有価証券の評価損を計上して節税する

有価証券の評価損を計上して節税する評価損で節税する
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有価証券の評価損がなぜ節税になるのか

企業が持っている有価証券を売却するとき、帳簿上の価額と売却価額との差額によって企業は利益、または損を計上します。
しかしそれだけではなく、帳簿上の有価証券の価額と現在の価額との差額を利益または損として計上できるケースがあります。

利益が出ていれば企業としてはもちろん法人税を多く支払う必要がありますが、損が出ている場合には法人税の節税効果があります。
ただし、全ての有価証券を「時価」で評価するわけではありません。後ほどご紹介しますが、有価証券の種類によってその評価方法は異なります。

有価証券評価損計上による節税のメリット

企業が行う様々な節税対策の中には、

  • 支出を伴うものと支出を伴わないもの
  • 支払う税金を将来に繰り延べるもの
  • 国が定めている特例を使い税額を抑えるもの

など様々な種類があります。

そのうちの「支出を伴う節税」に関しては、支払う税金は安くなりますが企業からキャッシュも出て行ってしまっていますので、節税対策の中ではあまり有効なものとは言えません。

有価証券の評価損は支出なしで行える有効な節税対策

この有価証券の評価損による節税は、有価証券を購入する際に既に代金を支払っているもので、帳簿上の価値を現在の実際の評価に合わせる作業になります。
節税をする際に企業からキャッシュが出ていかないことから、節税対策としては非常に有効な方法となります。

一方、この有価証券の評価損に関しては「税金逃れ」として税務署から調査の際に目をつけられやすい分野でもあります。
判断基準にきちんと適合しているか、またその根拠となる資料を準備するなどの対策もしっかりとしておきましょう。

有価証券の種類

有価証券はその保有目的により幾つかの種類があります。有価証券は会計上、以下のように分類されます。

  • 売買目的有価証券
  • 満期保有目的の債権
  • 子会社株式および関連会社株式
  • その他有価証券

これらに分類された有価証券は、企業の決算書での貸借対照表での記載場所、期末での評価方法が異なります。

有価証券の期末での評価方法

有価証券の期末で行う評価方法は、保有目的によってそれぞれ異なります。
それぞれの内容と評価方法について解説していきます。

売買目的有価証券の評価方法

まず売買目的有価証券です。売買目的有価証券は時価の変動により利益を得ることを目的としています。そのため期末で時価評価をすることが必要になり、評価差額は当期の損益として計上します。

実際に売買目的有価証券として処理するためには、

  • トレーディング目的で専門部署が日常的に売買を行っている
  • 取得時に帳簿に短期売買目的で取得した旨を記載している

などの条件を満たしている必要があります。
洗替法を選択している場合、期末で時価評価した有価証券は翌期首に振り戻し仕訳を行います。つまり毎回期首の有価証券の帳簿価額はは取得価額に戻ります。

満期保有目的の債権の評価方法

満期保有目的の債券は満期まで保有することを目的としており、利息と満期時の償還額の受け取りが投資の目的となります。そのため貸借対照表価額は「償却原価法」という方法によって算定された価額により計算されています。原則として期末に時価評価は行いません。

子会社及び関連会社株式の評価方法

子会社及び関連会社株式とは、他企業への影響力の行使を目的として保有する株式のことをいいます。時価の変動によって利益を得ることを目的としていないため、期末で時価評価はされません。取得原価をもって貸借対照表価額とします。

その他有価証券

その他有価証券は、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社及び関連会社のいずれにも該当しない有価証券のことをいいます。その他有価証券の貸借対照表価額についても時価によって評価するものとされていますが、直ちに売買や換金を行うことができない場合もあるため、評価差額は純資産の部に計上されます。

会計上の評価損と税務上の評価損

会計上の損益と税務上の損益は必ずしもイコールではないため、この評価損が税務上の経費として認められるためにはいくつかの条件を満たしていなければなりません。

例えば、売買目的有価証券で時価評価を行ったものに関しては税務上も同様に処理されますが、その他有価証券を所有している法人が会計上時価評価を行ったとしても税務上は取得原価で評価しなければならず、評価損は税務上の経費としては否認されることとなります。つまり税務上その費用はなかったこととされてしまうのです。

売買目的有価証券の時価評価による評価損

売買目的有価証券は期末に時価評価を行い、時価評価が取得価額よりもマイナスになっている場合には評価損を計上します。
逆にプラスになっている場合には評価益として計上します。時価評価を行った評価損益は税務上も損金または益金として計上されます。

切放法を選択している場合には期末の評価差額はそのままの形で処理しますが、洗替法を選択している場合、ここで評価損として計上した額は翌期に「益金」として利益計上され、有価証券は元の取得価額に戻ります。

その他有価証券の時価評価による評価損

市場価格のある「その他有価証券」は、会計上は時価評価されますが、税法上では取得原価による評価となります。このため、会計上の評価損益は、税法上ではなかったものとして調整されます。

有価証券の評価損が計上できる一定の条件

ではここからは保有目的に関係なく、評価損として計上することができる一定の場合について解説していきます。
売買目的の有価証券でなくても、「含み損」を持ったままの有価証券を保有している場合、これらの一定の条件を満たしていれば節税できる可能性もありますのでご確認ください。

