法人の役員社宅(従業員社宅)購入による節税
社宅購入にかかる費用を経費扱いにできる
役員や従業員の社宅購入は、節税に効果的です。
個人で不動産を購入しても、購入にかかる費用や社宅として使用する場合の費用を経費にすることはできませんし、かかる費用は、役員報酬のうち税金や社会保険料を差し引いた後の金額から捻出することになります。しかし、法人名義で購入した場合は、費用の多くを経費計上できます。
さらに、売上の大部分が課税売上になるような業種では、法人名義で社宅購入をすることにより、消費税の節税も可能です。消費税は「受け取った消費税-支払った消費税=納付する消費税」で割り出すのが基本であり、法人名義で社宅を購入した場合、課税される消費税は「支払った消費税」に含まれるからです。
法人による社宅購入のメリット
不動産の減価償却・損金算入で法人税を節税できる
法人で役員や従業員の社宅を購入するメリットのひとつは、減価償却による損金算入で法人税の節税ができることです。減価償却費用とは、耐用年数に応じ、何年かに分けて経費に計上できる費用のことです。
不動産は時間の経過とともに価値が下がるものですが、その分を減価償却で損金として計上できるようになっています。一般的に減価償却できる期間は、木造の場合耐用年数は22年、鉄筋コンクリートの場合は47年となっています。ただし、減価償却できるのは、購入した社宅の建物部分のみで土地は含まれません。
不動産購入で経常利益を800万円未満にして低税率に抑える
役員や従業員の社宅として不動産を購入することにより、経常利益が800万円未満になる場合は、税率を抑える効果も期待できます。個人事業主の場合課税所得金額によって15~50%と幅広く分かれるのに対し、法人は法人税や住民税、事業税の税率が、経常利益の金額によって決まるからです。
経常利益は、400万円以下の場合約22%、800万円未満の場合約23%なのに対し、800万円を超えると約36%まで上がります。不動産を購入することで経常利益を800万円未満に抑えられれば、節税につながるでしょう。
多くの項目を経費計上できる
法人名義で役員や従業員の社宅を購入すると、購入にかかる費用や、毎年支払いが必要な費用の多くを会社の経費に計上できるメリットもあります。多くの項目を経費計上して、損金に算入できるので、会社の利益を少なく見せることができ、結果的に節税にもつながります。経費として扱える具体的な項目は下記の通りです。
- 物件購入時の借入金の利息
- 土地建物にかかる不動産取得税
- 不動産登記費用(土地の所有権移転登記、建物の表題登記、所有権保存登記、抵当権設定登記など)
- 不動産売買仲介会社へ支払う仲介手数料
- 印紙税(収入印紙代)
- 固定資産税
- 修繕費・維持費(リフォーム費用、修繕積立金、建物の清掃や点検などの維持管理費)
- 損害保険料(火災保険料、地震保険料)
相続税対策になる
社宅購入は、相続税対策になることもあります。相続が発生した場合、個人名義で住んでいる家を相続する場合に比べ、会社が保有している家を相続する場合のほうが、相続税を節税できることが多いからです。また、社宅について、同族関係者による不動産経営をしていることにすれば、役員給与という形で現金による生前贈与として、相続することも可能です。
会社が保有している家を相続するほうが相続税の評価額が安くなるのは、個人所有の場合、不動産の評価額を考慮した上で相続税が算出されるからです。法人名義の場合、不動産の評価額が関係してくることはほぼないといっていいでしょう。会社の相続では会社の株をいくらで相続できるか、株式の価値のほうが相続財産として重視されやすいからです。
ただし、必ず相続税が安くなるとは限りません。社宅のある土地を会社が所有する場合、小規模宅地等の特例などが使えないからです。相続税対策で社宅購入を検討する場合は、顧問税理士にも相談したほうがよいでしょう。
保育料の節約になる場合も
法人名義で役員や従業員の社宅を購入することは、節税だけでなく保育料の節約にもなることがあります。保育園の保育料や、入園の審査は、住民税の所得割課税額が低いほど保育料が安く、入園もしやすくなる自治体がほとんどだからです。社宅を購入すると、その分所得金額を低く見せられるため、低い保育料で入園がしやすくなることが多いです。
