定の完全支配関係内において清算された法人である場合にも買収した会社の繰越欠損金を使うことができます。

買収対象企業を清算させる場合の要件も適格合併の場合と似ている部分があり、例えば100%出資の支配関係が5年超経過した後に清算すれば全額引き継ぐことができますが、100%未満の出資の場合や100%の支配関係が5年以内の場合には制限がかかります。

繰越欠損金の引継制限の内容

引継制限が発生した場合には以下の金額が欠損金として認められません。

  • 支配関係発生事業年度前に生じた繰越欠損金
  • 支配関係発生事業年度以後に生じた繰越欠損金のうち、※特定資産譲渡等損失額に相当する金額

※帳簿価額にて資産の移転を受けた法人が、含み損を有する資産の譲渡等により実現した損失(支配関係発生前から再編当事法人が有していた資産の含み損失)

例えば以下のような場合、

  • 5年の支配関係、みなし共同事業要件を満たさない合併
  • 合併直前に繰越欠損金600万円を保有(内訳は支配関係事業年度以前の欠損金200万円、支配関係事業年度以後に生じた欠損金400万円)
  • 支配関係事業年度以後に生じた欠損金400万円のうち100万円は※特定資産譲渡等損失額に相当する金額

このような場合には100万円の繰越欠損金の引継制限が発生します。引き継ぐことのできる欠損金額としては、400万円−100万円=300万円となります。

買収先の繰越欠損金を活用した節税対策の注意点

これまで買収先の繰越欠損金を活用した節税対策についてご紹介してきました。ここでは繰越欠損金を活用した節税対策における注意点をまとめます。繰越欠損金を活用した節税対策をする場合には以下の点に注意しましょう。

  • 繰越欠損金を引き継げるかどうか
  • 欠損金の期限はいつまでか

繰越欠損金を引き継げるかどうか

赤字会社と合併する場合にはこれまでご紹介してきた条件を全て満たしている合併であるかを確認しましょう。それらの条件を満たしていない場合には欠損金を引き継げない可能性もあります。

欠損金の期限はいつまでか

また繰越欠損金はいつまでも使用できるわけではなく、年々その額は減少していきます。赤字会社が保有している欠損金の期限がいつまでのものであるかを事前に確認しておきましょう。

赤字会社との合併による節税対策をする場合、これらのことをよく注意して事前に確認しておく必要があります。

まとめ

今回の記事では繰越欠損金を活用し赤字会社の買収で節税対策を行うことについてご紹介してきました。これまでご紹介してきたように買収先が保有している繰越欠損金を引き継ぐためには様々な条件があります。場合によっては引き継ぐことができない、または制限が発生することもあります。赤字会社を買収することによる節税対策をお考えの方は専門の税理士か節税コンサルティングサービスをご利用ください。

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