会社の節税対策として、出張旅費規程作成はよく行われる手段のひとつです。出張にかかった費用は実費精算もできますが、規定を作成すれば出張費用を経費化できるようになります。経費を増やせば利益の圧縮につながることから、出張業務がある会社であれば作成する機会は多いようです。今回は出張旅費規程の作成により、どんな節税メリットがあるのか、作成方法やポイントについてご紹介します。
出張旅費規程とは
日当や宿泊費などを定めた旅費規定
出張旅費規程は、会社における出張旅費の取り扱いについて定めたものです。出張でかかった宿泊費や交通費、および出張手当(日当)などの関連費用は、出張旅費規定に基づいて支給することになります。
出張旅費規程に必要な項目
出張旅費規程には、出張手続きの方法や精算方法などをまとめるほか、出張経費とみなす費用の種類についても、支給方法や支給額を定めます。
一般的には、
- 出張日当(日当)
- 交通費
- 宿泊費
などを出張経費とすることが多いです。
明確な法的基準はなし。出張費用の範囲・支給方法・金額は会社ごとに定める
出張旅費規程は、記載項目に法律上明確な決まりはありません。出張にかかった費用のうち、出張費用と認める範囲や、例外的に認める費用などは、それぞれの会社が妥当と思われる範囲で、規定を定めることになります。支給方法や支給金額の上限も決められていないので、各会社で実費精算や定額支給などの方法を選択し、支給することになります。
出張手当と出張旅費との違い
出張旅費規程を作成する上で、混同しやすいのが出張手当と出張旅費とがあります。どちらも出張にかかった経費ですが、違いをおさえておきましょう。
出張旅費は出張にかかった費用を精算したもの
出張でかかる交通費や宿泊代などの費用は、業務に関わる費用として、経費となります。ただ、経費化するには、出張にかかった費用を精算する必要があります。出張費用を精算したものが出張旅費となります。なお出張費用の精算は、会社によって出張後に実費精算する場合もあれば、先払いするケースもあります。
出張手当は出張旅費規程で定める手当
出張手当は、出張旅費規程の中で決められた手当のことです。会社によっては日当、出張日当、旅費日当などと呼ばれることもあります。出張手当(日当)は出張する社員への慰労目的や、出張で発生した食事代や通信費、備品代などの費用を定額支給することで、毎回実費精算せずにすむようにするためのものです。
出張にかかった費用は実費精算が基本ですが、細々とした費用まですべて実費精算するのは難しく、出張回数が多いほど精算に手間もかかります。出張手当(日当)を定めることは、精算処理の煩雑さの解消にも効果的です。ただし、出張手当(日当)は出張旅費規程が定められていることが前提で支給できる制度です。
出張旅費規程で得られる節税効果
日当や宿泊費などを経費計上し法人節税
出張旅費規程があると、出張手当(日当)や宿泊費などを経費化できるようになります。経費が増えれば利益の圧縮につながり、法人税の節税効果が見込めるでしょう。なお、出張旅費規程を作成せず出張手当(日当)を支給すると、給与とみなされ課税対象になるので注意が必要です。
支給分は非課税、所得税・住民税負担なし
出張旅費規程の整備は、受け取る側の個人にもメリットがあります。出張旅費規程で支給する出張手当(日当)は、所得税や住民税の非課税対象となり、個人の税負担が増える心配はないからです。一方、規定が整備されていなければ出張手当(日当)は給与として扱われ、個人の課税所得が増えることになるので気を付けましょう。
また、出張にかかる費用は、毎回同じ費用がかかるとは限りません。ですが、仮に実際にかかった費用が支給分より少なくても、差額は非課税所得として手元に残すことができます。所得税や社会保険料がかかるわけではありません。
社会保険料の削減
出張旅費規程があると、社会保険料の節税効果も期待できます。出張旅費規程で定めた出張手当(日当)は、社会保険料の算定基礎となる報酬にも含まれないからです。個人、会社側ともに、負担する社会保険料を削減できるでしょう。
消費税の節税
出張旅費規程を定めると、消費税の節税にも効果的です。国内出張の場合、出張手当(日当)や宿泊費などは、業務上必要な費用とみなされ、消費税の課税仕入れの対象になるからです。
出張旅費規程作成は節税以外にもメリットあり
事務処理の負担を減らし効率アップ
出張旅費規程は節税に関するメリット以外にも、精算処理を簡素化する効果が期待できます。規定によって出張手当(日当)や宿泊費等の扱いをルール化すれば、精算処理は規定に基づいて行えるようになるからです。
