役員報酬を夫婦で分割することにより節税効果があることをご存知でしたか?同族で会社を経営しているような場合、役員報酬を夫婦で分割することにより所得税、住民税の節税効果が期待できます。ただし注意点もあるので今回の記事でメリットやデメリットも含めて確認していきましょう。
役員報酬とは
まず始めに「役員報酬」とはどのようなものを指すのでしょうか。
「給与」は雇用関係にある従業員に労働の対価として支払うものですが、「役員報酬」は取締役、執行役、会計参与、監査役などの役員に対して支払うものとなります。
基本的に役員に対しては、手当てや残業代などは支払われず固定額としての報酬が支払われます。
税務上、この役員報酬を損金(税金計算上の経費)に算入するためには一定の条件があり、
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 利益連動給与
でなければ損金としては認められません。
定期同額給与は原則として1年間月々の支給額は同額でなければならず、事前確定届出給与はあらかじめ所定の時期に税務署に報酬額を届け出しなければなりません。
また利益連動給与は有価証券報告書に記載される指標などから算定されるものとなります。
役員報酬に制限がある理由
ではなぜ上記の3種類の役員報酬しか損金として認められないのでしょうか。
同族で会社を経営しているような場合、役員報酬はどうしても金額を調整しやすい経費となります。
利益を削減し法人税を抑えるために決算直前に役員報酬を増額させるということも十分に考えられます。
役員報酬で法人税が少なくなるよう利益調整をさせないため
例えば、法人に5,000万円の利益が出ている場合、法人税等の税率を30%とすると、1500万円の法人税等を負担しなければなりません。
しかし、もし役員報酬を役員全体で1,000万円増加させるならば、法人の利益は4,000万円まで圧縮され、法人税等も1200万円になります。
この場合法人税を300万円も抑えることができてしまいます。
税法上ではそのような利益調整が行われないよう、役員報酬が損金として認められるためには様々な制限があるというわけです。
役員報酬を夫婦で分割する税金面でのメリット
同族で会社を経営している場合、配偶者が役員になっていることが多々あります。このような場合には配偶者にも役員報酬を支払い、夫婦で報酬を分割することにより税金面でのメリットが発生します。
具体的には、所得を夫婦で分散することによってそれぞれが負担する税金を下げることができるようになります。
ここで節税することができる税金というのは役員個人にかかる「所得税」と「住民税」部分になります。
役員報酬を夫婦で分割するメリット:所得税を節税
まず役員報酬を夫婦で分割することにより所得税を節税することができます。
所得税は超過累進税率を採用しているため所得が下がると税率も下がる仕組みになっています。
つまり夫婦で所得が分散されることにより低い所得税率を採用することができるようになるのです。
例えば、社長一人で1,000万円役員報酬を受け取っている場合と夫婦で500万円ずつ役員報酬を受け取っている場合では以下のような所得税の違いが生じます。
例)社長が一人で1,000万円の役員報酬を受け取っている場合の所得税
1,000万円−220万円(給与所得控除)−38万円(配偶者控除)−38万円(基礎控除)×23%−636,000円
=983,200円
例)夫婦で500万円ずつ役員報酬を受け取っている場合の所得税
一人当たりの所得税
500万円−154万円(給与所得控除)−38万円(基礎控除)×20%−427,500円
=188,500円
夫婦合わせた所得税
188,500円×2人=377,000円
社長が一人で1,000万円の役員報酬を受け取った場合には所得税が983,000円だったのに対し、夫婦で500万円ずつ役員報酬を受け取った場合には夫婦合わせて377,000円まで所得税が下がりました。
所得を分散することにより税金計算に使用する税率も23%から20%に下がっています。
この場合ですと、夫婦で所得を分散することにより約60万円、所得税の節税効果があります。
役員報酬を夫婦で分割するメリット:住民税を節税
節税効果があるのは所得税だけではありません。役員報酬に対して発生する税金は所得税と住民税があります。
- 所得税…国から課税
- 住民税…地方から課税
所得を夫婦で分散することで住民税の課税所得も下げることができます。
住民税は前年の1月から12月までの所得に応じて課税されるもので、納付の時期は課税期間の翌年となります。
納付時期は「普通徴収」か「特別徴収」かによって異なり、普通徴収の場合は6月、8月、10月、1月に納付し、特別徴収の場合には勤務先の会社によって毎月給与から天引きされる形となります。
住民税の税率は課税所得に対して地域差がありますが、基本的には道府県民税4%、市町村民税6%の合計10%の税率が課税されます。
それに加え、「均等割額」としてほぼ一律(非課税の条件を満たさない限り)道府県民税1,500円、市町村民税3,500円が徴収されます。
住民税の課税計算は所得税のものとは異なりますが、こちらも夫婦で報酬を分割することで給与所得控除や基礎控除をそれぞれで使うことができるようになるため、節税効果が期待できます。
役員報酬を夫婦で分割するデメリット
では逆に役員報酬を夫婦で分割することによるデメリットはどのようなものがあるのでしょうか。
配偶者が扶養控除を受けられない場合も
役員報酬を夫婦で分割することで、まず配偶者が社長の扶養から外れる可能性が出てきます。
税務上、配偶者を扶養に入れておくことで38万円の配偶者控除を受けることができます。
配偶者控除を受けるためには配偶者の収入は年間で103万円(合計所得38万円)以下である必要があり、それを超えると配偶者控除を受けることができません。
また配偶者に38万円(令和2年分以降は48万円)を超える所得があるため配偶者控除の適用が受けられないとしても、配偶者の所得金額に応じて、一定の金額の所得控除が受けられる場合があります。
控除を受ける納税者本人の合計所得金額 | ||||
---|---|---|---|---|
900万円以下 | 900万円超 | 950万円超 | ||
950万円以下 | 1,000万円以下 | |||
配偶者の合計所得金額 | 48万円超 95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超 100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 | |
