法人が配当を行う目的
上場企業の株式を保有している場合、株主として目的の1つは「配当」にあります。
多くの場合、上場企業の株主は「配当」や、「値上がり益」を目的として株式を保有しています。
この配当を行うことができるのは上場企業だけというわけではありません。中小企業でももちろん配当は行うことができます。これまで内部留保してきた積立利益を配当により株主に還元することができます。
中小企業が配当を行う目的は上場企業のものとは若干異なります。上場企業が配当を行う目的は「株主を募ること」にあります。
しかし中小企業で、特に「役員=株主」のような法人の場合、配当を自分に出すからといって何かが変わるわけでもありません。同族による中小企業が配当を行う目的は主に「節税」部分となります。
上場企業 | 中小企業 |
---|---|
株主を募る | 節税 |
法人が配当をするための手順
法人が配当を行うためにはまず株主総会、取締役会を開催し配当を行う旨を決定します。実際に配当を行う際には源泉所得税部分を天引きして支給し、支払調書を作成します。天引きしていた源泉所得税は法人にて納付書により国に支払いを行います。
法人の配当~税金納付までの手順
- 株主総会を開催
- 取締役会を開催
- 源泉所得税の天引き
- 配当金を支払
- 支払調書を作成
- 源泉所得税を納付
配当金は法人の節税対策にならない
実はこの法人による配当は「法人」自体に対しての節税対策にはなりません。よく中小企業の社長が、今期は利益が出そうだから配当を出せば節税になる・・・と考えて配当を検討している場合がありますが、配当金を支払うこと自体は法人の節税対策には繋がらないのです。
役員へ法人が支払をする方法
株主=役員の場合、役員が金銭を法人から受け取る方法は役員報酬や地代家賃、そして配当での支払いがあります。
役員が法人から収益を受ける方法
- 役員報酬
- 地代家賃
- 配当
役員報酬
役員報酬は役員が受け取る報酬のことで、株主総会でその決定を行います。
事業年度開始から3ヶ月以内に一度変更することができ、一度定めた役員報酬は基本的に一年間変動するものではありません。
ただし役員だとしても事前確定届出給与を提出することにより「役員賞与」を受け取ることも可能です。
地代家賃
また法人に自宅の一部分を事務所として提供しているような場合、法人から「地代家賃」を受け取ることもできます。
この家賃収入は役員報酬とはまた別の収入となります。家賃収入を得ている役員は不動産所得を得ていることになりますので確定申告をする必要があります。
配当
そして最後に「配当」として金銭を受け取る方法です。この配当も株主総会の決議により支払を決定します。
この3つの金銭の受け取り方法で法人の節税に繋がらないものが「配当」による受け取りです。
なぜかと言うと、役員報酬も地代家賃も法人の「経費」になります。(役員報酬は通常損金にはなりませんが、定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与であれば損金とすることができます。)
つまり法人として経費を作り、利益を減らし、法人税を節税することができます。しかし配当に関しては、支払ったとしても法人の経費にはなりません。
配当が経費にならない理由
支払いをしているのになぜ配当金は経費にならないの?と疑問に思う方もいるかもしれません。
法人における会計においては、何か支払いをしたら必ず経費になるというわけではありません。
例えば「借金を返済した」などという場合、支払いをしていますが、貸借対照表上の負債が減るだけで経費にはなりません。
配当を行った時の仕分け
配当の原資となるのは「繰越利益剰余金」という科目です。この科目は「純資産の部」に属しています。仕分けとしては以下の形で行います。
借方 | 貸方 |
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繰越利益剰余金 | 未払い配当金 |
借方 | 貸方 |
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未払い配当金 | 現預金 |
この配当の支払いは貸借対照表上の「純資産のマイナス」であり経費の支払いではありません。
一方、役員報酬を支払った場合、経理処理を行う際の科目は「役員報酬」という科目を使用します。
借方 | 貸方 |
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役員報酬 | 現預金 |
この役員報酬は損益計算書の「販売費及び一般管理費」に属しています。経費となるのは基本的に損益計算書上の
