留保金課税制度とは
まず「留保金課税制度」とはどのような制度なのでしょうか。留保金課税制度とは「特定同族会社が社内に留保する資金に対して課税する制度」のことを言います。留保金課税は法人税を支払った後会社に残っている留保金に対して課せられる税金のことを言います。
内部留保とは
法人が社内に留保している資金とは具体的にどのような資金のことを言うのでしょうか。
この社内に留保している資金のことを「内部留保」と言います。内部留保とは企業が生み出した利益から税金、配当、役員報酬などを差し引いて残ったもののことを言います。
ただしこの内部留保=現金というわけではありません。
貸借対照表上にある「純資産」の部の利益剰余金や利益準備金がこの内部留保部分にあたります。
法人が利益を出すことによって繰越利益剰余金が増えていきます。
通常その剰余金は配当などを行い株主に還元しますが、配当を行わなければその剰余金が内部留保として溜まっていきます。
ポイント:配当を行わないと内部留保が溜まっていく
留保金に税金が発生するのはなぜ?~留保金課税制度の根拠
ではなぜ留保金課税によって税金が発生するのでしょうか。その課税の根拠はどこにあるのでしょうか。
法人が出した利益に対しては「法人税」がかかります。
その法人が得た利益を留保に対して更に税金をかけるとなると、「二重課税」ではないか?と疑問に思う方もいるかもしれません。
留保金課税制度は法人の「所得税回避」がターゲット
多くの場合、法人に残っている剰余金部分は株主に対する「配当」として還元されます。
配当を受けた株主はその配当金に対して「所得税」が課税されます。
しかし同族会社の場合、この配当所得に対する税金を回避するために”あえて”配当を行わない法人もあります。
この所得税回避行為に対する対策として「留保金課税制度」があるわけです。
同族会社では会社のお金を私的利用しているケースも
例えば同族会社の場合、利益を配当に回さず会社に留保して会社名義の高級車や福利厚生施設を購入するなど、明らかに個人的な使用を目的として会社のお金を使うということも考えられますし、そのような公私混同に近いケースも存在します。
ポイント:留保金課税制度は同族会社の配当所得の税金回避対策のためにある
留保金課税制度の対象要件
この内部留保は全ての法人に対して課税されるわけではありません。
内部留保課税の対象となるのは「特定同族会社」に限ります。
税務署は基本的に同族会社に対して厳しい規定を設けています。
背景としては同族会社に該当する場合には経営者の独断により事業が行われ、法人が経営者の所有物と化しやすいことが理由としてあります。
同族会社に対する3つの特別規定
同族会社は株主=役員であり、身内で経営に関しての重要な意思決定を行うことができてしまいます。
そのようなことから税金面での不正行為などが行われないようにあらかじめ3つの特別規定が設けられています。
同族会社に与えられている3つの特別規定には、
- みなし役員の規定
- 行為計算の否認
- そして特定同族会社の留保金課税
があります。
みなし役員の規定
同族会社では本来役員であるにもかかわらず、「使用人」という形にして給与を支払い法人の利益調整する可能性があります。
そのような租税回避行為を防ぐために特定株主等に該当するものでその会社の経営に従事しているものは役員とみなされます。
行為計算の否認
同族会社は、利益を調整するため、関連会社に対して通常とはかけ離れた価格で売買を行ったりするようなケースがあります。
そのことにより税金負担を不当に減少させたような場合、税務署長の権限でその取引を「無効」にすることもできます。
特定同族会社の留保金課税
そして3つ目の規定が留保金課税です。資本金1億円以上の特定同族会社の留保金が留保金控除額を超える場合、その金額に対して段階的に税金が課税されます。
これら3つの特別規定は同族会社にのみ課されている規定となります。同族会社はその他の会社と比べ経営の意思決定の自由度が高い分租税回避行為が行いやすいため、税務署としても同族会社に対しては厳しい規定を設けているわけです。
特定同族会社とは
留保金課税制度が適用される「特定同族会社」とは、同族会社のうち、1株主グループによる持株割合等が50%を超えている会社のことを言います。
以下のものが株主グループとなります。
- 株主等の親族(配偶者および6親等以内の血族と3親等以内の姻族)
- 株主等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
- 株主等(個人である株主等に限る。次号において同じ。)の使用人
- 1〜3に掲げる者以外の者で株主等から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの
- 1〜3に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族
改正により資本金額1億円以下は対象外に
平成19年度の税制改正により、中小企業にとって資金の確保や信用力向上などを図るために利益の内部留保が不可欠であるとして,留保金課税は縮小傾向にあります。
この改正によれば、資本金学1億円以下の特定同族会社は留保金課税制度の対象外となりました。(資本金または出資金5億円以上の法人の100%子法人等を除く)また清算中の会社は特定同族会社になりません。
ポイント:資本金1億円以下の法人は留保金課税の対象にはならない
留保金課税の税率と計算方法
ではこの留保金課税はどのようにして算定されるのでしょうか。
まず留保金額ですが、留保金は、対象の期の課税所得に受取配当金や益金不算入額、繰越欠損金金の損金算入額をプラスして、剰余金の配当や役員賞与などの社外流出金額、法人税額をマイナスした金額となります。
留保金額=課税所得+課税外所得項目※1-社外流出金額※2-法人税
※1 課税外所得…受取配当等の益金不算入額や繰越欠損金の損金算入額などの所得は減少するが純資産は減少しない項目。
※2 社外流出額…配当金や役員賞与など、会社の内部に留まらずに外部に流出する項目。
留保金額が算定されたら次にその金額から「留保控除額」を差し引き課税留保金額の算定を行います。
課税留保金額=留保金額−留保金控除
留保金控除の算定方法