法人による社宅購入のデメリット
住宅ローン控除が利用できない
法人名義で役員や従業員の社宅を購入することには、デメリットもあります。ひとつは住宅ローン控除が利用できず、金利が高くなりやすいことです。
個人名義で購入する場合は、住宅ローン控除により所得税の控除を受けられますが、法人では利用できないため節税にはなりません。住宅ローン控除は、契約者がその住宅に住んでいることが条件になるためです。
法人名義の場合、不動産担保融資や事業用ローンで借りることになり、金利2.5~5%程度と住宅ローンに比べ高くなりやすいです。個人の場合に利用することが多いフラット35も、法人の場合は利用できません。
さらに、法人名義で社宅を購入する場合は、個人で購入する場合に比べ銀行からの融資を受けにくくなることや、返済期間が短くなることもあります。社宅の購入は、不動産投資のように、収益を得ることが目的で購入するわけではないからです。購入する場合は、会社の資金に余裕がないと資金繰りが厳しくなる場合もあるでしょう。
ただ、法人で役員や従業員の社宅を購入する際、借入ができれば、借入金の利息は経費計上でき、節税につながります。金利自体は、個人で住宅ローンを組むほうが低くなりやすいですが、社宅購入や使用にかかる費用は経費計上できる分、長い目で見ると節税につながる可能性はあるでしょう。
固定資産税や不動産取得税の発生
役員社宅や従業員用の社宅を購入すると、購入時や購入後、さまざまな費用がかかるのもデメリットです。例えば購入時には不動産取得税や登録免許税、印紙税、消費税が必要です。
購入後も、毎年固定資産税や、所得税、住民税のほか、地域によっては都市計画税の支払いが発生します。ただし経費に計上できるものも多いため、結果的に節税につながることもあるでしょう。
社宅購入後の管理・維持費用が必要
役員や従業員の社宅購入には、購入後の維持管理費用や保険料がかかるのもデメリットといえます。一戸建ても、マンションやアパートなどであっても、一定期間を経過するとリフォームや修繕が必要です。費用は経費に計上できることが多いといっても、ある程度蓄えが必要になるでしょう。
購入した社宅を売却する場合、税額が高くなる可能性
法人名義で社宅を購入する場合、売却するにあたって利益(売却益)が生じたときは、税額が高くなる可能性があるので注意が必要です。税額が高くなるのは、法人の場合、売却時に出た利益はそのまま法人税の課税対象になるからです。
個人の場合は、個人の場合は、条件が適合すれば3,000万円分が非課税になる特別控除や、相続の際、敷地部分について小規模宅地等の特例を使えます。しかし、どちらも法人の場合は活用することができません。
社宅を購入したとしても、将来的に家族の人数が減り、売却して住み替えや賃貸に引っ越すことや、社員数が減って従業員用の社宅が必要なくなることはあるでしょう。法人で役員や従業員の社宅購入を行う場合は、売却するときのことも考えて購入を検討したほうがいいと考えられます。
ちなみに、購入した社宅を売却するにあたり、売却損が生じる場合は法人税が減税されます。法人名義の場合は、損をした分はそのまま損金扱いとなるからです。ちなみに、個人の場合も売却損が出る場合は、所得税が軽減されます。
役員社宅(従業員社宅)を使用する場合の家賃
経営者は会社へ社宅の家賃を支払う必要がある
法人名義で役員や従業員の社宅を購入し、使用する場合、経営者は会社に家賃を支払わなければなりません。
家賃の額は、国税庁により定められた、「一定の家賃」以上となっており、一般的な家賃相場の20%程度と、相場より安く抑えられることがほとんどです。ですが、無条件で済めるわけではないことと、家賃の金額は国税庁が定めた金額より少ないと役員報酬とみなされるので注意が必要です。
ただし、社会通念上社宅と認められないような「豪華社宅」の場合は時価を家賃として支払うことになります。豪華社宅とは240㎡を超える場合や、プールの設備があるなどの場合です。
払わない場合、源泉所得税の追徴課税になるペナルティ
会社に対し、購入した社宅の家賃を支払わない場合は、源泉所得税の追徴課税というペナルティが科されます。役員や従業員が無料で社宅を使用することは、現物給与を受けていることと同じ状態とみなされ、所得税を源泉徴収していないと判断されるためです。現物給与として課税されることがないように、きちんと計算して毎月会社が家賃を受け取っている状態にしましょう。