- 売上原価
- 販売費及び一般管理費
- 営業外費用
- 特別損失
に属する支払い部分となります。貸借対照表上の「負債」や「純資産」からの支払いは経費となりません。
配当金が節税になるのは役員の個人部分
では法人にとって配当は全く節税にならないのでしょうか?実は近年この配当による節税が注目を集めているのです。
平成26年度の税制改正により給与所得控除の見直しが行われ、給与所得控除の上限が適用される給与収入1,500万円(控除額245万円)を「平成28年分は1,200万円(控除額230万円)に、平成29年分以後は1,000万円(控除額220万円)に引き下げる」ことが決定されました。
平成25年~27年分の所得税 | 平成28年分の所得税 | 平成29年分以後の所得税 | |
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上限額が適用される給与収入 | 1,500万円 | 1,200万円 | 1,000万円 |
給与所得控除の上限額 | 245万円 | 230万円 | 220万円 |
この改正により給与所得者にとっての所得税負担は増えることとなりました。
そしてこの税負担の高い役員報酬に変わる案として配当が注目され始めているのです。
つまり配当が効果を表すのは法人部分での節税ではなく法人を保有している株主に対してのものとなります。
多くの中小企業で見られる「株主=役員」のような企業体系の場合、役員個人の節税を行うことで間接的に法人も財を蓄えることができます。
どういうことかと言うと、法人の経営が厳しい状況にある場合、その法人を支えるのは役員となります。同族の中小企業であれば法人に対して貸付を行うようなケースも多々あります。役員個人が資産を蓄えておくことは、間接的に法人の経営基盤を強めることに繋がるのです。
配当にかかる税率
配当金は配当を受ける段階ですでに税金を差し引かれてからの支給となります。配当金の税率は以下の通りです。
上場株式の配当金 | 15.32% |
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非上場株式の配当金 | 20.42% |
中小企業は「非上場株式」に該当しますので20.42%の税率が採用されます。
一方、給料に関しては「給与所得控除」があり、給与所得控除を差し引いた後の課税所得に対して5~45%の間の税率で推移します。
この配当による税率は給与の税率と比べても決して低い訳ではありません。しかし一定の条件のもと、配当の場合にも「控除」を受けることができます。
配当控除とは
国内株式の配当は通常、法人税が課された後の利益を株主に分配するものです。そこに更に所得税を課税すると二重課税になってしまいます。そこで二重課税を防ぐために「配当控除」というものがあります。
ただし、この配当控除を受けるためには条件があり、まず国内株式であること、そして「確定申告」を行い、「総合課税」を選択する必要があります。ここで総合課税を選択すると所得に応じた5〜45%の税率となります。
配当控除は、その年の課税総所得金額が1,000万円以下の部分に関しては所得税に10%、地方税に2.8%の税率控除を受けられます。また1,000万円を超える場合は所得税が5%、地方税が1.4%控除されます。
配当金の節税によるメリット・デメリット
配当金による節税では個人の所得税部分に関するものだけではなく、もっと広い意味での節税効果があります。しかし「法人」部分だけを取ってみるとデメリットがあるので注意が必要です。
配当の節税によるメリット:社会保険料の節税
配当をすることで個人の税金部分だけでなく「社会保険」部分でもメリットがあります。
社会保険料も結局は法律により定められ個人から支払われるものですので、広い意味での「税」とも言えます。
社会保険料の額は役員報酬として受け取るか、配当によるものかによって大きく変わってきます。役員報酬を上げればその分社会保険料も上がります。しかし配当を増やしたところで社会保険の金額に変更はありません。
役員報酬増 | 社会保険料増 |
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配当金増 | 社会保険料変化なし |
社会保険料に関しては平成16年度から年金制度改正により、もともと13.58%だったものが段階的に引き上げられ現在18.3%まで税率は上げられています。
政府としてはこの引き上げ政策は終了し、税率は18.3%で固定するとされていますが、年金制度も厳しい現状にあるので今後どのような変更があるかはわかりません。