では「留保金控除」はどのようにして算定されるのでしょうか。
留保金控除は以下の3つの基準のうち、最も高い金額を控除額とすることができます。
- 所得基準額:所得等の金額の40%相当
- 定額基準額:2,000万円×当期の月数/12
- 利益積立金基準額:期末資本金の25%相当-(期首利益積立金額-前期末配当額)
ポイント:留保金控除は1〜3のうち最も高い金額
留保金課税の税率
留保金から留保金控除を差し引くと課税留保金額が算定されますので、その金額に対して税率をかけることによって留保金課税が決定します。
(留保金−留保金控除)×留保金税率
留保金課税の税率は課税留保金額によって段階的に変わっていきます。
課税対象となる留保金のうち、3,000万円以下部分に対しては「10%」、3,000万円超1億円以下の部分には「15%」、1億円超には「20%」を乗じた金額を乗じ、その合計で求めることができます。
課税留保金額 | 税率 |
---|---|
年3,000万円以下 | 10% |
年3,000万円超1億円以下 | 15% |
年1億円超 | 20% |
例)課税留保金額が1億2,000万円だった場合
まずそれぞれの税率で税額を算出します。
3,000万円×10%=300万円
7,000万円×15%=1,050万円
2,000万円×20%=400万円
その後それぞれの合計額を算出します。
300万円+1,050万円+400万円=1,750万円
この場合、課税留保税額は1,750万円となります。
内部留保と現金が一致しない理由
内部留保は、現金や預金として会社に同額が残っているように思えますが、実はそうではありません。法人が作りだす利益が内部留保となっていきますが、現金は利益だけから生み出されるわけではありません。
内部留保は利益以外の現金の増加・減少も含めてカウントされる
例えば利益を出していなくても借り入れを行えば現金は増えます。
また固定資産などを購入した場合には現金はマイナスとなりますが会社の利益はその分減るかというとそういうわけではありません。その期の費用となるのは耐用年数で按分した部分のみとなります。
そのため、内部留保の額と同額が必ず手元に現金としてあるかというと、必ずしもそうではありません。
ポイント:内部留保と現金は必ずしも一致しない
留保金課税に対しての節税対策
日本にある多くの中小企業は親族で経営している場合が多く、「特定同族会社」に該当します。ではどのようにしてこの留保金課税に対しての節税対策を行えば良いのでしょうか。
節税方法は大きく分けて3つあります。1つ目は資本金を1億円以下に抑えること、もう1つは留保金自体を抑えること、そして最後に配当を行う方法です。
ポイント:節税方法は資本金を1億円以下に抑えることと、留保金を抑えること、配当を行うこと
減資により資本金を減らす
資本金の額が1億円以下であれば留保金課税制度に該当しません。
これから会社を立ち上げるという場合には資本金を1億円以下にすることで留保金課税制度の対象外となります。もしすでに法人が資本金1億円を超えている場合、どのようにすれば資本金の額を減らすことができるのでしょうか。
資本金の額を減らす1つの方法が減資です。
減資には有償減資と無償減資がありますが、会社に赤字が溜まっているような場合、欠損金を資本金で補填するために行う無償減資を行うことができます。
無償減資であれば株主に配当などは行わずに資本金の額を減額することができます。
この減資により資本金の額が1億円以下になれば留保金課税は支払わなくて済みます。
分社化により資本金を減らす
資本金を1億円以下に抑えるもう1つの方法は分社化です。
複数の事業を持っている場合、その事業を独立させた法人に分けることによって資本金を抑えることができます。
分社化した分、資本金も分散しますので、この分社化によって資本金額を1億円以下に抑えることができれれば、留保金課税の対象ではなくなります。
その他資本金を1億円以下に抑えることによって、
- 軽減税率
- 年800万円の非課税枠
- 繰越欠損金の全額控除
- 少額減価償却資産の損金算入特例
- 外形標準課税の適用除外
など様々な税金面での恩恵を受けることができます。
赤字を作り留保金課税を節税
留保金は先ほどご紹介したように貸借対照表上の利益剰余金または利益準備金の部分にあたります。
この利益剰余金を減らす方法は、赤字を作り決算書の利益を減らすことにあります。赤字ができればその分留保金も減っていきます。人件費や販売促進費、必要な設備投資などを行うことで経費を作り赤字を作っていくことができます。
しかし注意しなければならないのは、固定資産を購入した場合、全額経費になるわけではなく一度資産の部に入るので、経費として落とすことができるのは耐用年数で按分した毎年の減価償却費部分のみとなります。
配当により留保金課税を節税
もちろん配当を行うことで留保金課税を節税することができます。配当を行おうとする際には以下の仕分けが行われます。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
繰越利益剰余金 | 3,000 | 未払配当金 | 3,000 |
つまり配当を行うことで内部留保となる利益剰余金を減少させることができるのです。
しかしこの配当を受け取ることで株主個人に対して所得税が課されます。
上場株式等以外の配当に対しては20.42%の税率で所得税が課税され決して低い税率ではありません。
節税対策として配当を行う場合には所得税の個人負担分と法人の法人税負担を総合的にみて判断する必要があります。
まとめ:特定同族会社への留保金課税への節税対策
今回の記事では特定同族会社への留保金課税とその節税対策についてご紹介してきました。
同族会社に対しての特別規定の1つである留保金課税は配当所得に対する回避行為対策として設けられています。
しかしこの規定には平成19年度の税制改正により、現在では資本金1億円以下であれば課税されません。法人としてできる節税対策としては減資または分社化により資本金を1億円以下にすること、赤字を作り内部留保を減らしていくこと、配当を行うことがあります。
どの節税を行うにしても難易度が高い節税対策となりますので、留保金課税に対しての節税をお考えの場合には弊社の節税コンサルティングサービスにご相談ください。