社員数が多い会社や出張頻度が高い会社の場合は、実費精算で出張にかかった費用を一つひとつ調べ、精算するのは大変です。出張にかかった経費は実費精算が基本ですが、細かい確認をするとなると、経理担当者にとって負担が大きいでしょう。出張旅費規程を定めれば、一部を定額支給することもできるので、事務処理効率のアップにもつながるはずです。
定額支給で不公平感を軽減
出張手当(日当)や宿泊費は定額支給ができます。実費精算に比べると、出張者間の不公平感も軽減できるでしょう。
出張旅費規程の作成方法
目的を定める
出張旅費規程では、まず「何のための規定なのか」を示すため、目的の項目を定めて記載します。就業規則を作成している場合は、「就業規則第○○条の規定に基づき」のように、細則としてもよいでしょう。
【目的の記載例】
- この規定は、役員または社員が業務のために出張する場合の手続き、および旅費に関して定めるものである
規定の適用範囲を定める
次に、出張旅費規程の適用範囲を定め、出張にかかった費用を経費計上する範囲を示します。適用範囲については、基本的に社長を含む全社員が対象です。正社員以外の社員(パート、アルバイトなど)も出張する可能性があれば、別途その旨を記載します。
【適用範囲の記載例】
- 本規定は当社に勤務する全社員に対し適用する
- この規定は正社員以外の者に対しても、役員または所属長の承認を得ている場合は本規定を準用できる
出張の定義を定める
出張旅費規程では、どういう条件を満たせば「出張」を判断するか、出張の定義についても記載します。出張の定義に関する法的基準はないので、それぞれの会社で独自に定めてかまいません。例えば距離や移動にかかる時間で出張かどうかを区別する、あるいは県外・県内を判断基準にするなどです。
都市部と地方とでは交通手段の利便性が異なりますが、距離で区別をする際は、一般的に片道100㎞を目安にすることが多いです。会社によっては、100㎞以内を近出張、それ以上を遠出張と区別して呼ぶこともあります。また、一口に出張といっても日帰りの場合もあれば、宿泊を伴う場合もあるでしょう。日帰り出張と宿泊出張とを区分する場合は、別途規定を定め、記載しましょう。
【出張の定義の記載例】
- 出張とは、社員が自宅または勤務地を起点として、片道100㎞以上の目的地へ移動し、職務を遂行するものをいう
旅費の種類の設定
出張の定義や適用範囲などを定めたら、旅費の種類として、費用項目の設定をします。旅費の種類は、交通費と宿泊費、出張手当(日当)の3つに分けることが多いです。
【旅費の種類の記載例】
- 本規定でいう旅費とは、以下に定めるものとする
1. 交通費
2. 宿泊費
3. 出張手当
交通費の設定
旅費の種類のうち、交通費は実費精算とするのが一般的です。金額が明確で、領収書の数も比較的少ないからです。むしろ、目的地によって金額の変動が大きいので、定額支給は難しいでしょう。
出張の交通手段は、主に鉄道、飛行機、船などが想定されます。それぞれの交通手段についても、項目を設け規定を定めましょう。交通費は社長や役員、管理職、一般社員などに区分し、利用できる交通機関の等級を定めることも可能です。
鉄道
一口に鉄道といっても、ローカル電車や特別急行、新幹線、寝台車などさまざまです。さらに指定席や自由席、グリーン席などによっても、金額は変動します。
例えば移動距離によって区分する場合は「近出張の場合は普通電車を利用する、遠出張では特別急行や新幹線、寝台車を利用できる」などとします。役職によって、利用できる車両や座席の種類に差をつける場合は、その旨も記載しましょう。
飛行機
出張を飛行機で移動する場合は、距離で区分することが多いです。距離の区分に基準はありませんが、例えば東京―大阪間の約500㎞を目安にするのもひとつです。「飛行機の利用は
500㎞を越える場合に利用する」などと定めるとよいでしょう。さらに、緊急の場合を想定し、「ただし、緊急時や所属上長の承認を受けた場合はこれに限らない」と付け加えると安心です。
飛行機の場合も、役職によって区分するのであれば、別途その旨を記載しましょう。例えば、社長や役員はファーストクラス、管理職はビジネスクラス、一般社員はエコノミークラスを利用するなどとします。
注意したいのは、社長がファーストクラスを利用できることを規定した場合、ファーストクラスの費用を精算できるのは、実際にファーストクラスに搭乗した場合です。利用したのがエコノミークラスの場合は、ファーストクラスの費用で精算することはできません。ただし、割引料金を支払って、実際にファーストクラスに搭乗した場合は、正規のファーストクラスの料金を精算できます。
船舶
船舶も、1等室や2等室など、グレードによって必要な費用が異なります。役職によって区分する場合は、その旨を記載しましょう。例えば「船舶の利用時は、役員・管理職は1等室、一般社員は2等室とする」などです。
