利益とキャッシュの違い
利益は「会計上の利益」
利益とは、会社の営業活動によって生み出されたお金のことです。いわゆる儲けを意味します。「収益-費用」で算出し、会社にとって純粋にプラスになったお金を表します。収益は売上、費用は仕入れ代や人件費、賃借料、減価償却費などの項目があります。
利益の算出によって、会社がどのくらい収益や損益が出ているか、全体に占める費用の割合などの確認もできます。税金の算出や経営が順調かどうかのチェックにも役立つでしょう。利益がマイナスということは、会社が赤字の状態だとわかるからです。
赤字が続くと、借入や融資を受けることも難しくなり、会社の運営に影響が出るリスクがあります。利益を出すこと、利益の管理を行うことは、会社の順調な運営のために非常に重要といえるでしょう。
ただし、利益はあくまで「会計上の利益」、つまり帳簿上の儲けを表します。現実に残っているお金とは区別して考える必要があります
キャッシュは現預金
キャッシュは資金を意味します。資金とは事業を行う元手となる現金および預金のことで、実際に会社に入ってくるお金です。
会社の運営には、利益だけでなくキャッシュの管理も大切です。キャッシュをチェックすることは、会社を運営する現預金があるかどうかを確認する指標になります。どんなに儲かっていても、現実に資金が不足していると、会社の運営はできないからです。
キャッシュフローとは
会社のお金の流れを表す計算書
キャッシュフローとは、現金及び現金同等物の流れ、つまり「資金の流れ」を表す計算書のことです。キャッシュフローは「収入-支出」で算出し、会社の資金や収支の管理に役立ちます。チェックすることにより、会社内でお金がどのように出入りして、どのくらい資金が残っているかを把握できるからです。
営業キャッシュフロー
キャッシュ・フローのタイプは3種類に分かれます。ひとつは営業キャッシュフローです。
営業キャッシュフローは、本業の営業活動によって、どれだけキャッシュを生み出したかを示すものです。営業キャッシュフローがプラスであればあるほど、本業の営業活動も順調と判断できます。営業利益よりも多い場合も、キャッシュが増加した利益といえます。
ただし、営業キャッシュフローがプラスでも、営業利益よりキャッシュフローが少ない場合は、販売代金の回収が遅れているなど、何かマイナス要因が多い可能性があります。
投資キャッシュフロー
投資キャッシュフローは、投資活動によって生じるキャッシュの増減を表すものです。投資活動とは、営業する上で必要な工場や事務所、車両などの固定資産や設備の取得・売却をすることです。
会社を運営する上で、投資活動をまったくしないわけにはいかないので、投資キャッシュフローはマイナスになるのが一般的です。ただし、マイナスの値が少ないほどベターです。
財務キャッシュフロー
財務キャッシュフローは、借入金や社債発行などによる資金の調達や返済の状況、配当金の支払いなどを表すものです。
財務キャッシュフローでは、借入金の上限をチェックすることが大切です。返済能力以上に借入を行うと、健全な運営に支障をきたす恐れがあるためです。
利益とキャッシュフローの違い
利益は発生主義、キャッシュフローは現金主義
利益とキャッシュフローとの違いは、発生主義か現金主義、どちらの考え方をするかによります。
利益は発生主義で考えます。発生主義とは、現金の受領や支払いの有無にかかわらず、事実が発生したときに売上や経費を計上する考え方です。事実とは、権利義務の発生や、モノやサービスを消費した時点をいいます。
例えば2月に1,000万円の売上があり、実際会社にお金が入ってくるのは4月だとします。発生主義の場合、損益計算書に計上する売上高は、2月時点で計上します。
一方、キャッシュフローは基本的に現金主義です。現金主義とは、収入も支出も、実際の現金の受領事実、支払事実に合わせて計上する考え方です。先ほど、2月に売上1,000万円があって4月にお金が入ってくる場合、現金主義では4月に売上を計上します。
また、利益は会計原則と照らし合わせて、ある程度コントロールが可能です。しかし、キャッシュフローは「事実を表す」といわれるように、現金の受領や支払いの事実に基づいて算出されるものなので、コントロールができないのも異なる点といえるでしょう。
売上と売掛金回収時期のズレ
利益とキャッシュフローとの違いが出やすい、代表的なケースとして売上と売掛金回収時期のズレがあります。
例えば小売業の場合、現金や商品券等による販売分も、クレジットカード払いによる売掛取引分も、会計上は売上として収益に計上されます。
ですが、クレジットカード払いによる売掛取引分は、当月は売掛金となり、カード会社から入金されるのは翌月以降です。したがって、キャッシュフロー上では、当期に現金回収した分と、販売したのは前期でも当期に現金回収した分が収入として計上されます。