100万円超 105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | |
105万円超 110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | |
110万円超 115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | |
115万円超 120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 | |
120万円超 125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | |
125万円超 130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 | |
130万円超 133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
配偶者控除を受けられなくても、「配偶者特別控除」によって納税者や配偶者の所得に応じで上記の金額、所得控除を受けることができます。
配偶者に対する役員報酬の支払いをこれらの金額以上支給する場合には、配偶者控除や配偶者特別控除を受けることができなくなり、社長自身の所得税額が増加してしまう恐れがあります。
役員報酬を夫婦で分割するタイミング
では夫婦で役員報酬を分割するために役員報酬額を設定する場合、どのタイミングで金額を設定したり変更したりすれば良いのでしょうか。
役員報酬はいつでも変更することができるわけではありません。
役員報酬を変更することができる時期は定められており、先ほどご紹介した定期同額給与と事前確定届出給与の役員報酬変更時期は以下の通りとなります。
定期同額給与の変更時期
定期同額給与では会計期間開始の日から3ヵ月経過日までが変更期日となります。
配偶者の役員報酬を変更する場合にはこの期間中に行わなければなりません。
事前確定届出給与の変更時期
事前確定届出給与の場合には、
- 株主総会の決議の日から1ヵ月以内
- 決算から4か月以内
のいずれか早い日が期限となります。
つまり、事前確定届出給与と定期同額給与いずれの場合も、決算直前に利益調整のために報酬を変更することはできません。
期が始まる前半で利益を予測し報酬額を決定しなければなりません。配偶者の役員報酬を決定するためにはそれぞれ定められた期間内に行いましょう。
配偶者がみなし役員に該当しないかに注意
配偶者が取締役などの役員ではないため「給与」に該当すると考えている場合には注意が必要です。
もちろん役員報酬ではなく給与である場合には、これまでにご紹介して来たような金額や変更時期に対しての縛りはありませんので様々な融通が利きます。
ただし、取締役などの役職ではないとしても、「みなし役員」に該当する場合には税法上「役員」として処理されます。
つまり給与として支払っていたとしても税法上は役員とみなされ金額の変更部分が否認されてしまうこともあるのです。
みなし役員に該当する条件
以下の条件を満たしている場合、みなし役員に該当します。
- 使用人以外の者で経営に従事している者
- 同族会社の使用人のうち、つぎのすべての要件を満たす者
- その会社の株主グループをその所有割合の大きいものから順に並べた場合に、その使用人が所有割合50%を超える第一順位の株主グループに属しているか、または第一順位と第二順位の株主グループの所有割合を合計したときに初めて50%を超える場合のこれらの株主グループに属しているか、あるいは第一順位から第三順位までの株主グループの所有割合を合計したときに初めて50%を超える場合のこれらの株主グループに属していること。
- 2.その使用人の属する株主グループの所有割合が10%を超えていること。
- 3.その使用人(その配偶者及びこれらの者の所有割合が50%を超える場合における他の会社を含みます。)の所有割合が5%を超えていること。
つまり経営に従事していたり、会社の株を過半数以上保有しているような場合、いくら形式上従業員という立場であっても税法上は役員とみなされてしまいます。
妻の役員報酬はいくらに設定すべきか
では妻に役員報酬を支払う場合、金額はいくらに設定すれば良いのでしょうか。
例えば社長と同額の報酬を配偶者が受け取る場合、税務署としてはその役員報酬に見合う実態を確認します。
実態がない状態で役員報酬を支払っているとしたら、その報酬は損金として認められません。配偶者の役員報酬を決定する際にはその「実態」に見合った報酬額を設定する必要があります。
例えば、就学中の未成年が取締役となり役員報酬を受け取っていた事例では勤務実態が無いとされ損金として認められなかった事例もあります。
また控除を受けることができる限度の報酬は配偶者控除が103万円、配偶者特別控除は103〜201万円までとなります。
更に、社会保険の扶養の範囲内となるのは130万円以内となります。社会保険の扶養から外れると妻も個人として社会保険料を負担しなければなりません。
配偶者控除 | 103万円 |
---|---|
配偶者特別控除 | 103〜201万円 |
社会保険 | 130万円 |
役員報酬の金額を設定する場合にはまず実態が伴うこと、そして控除や社会保険の扶養に入るためにはこれらの金額の上限があることも覚えておきましょう。
配偶者が役員に入っていない場合
ではそもそも配偶者が役員に入っていない場合にはどうしたら良いのでしょうか。
配偶者を役員に入れるためには、期首に「株式会社変更登記申請書」を法務局に提出する必要があります。
その他の必要書類としては
- 臨時株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
- 印鑑証明書
を用意しておきましょう。
まとめ:夫婦で役員報酬を分割して節税する
今回の記事では夫婦で役員報酬を分割して節税する方法についてご紹介しました。夫婦で役員報酬を分割することにより、所得税と住民税を節税することができます。所得が分割されることで一人当たりの課税所得が下がり、所得税に関しては税率も下げることができます。
ただし
- 不当に高い役員報酬は認められない
- 金額によっては配偶者控除や配偶者特別控除が受けられなくなる
- 社会保険の扶養から外れる可能性がある
- 役員報酬の金額はいつでも変更できるというわけではない
ということにも注意しておかなければなりません。個別のケースについてのご相談は専門の税理士や節税コンサルティングサービスをご利用ください。