その他の交通機関
出張時に利用する交通機関には、バスやタクシー、自動車の利用も想定されます。タクシーやバスなどの交通手段は、「ほかに交通機関がなく、やむを得ない場合または上長の承認を受けた場合に限って使用してもよい」を定めることが多いです。自動車については、社用車や自家用車のパターンや、ガソリン代や高速代などについても、対応を決めておくほうがよいでしょう。
宿泊費の設定
宿泊費は会社によって、実費精算する場合もあれば、1日の上限額を設定し定額支給することもあります。1日あたりの上限額を定める場合は、社長や役員、一般社員などで金額を区分してもかまいません。
【宿泊費の記載例】
- 1泊あたりの宿泊費は、社長12,000円、役員10,000円、一般社員8,000円を上限とする
出張手当の設定
出張手当(日当)の場合は、1日単位で、一律定額支給が一般的です。一般的には、移動距離に応じて近出張と遠出張とを区別して設定することが多いです。会社によっては国内と海外とで区別することもあります。役職に応じて支給金額を変える会社も多いですが、その場合は別途記載が必要です。
【出張手当の記載例】
- 1日の出張手当に関し、近出張は社長10,000円、役員8,000円、従業員5,000円、遠出張の場合は社長12,000円、役員10,000円、社員7,000円とする
出張手当も、何の費用をいくらまで範囲として含むか、法的基準はありませんが、一般的には、出張中の食事代や通信費、備品代は出張手当に含まれるのが一般的です。一方、交通費や宿泊費も基本的に別で考えるほか、出張先で取引先に対する接待目的で行った外食費も、出張手当に含めず交際費や会議費として計上します。
いずれにせよ、明確に出張手当の範囲を決めることが大切です。出張手当に含む範囲をはっきりすることで、経理担当者も迷わずにすみ、事務処理効率の向上にもつながるでしょう。
出張手続きについて定める
出張旅費規程には、実際出張をする際の手続き方法についても記載しておきましょう。長期出張時には、出張費用の仮払いを受けられるよう規定するのもよいでしょう。その他、出張時の残業や休日出勤など、自社で把握が難しいことについては「訪問先の役職者から所定用紙に承認をもらう」など取り扱いを定めておくとよいでしょう。
【出張手続きの記載例】
- 出張時は所定の出張申請書に必要事項を記入し、所属上長に承認を得るものとする
精算方法や管理方法について定める
出張手続きとともに、出張にかかった費用の精算方法や管理方法についても定める必要があります。例えば、「出張旅費精算書を何日以内に提出し、承認を得ないといけない」などです。
【旅費の精算記載例】
- 出張者が帰社した際は、速やかに所定の出張旅費精算書を作成し、所属上長の承認を受け、〇日以内に領収書添付の上、旅費の精算をしなければならない
なお、出張旅費精算書には、出張内容や出張費用の内訳、仮払いを受けた場合は精算金額などを記入するのが一般的です。
出張手当をさかのぼって支給することはNG
出張旅費規程の効力は、規定を導入してから有効となるため、出張手当(日当)をさかのぼって支給することはできません。出張手当(日当)は旅費交通費の支給時点で支払われるべきものなので、仮に出張から数か月さかのぼって支給した場合は、利益調整とみなされます。税務調査で発覚した場合は、重加算税の対象となるため注意しましょう。出張旅費規程を整備したら、出張手当(日当)はその都度きちんと精算しましょう。
株主総会決議を行う
出張旅費規程が作成出来たら、株主総会決議を行い、議事録を残しておきましょう。出張旅費規程を作成しただけだと、会社の正式な規定として効力を持たないからです。株主総会や取締役会など「出資者の集まり」によって決議し、承認を受けることで、株主が認めた正式な規定だと証明できます。
出張旅費規程作成時の注意点
全社員を対象にすること
適用範囲の項目でも述べたように、出張旅費規程は全社員を対象にすることが基本です。さらに、一人会社や家族従業員だけの会社は別として、社員がいる会社なら全社員に周知する必要があります。
役職による差は認められている
対象者を限定できない出張旅費規程ですが、交通費等の項目でも述べたとおり、社長や役員などの役職によって、支給金額に差をつけることは認められています。ただし出張旅費規定にその旨を記載することが必要です。
支給額は適正な金額を設定する
出張旅費規程で支給する出張手当(日当)等の金額は、法的な決まり事はないものの、一般的に見て妥当な金額に設定する必要があります。同業他社や同規模の会社を参考にしたり、役職間のバランスが悪くないかどうかを確認したりして、規定を定めましょう。
支給額が高額だと否認されるリスクも