したがって、期末月にクレジットカード払いで取引した分は、当期のキャッシュフローに含まれません。反対に、前期の期末月にクレジットカード払いで販売した分は、当期の初月に回収されていることから、当期のキャッシュフローに含まれます。
仕入と買掛金支払の相違
利益とキャッシュフローは、仕入れと買掛金の支払いでも違いが生まれやすいです。
利益の場合、会計上は商品を仕入れた分を、費用の当期仕入高として計上します。利益は仕入れを行った時点で費用を計上するからです。
一方でキャッシュフロー上は、買掛金を支払った時点で計算します。したがって、キャッシュフローの支出では、当期に商品を仕入れた分で当期中に代金の支払った分と、前期に商品を仕入れて当期に代金の支払いをした分とが計上されます。
固定資産購入と減価償却費
固定資産の購入と減価償却費も、利益とキャッシュフローの代表的な相違点です。
減価償却費は、固定資産など長期間活用されるものを現金一括購入しても、複数年にわたって効果が発揮されるとする考え方です。実際には現金の収入・支出がなくても、会計上は費用(経費)として計上します。
例えば3,000万円の建物を購入したとします。購入時に3,000万円の支払いが必要ですが、会計上の費用は発生しません。まだ建物を使用していないからです。ですが、キャッシュフロー上は3,000万円の支出となります。
その後、30年間にわたって建物を使用していくとすると、会計上は毎年一定額の減価償却費用が発生しますが、キャッシュフロー上は何も発生しません。建物を使用するだけなので、収入や支出は発生しないからです。
利益だけ見ることは、黒字倒産のリスクに
利益とキャッシュフローとは、しばしば差が生まれるため、利益ばかり見て経営を行うことは、黒字倒産のリスクにもなります。
黒字倒産とは、利益は黒字なのにキャッシュがマイナスになって資金が不足し、借入金の返済や手形の支払いができず、倒産してしまうことです。
例えば、1月に売上が100万円あったとします。会計上は1月に100万円の売上が計上され会社の収益はプラスになりますが、実際に会社にお金が入ってくるのは1~3か月後というのが一般的です。
しかし、経費の支払いは実際にお金が入ってくる前に行うことが多いです。売上の入金より仕入れ代金の支払いのほうが早いと、いくら売り上げがたくさんあっても、キャッシュに余裕がなくなり、資金繰りも苦しくなります。
せっかく利益が出ていても、キャッシュがなくなって倒産しては元も子もありません。円滑な経営を行うには、利益だけでなく、キャッシュフローを管理することも大切です。
キャッシュフロー経営とは?
資金の動きを把握し、手元資金を増やす経営手法
キャッシュフロー経営とは、会社の手元にキャッシュ(現金)を増やすことを目的として、資金調達や節税を行い、経営する手法です。利益管理も行いますが、現金を回収した時点を基準に、まずは会社のキャッシュを確保し、増やすことを第一に考えます。
特に営業キャッシュフローがプラスになっている場合は注意が必要です。現金の回収がうまくいっていないなど、何らかの問題が発生していることがあるので、資金調達の検討や、早急な改善が必要です。
健全な経営を行うには、帳簿の数字だけ見るのではなく、現状の資金繰りを把握することが重要です。キャッシュフロー経営は実際の資金の動きを把握する経営手法なので、ある日突然資金不足に気づくなどのリスクを防ぐことにつながるはずです。資金の流れを把握すれば、資金の確保から経営の安定化にもつながるでしょう。
よりタイムリーに資金繰りを把握するためには、過去の実績をもとに将来を予測した資金繰り表を作成するのも効果的な手段です。予測した資金繰り表に日々の実績を記録していけば、さらに予測の精度を高めることもできるでしょう。
また、金融機関の融資では決算書が重要視される一方で、株主や投資家はキャッシュフローで経営状態を判断するのが一般的です。キャッシュフロー管理を行うことは、株主や投資家からの資金調達面でもプラスに働くはずです。
ただ、キャッシュフロー経営でも、キャッシュを増やすには利益を増やすことが第一です。利益はあくまで会計上の利益で、実際の資金の動きとは異なりますが、長期的に見れば利益とキャッシュフローは等しくなるためです。
長期的には利益の増加がキャッシュフローを増やす基本
キャッシュフロー経営では常に資金繰りの確認を
会社を経営する上にあたっては利益とキャッシュの違いを知り、キャッシュフロー経営を行うことが大切です。キャッシュフロー経営では、利益を増やし、キャッシュを蓄えることを第一に、常に資金繰りの確認をすることも大切になるでしょう。
ただ、利益管理のみ、あるいはキャッシュフローの管理のみを行うのも、健全な経営につなげることが難しいでしょう。利益ばかり目が行くと、黒字倒産のリスクがありますし、キャッシュフローばかり見ていると、会社の正しい損益が分からなくなるからです。それぞれを把握して、会社の状況を判断することが大切といえるでしょう。