法人の節税対策は決算前にも行う
法人の節税対策は決算前までに行っておかなければなりません。例えば5月に申告、納税を行う場合には決算月は「3月」となりますので、それまでに節税対策を行わなければなりません。
経理や会計処理は2ヶ月程度遅れることが多いので、3月の段階では1月時点の利益しか確認できないということも多くあります。ただし、3月の確定した損益ができ上がるのを待っていては5月頃になってしまいますので、それでは決算前の節税対策としては間に合いません。決算前に節税対策を済ませるためには1月までの数字しか出ていなくてもその時点で判断しなければなりません。
毎月の月次処理をきちんと行っておくことが大前提
まず節税対策を行うためには毎月の月次処理をきちんと行っておく必要があります。領収書はため込まずに経理担当者に毎月処理してもらうようにしましょう。毎月の月次処理を行うことで予算と現状の比較も行うことができますし、金融機関からの借り入れも行いやすくなります。しかし何よりも、毎月の損益を把握していることで節税対策を事前にしっかりと立てることができるようになります。
決算直前でもできる節税対策
では決算直前に行える節税対策にはどのようなものがあるのでしょうか。
一般的に、節税対策は大きく分けて
- 支出を伴う節税
- 支出を伴わない節税
の2つに分けられます。
決算直前時点でのキャッシュ、資金繰り状況をふまえつつ、それぞれの方向で節税方法を検討していきます。
支出を伴う節税対策
決算の直前に何かを購入することや、誰かに支払いをすることによって経費を作ることができます。これらの節税は支出を伴う節税で、具体的には以下のようなものが含まれます。
- 機械、備品の購入
- サプライ品の購入
- 従業員へ賞与の支給
機械や備品の購入により節税
まずその期のうちに購入できる機械や備品などがないかを検討します。しかし注意しなければならないのは、一定の金額を超えてしまう場合、会計上「資産」として計上しなければならず、減価償却として按分した部分しか経費計上できない場合があります。しかしそのような場合も以下の特例により経費とできる金額を増やすこともできます。
一括償却資産 | 20万円未満の資産は3年間均等で費用処理が可能 |
少額資産の特例 | 中小企業で青色申告をしている場合30万円まで全額費用計上が可能 |
また中小企業強化税制により、一定の条件に該当する場合100%全額経費とすることのできる「即時償却」という制度もあります。
これらの制度を活用することで金額の大きな資産だとしても全額経費計上が可能であったり、大幅に軽費を作ることも可能となります。
サプライ品を購入することによる節税
今後使うサプライ品を決算期内に事前に購入しておくことでも経費を作り節税することができます。1つ1つの支出は小さいものですが、それらの積み重ねで経費を作り税金を抑えることができます。
ただし、あまりに大きな金額での購入となると在庫として、その期の経費ではなく資産計上しなければならない場合もありますのでご注意ください。
従業員への賞与により節税
従業員へ賞与を出すことで経費を作り法人税を節税することができます。
夏季賞与や冬季賞与などではなく、法人が利益を出している場合には従業員に対して「決算賞与」を支給することができます。この決算賞与は決算時には「未払い」だとしても経費として計上することが可能です。ただし、支給を受ける全ての従業員に対して支給額を通知すること、事業終了の翌日から1ヶ月以内に支給することが経費計上するための要件となります。
ちなみに、賞与に対する社会保険はその期の経費にすることはできませんのでご注意ください。
支出を伴わない節税対策
それでは、支出を伴わない節税対策としてはどのようなものがあるのでしょうか。
支出を伴わない節税対策として、
- 貸倒引当金
- 固定資産の除却
- 不良在庫の処分
- 売上の計上基準の変更
- 減資の検討
- 評価損の計上
- 回収できない不良債権の経費化
などがあります。これらの節税はキャッシュが法人から出て行かないため資金繰り面でも安心な節税方法となります。
貸倒引当金による節税
貸倒引当金とは、得意先が倒産するなどの理由から債権が貸し倒れた場合の取立不能見込額をあらかじめ経費計上しておくものです。