上場有価証券と、それ以外の有価証券とで評価損計上の条件が異なりますので注意しましょう。

上場有価証券等の評価損計上条件

ではまず、上場有価証券等の評価損の計上条件についてです。ここで言う上場有価証券等とは、取引所売買有価証券、店頭売買有価証券、取扱有価証券及びその他価格公表有価証券のことを指します。
これらの有価証券の価額が「著しく低下」し、その価額が帳簿か価額を下回ることとなった場合に損金処理することができます。ここでいう「著しく低下する」とは、

  1. 期末における価額が帳簿価額の概ね50%相当額を下回ること
  2. 近い将来回復が見込まれないこと

を指します。この件について国税庁のQ &Aでは指針として以下のように発表されています。

  • 過去の市場推移や市場環境の動向、発行法人の業況等を総合的に勘案した「合理的な判断基準」が示される限り税務上その基準は尊重される。
  • 一般的には株価が過去2年間にわたり50%以上下落した場合には損金算入が認められるといわれているが必ずしも過去2年間にわたって50%以上の下落がなければ損金算入が認められないということではない。
  • 回復可能性の合理的は判断として専門性を有する客観的な第三者の見解があれば合理的な判断の根拠とすることができる。

国税庁/上場有価証券の評価損に関するQ&A

ここでは「合理的な判断」ということが強調されていますが、例えば第三者の専門家(証券アナリスト)などによる見解を合理的判断の根拠の一つとすることもできます。

それ以外の有価証券

では上場有価証券以外の有価証券を評価損として計上するためにはどのような条件があるのでしょうか。それ以外の有価証券に関しては、

  • 発行する法人の資産状態が著しく悪化した場合
  • その価額が著しく低下した場合

が条件とされています。

「資産状態が著しく悪化した」の該当条件

「資産状態が著しく悪化した」とは、次の場合に該当します。

  1. 会社法の規定による会社の特別清算の開始の命令があったこと
  2. 破産法の規定による破産手続開始の決定があったこと
  3. 民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったこと
  4. 会社更生法又は釡融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生手続開始の決定があったこと

上記のように清算、破産、再生、更生手続きを開始している状態であれば、その保有している株の価値が著しく低下していることが分かりますので評価損の計上要件として認められます。

「その価格が著しく低下した場合」の定義

「その価格が著しく低下した場合」とは、1株または1口当たりの純資産価額が、取得時の純資産価額の概ね50%相当額を下回ることを指します。
純資産価額とは会社の資産から負債を差し引いた残りの部分のことを言います。ここには資本金や資本剰余金、利益剰余金などが含まれています。

有価証券評価損の計上方法

では有価証券の評価損を計上する際には実際にどのような仕訳処理を行えば良いのでしょうか。時価を把握することができる場合には以下の方法で仕訳処理を行います。

例)その他有価証券に該当するA社株式の帳簿価額は取得価額と同様の50,000円となっているが、期末の時価は20,000円となっている。また回復可能性についても今のところ不明。

借方金額貸方金額
投資有価証券評価損30,000投資有価証券30,000

この場合、時価が取得価額の50%以上下落しており、回復可能性も見込めないとのことから評価損を計上することができます。評価損の金額としては取得価額と時価の差額である30,000円を計上します。

一方、時価を把握することが困難と認められる株式に関して、実質価額が著しく低下したと判断された場合には、実価法によって計算を行います。実質価額は1株当たりの純資産額を使用し、以下の算式によって求めます。

1株当たりの純資産額=(資産-負債)÷発行済み株式総数
株式の実質価額=1株当たりの純資産額×所有株式数

ここで計上した評価損は、売買目的有価証券の時価評価による評価損とは異なるため、洗替を行い翌期に評価益を計上する必要はありません。

有価証券の評価損を計上する上での注意点

これまで有価証券を評価損として計上する方法についてご紹介してきましたが、評価損を計上する上で注意しなければならない点もいくつかあります。それは著しい下落や、資産状態が著しく悪化したことなどの判断について、税務署との見解の相違が発生してしまうことです。

そのような場合に備えて、評価損を計上する際には、有価証券を発行する法人の資産状態を確認するため決算書を取り寄せる、企業自身が設定する「合理的な基準」については文書によって設定し、毎期継続的に適用するなどのことが必要となります。
つまり従来と同じ基準が評価損を計上する期にも適用されているという事実が必要になります。

要件を満たしていない場合には売却も視野に

売買目的以外の有価証券の評価損を計上するためには、これまでご紹介してきた一定の要件を満たしていなければなりません。それらの条件を満たしていることを証明するための必要資料も準備しておかなければなりません。

もし評価損を計上するためにそのような手間をかけられないという場合、価値が下がっている有価証券を売却してしまうことも視野に入れましょう。
もし保有している株式が上場株式であれば、売却して譲渡損を計上することができます。
この場合、評価損を計上する時のような要件はありません。帳簿価額と売却価額との差額を売却損として計上することができます。

ただし、ある銘柄の有価証券を売却しその後すぐに同一銘柄の有価証券を購入すると、「クロス取引」とみなされ、その売却はなかったものとみなされますので注意しましょう。

有価証券の評価損による節税まとめ

今回の記事では有価証券の評価損を計上して節税する方法についてご紹介しました。売買目的の有価証券ではなくても、一定の要件を満たしていれば評価損を計上することができます。一定の要件に関しては帳簿価額が著しく低下していること、将来回復の見込みがないことなどが求められ、これらの事実対する根拠も合わせて必要となります。

有価証券の評価損は企業からキャッシュを出さずに経費を作れるため節税対策としては有効ですが、税務署から指摘されやすい分野でもあるため、有価証券の評価損による節税をご検討の際には専門の税理士や節税コンサルティングサービスにご相談ください。

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