もちろん法人負担部分もありますので、個人として負担するのはこの税率の1/2となりますが、それでもこの社会保険の支払いについての支払いは大きいものです。節税対策を考える上で考慮していかなければならない部分となります。
配当の節税によるデメリット:法人税の負担
配当を使った節税を検討する場合、法人としてのメリットはなく、逆に経費を作ることができないというデメリットがあります。配当は個人とトータルで考えた場合に節税になりますが法人単体で考えた場合、節税面でメリットは何もありません。
法人が配当を検討するような場合、それは法人に資金的な余裕があり、「利益が出ている状態」の時が多いかと思います。もし利益が多く出ているのであればその利益部分に対して「法人税等」が課されます。
法人税等には「法人税」、「地方法人税」、「住民税」、「事業税」が含まれていますが、合計すると税率は36〜37%の率となります。この税率が法人の利益部分に課税されるため、配当を行い、逆に経費を作らないということは法人税の観点から見るとデメリットとなります。
法人の役員にかかる税負担は大きい
法人の役員にかかる税負担は先ほどご紹介した所得税、社会保険料、そしてその翌年に発生する「住民税」があります。住民税は市町村民税6%、道府県民税が4%の割合で合計10%の税率となり、決して少ない額ではありません。具体的な例で、個人がどれくらいの税負担を受けるのかをご紹介します。
例)役員報酬100万円/月にかかる税負担
仮に役員報酬として月に100万円をもらう場合、まず社会保険料の標準報酬額は980,000円に該当し、健康保険料56,987円(介護保険第2号被保険者の場合)、厚生年金保険料は上限の56,730円となります。
社会保険料の負担額
健康保険料:56,987円
厚生年金保険料:56,730円
続いて源泉所得税の計算ですが、この源泉所得税は社会保険料を控除した後の金額に対して課税されます。860,000円部分までは97,350円(扶養がいない場合)、860,000円を超える部分に対しては23.483%の税率をかけた7,486円が課税されます。つまり所得税は97,350+7,486=104,836となります。
源泉所得税の負担額
104,836円
住民税は前年の所得に対して課税されますが仮に前年も100万円の役員報酬を受け取っていた場合、社会保険料や基礎控除等を考慮するとおおよそ64,900円となります。
住民税の負担額
64,900円
役員報酬100万円に対しての各種税金
健康保険料56,987
厚生年金保険料56,730
源泉所得税104,836円
住民税64,900円
合計:283,453円
つまりこの計算によると、(扶養などの状況により多少の変動はありますが)役員報酬を月に100万円受給する場合、283,453円は税金関係で引かれてしまい、最終的な手取り額は716,547円となります。
先ほどご紹介した給与所得控除の見直しや社会保険料率の引き上げなどを加味すると今後も給料や役員報酬に対する税負担は増えていくことも考えられ、決してこの個人部分での節税対策は軽視できないものとなっています。
配当を検討する場合には法人と個人総合で検討
多くのオーナー社長(株主であり社長)の場合、「会社と個人部分を総合的に考えて節税対策を行いたい」というのが本音部分かと思います。
例えば「法人で利益が出そうだから役員報酬をあげましょう」と言われ役員報酬を何も考えずに上げてしまい所得税、社会保険料、翌年の住民税が大幅に上がり税金の支払いに苦労している・・・と後悔される社長もいます。
中小企業では会社にお金がなければ社長が会社にお金を貸すことなど日常のことです。社長自身にある程度の蓄えがなければ法人を安定的に維持し存続させていくこともできません。節税を行おうとする場合、法人部分に関するものだけでなく個人部分も考慮して対策を行う必要があります。
まとめ:法人が配当金で節税する方法とそのカラクリ
今回の記事では法人が配当金を使い節税する方法とそのカラクリについてご紹介してきました。配当金によって法人税自体が節税になることはありませんが、法人と法人の役員個人との総合的な面で見ると配当を行うことにより節税に繋がることがあります。近年では給与所得控除の上限の引き下げや社会保険料率の引き上げなど、個人への税金面での負担が重くなる傾向があります。株主=役員のような同族会社の場合、個人、法人トータルで節税対策を考え、役員個人部分での節税対策を行うことが間接的に企業防衛につながります。
配当を活用した法人と個人の複合的な節税をお考えの場合、専門の税理士や節税コンサルティングサービスにご相談ください。