貸倒引当金の対象となる金銭債権には
- 売掛金
- 貸付金
- 受取手形
などがあり、これらの債権の取り立て不能見込額が貸倒引当金となります。
貸倒引当金の繰入限度額は「個別評価金銭債権」と「一括評価金銭債権」とによって計算方法が異なります。回収できない可能性が高い場合には個別評価金銭債権となり、個別の算式のより貸倒引当金を算定し、経費とすることができる金額は高く計上されます。
一方、それ以外の債権は一括評価金銭債権となり、過去3年間において、実際どれだけの貸倒れが生じたのかによって算出する貸倒実績率を用いる方法と、中小法人については期末の債権残高に対して※法廷繰入率を乗じた額を貸倒引当金とすることができます。
※
法定繰入率は業種に応じて以下の通りとなります。
卸売業及び小売業 | 10/1000 |
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製造業 | 8/1000 |
金融業及び保険業 | 3/1000 |
割賦販売小売業 | 13/1000 |
その他 | 6/1000 |
固定資産の除却による節税
決算前に法人の固定資産台帳を確認し、もう使っていないものや既に破棄しており会社に無いものなどが固定資産台帳に含まれていないかを確認しましょう。もしそれらのものが含まれていたら「除却損」として経費計上することができます。経費として計上することができるのは、対象となる資産の「帳簿価額」部分となります。帳簿価額とは取得価格からこれまでの減価償却費の累計額(減価償却累計額)を控除した価額です。
売り上げの計上基準の変更による節税
決算期前に売り上げ計上基準を見直すことにより節税ができる場合があります。売り上げの計上基準には
- 納品基準
- 検収基準
- 使用収益開始基準
- 完成引渡基準
- 部分完成基準
- 工事完成基準
- 工事進行基準
等があります。これらの売り上げ計上基準は基本的に一度定めると変更はできませんが、商品ごとに異なる基準を定めることも可能です。一つ一つの商品の計上時期を検討し、決算後に売り上げを計上することができるものがないかをもう一度確認してみましょう。
減資を検討することによる節税
法人の資本金には1000万円、1億円という税務上の壁があり、1000万円未満であれば消費税と法人住民税の均等割りを、1億円以下であれば法人税を節税することができます。
これらの資本金は「減資」を行うことで減額することができます。減資には株主に金銭を交付する「有償減資」と決算書上で振替を行う「無償減資」があります。どちらの方法にしても、株主総会特別決議、債権者異議申立て手続き、登記という流れで進めていく必要があります。減資はやや複雑な手順を要しますが消費税や法人税を直接的に抑えることができる節税方法となります。
ただしこの減資は、株主などからの「信用」など税金以外の部分も考慮して行う必要があります。
評価損を計上することによる節税
評価損は税務上、損金と認められませんが、例外として商品が災害などにより著しく損傷した場合や※陳腐化が著しい場合などには損金算入することが認められています。
※
著しい陳腐化の例 |
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季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが既往の実績その他の事情に照らして明らか |
型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売されたことにより、当該商品につき今後通常の方法により販売することができない |
上記にような損傷や陳腐化があった場合、それらの在庫評価は仕入れ価格ではなく処分可能価格(時価)で評価することとなりますので、差額を評価損として計上することができます。
回収できない不良債権を経費にして節税
法人の貸借対照表の債権科目を確認し、回収できない不良債権があれば経費にできる可能性があります。実際に経費とすることのできる不良債権は取引先が
- 裁判所より破産決定を受けた
- 民事再生を申請した
- 一定期間取引停止後弁済がない