役員社宅と従業員社宅では、支払う家賃が異なる
家賃の金額は、役員が社宅を利用する場合と、従業員が利用する場合とでは支払う金額が異なります。それぞれ計算式に当てはめれば、1か月あたりいくら支払えばいいかを算出できますが、難しい場合は顧問税理士に相談しましょう。
役員社宅の家賃の計算方法
役員社宅として使用する場合、建物の種類や大きさに応じて小規模社宅とそれ以外、豪華社宅に分類し、家賃を計算します。固定資産税課税標準額については、社宅のある土地・家屋が所在する市役所等で固定資産税評価証明書を取得すれば確認できます。
社宅の種類 | 社宅の種類の定義 | 計算方法 |
---|---|---|
小規模社宅 | 木造で建物の耐用年数が30年以下の場合は床面積132㎡以下あるいは木造以外の家屋で建物の耐用年数が30年を超える場合は床面積99㎡以下の住宅 | 下記の①~③の合計金額 ①(その年度の建物の固定資産税課税標準額)×0.2% ②12円×(その建物の総床面積(㎡)÷3.3㎡) ③(その年度の敷地の固定資産税課税標準額)×0.22% |
小規模社宅以外 | 木造で建物の床面積が99㎡を超える場合あるいは木造以外の家屋で建物の床年数が132㎡を超える場合 | 下記の(1)、(2)のうちいずれか多い金額 (1)建物の耐用年数が30年を超える場合、木造家屋の場合は(家屋の固定資産税課税標準額×10%+敷地の固定資産税課税標準額×6%)×1/12、木造家屋以外の場合は(家屋の固定資産税課税標準額×12%+敷地の固定資産税課税標準額×6%)×1/12 (2)会社が家主に支払う家賃の50% |
豪華社宅 | 建物の床面積が240㎡を超えるもので取得価額や賃借料、内外装の状況など各種要素を総合的に判定される住宅、あるいは床面積240㎡以下の場合は役員の嗜好を著しく反映していると判断される住宅 | 時価 |
従業員社宅の家賃の計算方法
従業員社宅の家賃は、下記の3つの金額の合計で算出します。
- (その年度の建物の固定資産税課税標準額)×0.2%
- 12円×(その建物の総床面積(㎡)÷3.3㎡
- (その年度の敷地の固定資産税課税標準額)×0.22%
法人で社宅を購入する場合の注意点
社宅購入より賃貸で住むほうが得策の場合も
役員や従業員の社宅を検討する場合、購入するより賃貸のほうがいい場合もあります。賃貸は社宅を購入する場合と異なり、不動産取得税や固定資産税の支払い、購入後の維持管理が不要だからです。
さらに、賃貸でも社宅利用を目的として、法人名義でマンションやアパートを借りられますし、賃貸料も経費に計上可能です。住宅購入や売却に関する負担を考慮し、特段購入にこだわる気持ちがないのであれば、賃貸を選択肢に入れて検討するほうがいい場合もあるでしょう。
経営者の持ち家保有はリスクが高い
経営者の場合、持ち家を保有することは、将来的に見てリスクがあることも、理解しておく必要があるでしょう。一旦持ち家として保有すると、気軽に引っ越しができず、ライフスタイルの変化にも対応しにくくなるからです。
さらに持ち家や社宅の場合は不動産投資と異なり、収益性がない固定資産になるため、将来土地などが値下がりして、損をするリスクもあります。売却時に利益が出たとしても、法人税が高くなるなどのデメリットも考えられます。リスクを考慮した上で購入か、賃貸にするかなどを検討しましょう。
法人での役員社宅(従業員社宅)購入は節税に一定の効果あり
社宅購入後の経費や売却時まで想定して検討を
法人名義での役員や従業員の社宅を購入することは、購入費用や毎年の固定資産税などを会社の経費に計上できるため、一定の節税効果が見込めるでしょう。ただし、個人で購入する場合と違って、金利や住宅ローン控除が使えないなどのデメリットがあることや、購入した場合でも一定の家賃支払いが必要になるので注意が必要です。
また、法人税や相続税の節税方法としては有効な手段ですが、固定資産になるため、将来的に売却することを考慮すると、購入するより賃貸のほうがいい場合もあります。節税方法としては有効な手段のひとつですが、購入によって見込める節税額や、考えられるリスクなどについては、顧問税理士とも相談しながら検討されてはいかがでしょうか。