支給金額にはっきりした基準がないとはいえ、あまりに高額な出張手当(日当)等の設定は、不適切だとして税務調査で否認されるリスクがあります。否認された場合、会社の経費にならないだけでなく、受け取る側の課税所得とみなされ、税負担を増やすこともあるので注意しましょう。
出張旅費規程は節税に効果的ですが、過度に依存し、高額の手当を支給する考え方はNGです。あくまで業務上必要だと認められ、適正な範囲で支出した費用を精算し、経費化するための規定だからです。さらに、出張者には出張中の給与も通常通り支払われるので、基本的に高額にする必要もありません。支給する意味を踏まえた上で、支給金額を決定したときは高すぎないか、再度見直すことも大切です。
長期出張やトラブル時など例外の規定も定める
出張というと日帰りから一泊二日など、さまざまなケースが考えられますが、長期出張については別途規定を定めるほうが無難です。通常の規定通り支給すると高額になり、会社にとって負担が大きいからです。例えば「出張が7日を超える場合は、8日目から出張手当を30%減額して支給する」などです。
また、出張中は事故や傷病など、トラブルが起こる可能性もあります。予期せぬ事態が起こったときでも対応できるような、例外規定を定めておくこともおすすめします。別途規定を定めることで、税務調査で質問されるリスクも減らせるでしょう。
海外旅費規程も作成しておくほうがベター
出張旅費規程を作成する場合は、海外出張に関する項目を規定しておくことをおすすめします。海外出張に関する規定がない国内用の出張旅費規程は、海外出張用に準用できないからです。今は海外出張をしていない会社もいずれは出張の機会があるかもしれません。規定を設けておけば、いざというとき役立つでしょう。
海外出張の機会が頻繁にある会社の場合は、できれば国内出張用の旅費規程とは別に、海外出張用の旅費規程も作成しておくほうが無難です。ただし、海外出張は費用が高額になりやすいので、支給金額については十分検討する必要があります。また、国内用出張旅費規程と同様、事故や病気になったときの規定を設けるほか、安全面でリスクがある地域へ渡航し、トラブルが発生した場合の規定を作成しておくことも大切です。
出張旅費精算書の作成を義務付ける
出張旅費規程を有効に活用するために、出張者には出張旅費精算書の作成や所属上長への提出をするよう、規定に定めましょう。出張手当(日当)は原則領収書が不要とされますが、支給した根拠となる情報を残す必要があるからです。出張旅費精算書が提出されることで、出張手当(日当)の適正な支給や、スムーズな事務処理にもつながります。
出張旅費精算書は、出張日時と場所、訪問先の企業名や担当者、出張用件などを記載するのが一般的です。
領収書、出張旅費精算書の保管
提出された出張旅費精算書は、税務調査においても、出張した証明書類になります。レシートや領収書とともに保管しましょう。例えば飛行機や電車のチケット、ホテルやタクシーの領収書などです。領収書やレシートがない場合は、クレジットカードの利用明細や、予約完了メールなどでもかまいません。
会社のキャッシュアウトが発生する
出張旅費規程の作成は節税効果が期待できる一方、会社にとっては負担が増える可能性も考慮しましょう。規定がなければ出張手当(日当)等の定額支給をする必要はありませんが、規定を定めれば実際の支出の有無は関係なく、定額分を支給することになるからです。
出張旅費規程は全社員が対象なので、場合によっては実費精算よりキャッシュアウトが発生することも考えられます。社員数が多いほど、会社の負担も大きくなるでしょう。一人会社でない場合は、会社の運営に影響が出ないか検討しながら、規定を作成することも大切です。
節税対策に出張旅費規程作成は効果的
明確な基準はなくとも適正な金額で設定を
出張にかかった費用を経費化できるようになることから、出張旅費規程作成は、節税対策として有効な手段です。法人税だけでなく、社会保険料、消費税の負担軽減にもつながるでしょう。さらに、出張旅費規程で定めた出張費用は非課税対象なので、出張者個人にとっても税負担が増える心配がありません。会社側、出張者個人ともに、メリットの大きい規定と考えられます。
出張旅費規程作成には、ある程度手間がかかりますし、交通費や宿泊費、出張手当などの支給は、適正な金額を設定しなければなりません。実費精算よりキャッシュアウトが増える可能性もあるので、会社の状況に合った規定を作成する必要もあるでしょう。とはいえ、一度作成すれば規定に従って精算処理できるようになるため、事務処理負担は軽減できるでしょう。
出張の機会が多い、あるいは今後増える見込みの会社で、まだ出張旅費規程を整備していない場合は、導入を検討してみてはいかがでしょうか。