などの場合で、法人によってはこのような不良債権が貸借対照表上にずっと残ってしまっているという場合もあります。そのような不良債権を貸倒損失として処理することができないかを検討しましょう。
決算直前に行う節税対策の注意点
決算直前に行う節税対策で注意しなければならない点もいくつかあります。
資産購入は資金繰りに注意
例えば節税対策として資産を購入する場合、この場合には原則、全額は経費計上することはできず、減価償却として按分し経費計上していきます。更にこの減価償却は月割計算を行うため、決算月に購入した場合、減価償却で按分したのちに更に1/12したものを経費計上しなければなりません。
経費としてはそれだけしか計上できないにもかかわらず実際には資産に対して支払額の全額が法人からキャッシュとして出て行ってしまっているため、そのことは法人の資金繰りを悪化させてしまうこともあります。
税金支払い分のキャッシュは確保しておく
また税金の支払いは決算月の2ヶ月後になりますので、税金支払い分の資金も法人としては蓄えておかなければなりません。決算直前の安易な資産購入には注意が必要です。
決算前の余裕がある時に有効な節税対策
節税に関して言えばできるだけ決算直前ではなく普段から心がけたいところです。普段から行える節税対策としては以下のものがあります。
- 規定の整備
- 役員給与と賞与の支払い
- 社宅の活用
これらのものは普段から心がけたい節税対策で、逆に言えば決算直前には間に合わず、行うことのできない節税対策となります。
規定の整備による節税対策
社内規定の中で代表的なものとして「出張旅費規定」があります。出張旅費規定を作成しておくことにより社員へ支払う出張手当や日当を給与ではなく「必要経費」として計上することができます。
規定の中では出張があった場合には役員に◯◯◯円、社員には◯◯◯円と金額を定めておくことができ、そこで支払う手当や日当に関しては給与とは別に法人の損金として経費処理することができます。この規定を法人として事前に作成しておくことで法人税額を減少させ、役員や社員に対して給与を支払うわけではないので、それぞれが負担する所得税や住民税も節税することができます。
役員報酬と役員賞与で節税対策
役員報酬は一度決めると基本的に変更することができません。この役員報酬を変更するタイミングは期首から3ヶ月以内と決められているので、事前に売り上げの見通しを立てられるようであれば、この3ヶ月のタイミングで役員報酬を変動させておくことが節税対策として有効です。
また税務署に「事前確定届出給与」を提出しておくことにより役員に対しても賞与を支払うことができます。この事前確定届出給与の提出期限は下記の1〜3の中でもっとも早い日となります。
- 事前確定届出給与を定めた株主総会の日から1ヵ月以内
- 対象の役員が職務を執行する日から1ヶ月以内
- 事業開始の日から4ヶ月以内
これらの役員報酬や役員賞与は決算直前の対策としては使えないものですが、期首時点で法人としての利益の見通しが立っている場合には事前に行っておくことで有益な節税対策となります。
社宅を活用した節税対策
社宅を法人として購入した場合には税金などの固定費や修繕費などを経費として、賃貸として所有している場合には支払額と受取額の差額を経費にすることができます。
この社宅を使えば、住宅手当として役員や従業員に支給するよりも各個人での税負担も少なく、法人と個人の双方にメリットがあります。ただし、法人が受け取る家賃が国税庁が定める計算式で求めた「賃貸料相当額」を下回ると、その差額分が給与とみなされてしまうので注意が必要です。
まとめ:決算直前に法人ができる節税対策
今回の記事では決算直前に法人が行うことができる節税対策についてご紹介しました。
法人の節税対策には支出を伴うものと支出を伴わないものがあります。支出を伴う節税で注意しなければならないのは、法人の資金繰りを悪化させてしまう可能性があるということです。決算月の2ヶ月後には税金の支払いもあります。
決算直前にはまず、「支出の伴わない節税」を検討し、その後将来法人にとって益となるような「支出を伴う節税対策」を検討しましょう。節税についての相談は専門の税理士や節税コンサルティングサービスにご相談ください。