勤務医の節税対策として「会社設立」という選択肢があることをご存知でしたか?開業医ではなく勤務医だとしても会社を設立することができます。会社を設立することには様々なメリットがありますが、特に節税面でのメリットが大きくあります。今回の記事では勤務医が会社を設立する方法やそのメリット、会社を設立する際の注意点について解説していきます。
勤務医の医師にかかる税金
まず、勤務医にかかる税金にはどのようなものがあるのでしょうか。勤務医にかかる税金は大きく分けて以下の2種類です。
- 源泉所得税
- 住民税
ではそれぞれの税金はどのようなもので、どれくらいの税金がかかるのでしょうか。
勤務医にかかる所得税
通常、勤務医である場合には勤めている病院から給料として収入を得ます。その給料は毎月「源泉所得税」が差し引かれています。この源泉所得税の税率は所得に応じて5%から45%の7段階に区分されています。この制度では所得が低ければ税率も低く、所得が増えると税率も高くなり最大で45%の税率で所得税が差し引かれることになっています。
例えば、給料から社会保険料を差し引いた金額が1,000万円であった場合、その1,000万円に33.693%を乗じた金額が源泉所得税として引かれます。
この場合ですと3,369,300円の源泉所得税が引かれ、手取り額は6,630,700円となります。
1,000万円×33.693%=3,369,300円
所得が高くなるにつれ税率も高くなるので、医師などのように高所得と言われる職種の方にとって源泉所得税は非常に頭を悩ませる税金となっています。
勤務医にかかる住民税
また給料に対しては所得税だけでなく住民税もかかります。この住民税は市町村民税6%、道府県民税4%の合計10%の税率で所得に課税されます。住民税は対象となる年の翌年6月からの1年間、給料から天引きされる形で引かれます。
つまり勤務医として高所得を得ている場合、源泉所得税と住民税を合わせて収入の約半分程度も税金として支払っているという可能性もあります。
勤務医でも会社を設立し節税することは可能
そこで注目を集めているものが、会社を設立することによる節税対策です。この会社設立は条件が該当する場合に非常に大きな節税効果を発揮します。
なぜ節税効果があるかというと、所得を分散することができるからです。
会社を設立することにより所得を個人と法人に分散し、さらに法人内でも役員報酬にかかる所得税と法人の利益に対してかけられる法人税に分散することができます。
ここで気になるのが、開業医でなくても法人を設立することができるかという部分です。
結論から申しますと勤務医でも法人を設立することは可能です。
例えば勤務医でも給与の他に事業所得がある場合、この事業所得部分に対しての法人を設立することができます。
勤務医の給与以外の所得として考えられるものは、
- 講演料
- 原稿料
- テレビなどの出演料
- コンサルティング
などがあります。
このような給与所得以外の所得がある場合には法人の設立を検討してみても良いかもしれません。
ただし、この節税対策としての会社設立はあくまでも事業所得部分に対してであるため、「病院から受け取る給与を会社で受け取って節税に」というものではありません。
法人を設立することで期待できる節税効果
では具体的に法人を設立することによりどれほどの節税効果が期待できるのでしょうか。
給料と事業所得を個人で受け取った場合
例えば、これまで給与所得1,500万円、事業所得として1,000万円、合計2,500万円の所得があったとします。
所得税の速算表を使い単純にこの所得に対して所得税率をかけると、約720万円の所得税が発生することになります。
25,000,000円×40%−2,796,000=7,204,000円
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
給料を個人で雑所得を法人で受け取った場合
仮に会社を設立し、この事業所得分の1,000万円を会社の収入とした場合、個人の所得税計算からは1,000万円分がマイナスされますので、給与に対する所得税は約340万円となります。
15,000,000円×33%−1,536,000=3,414,000円
もちろん法人には1,000万円収入が入りますので、そちらでは法人税を支払わなければなりません。
ただし、法人として様々な経費を収入からマイナスすることができますので、仮に200万円経費として支払っていたとすると、法人税は残り800万円部分に対してのみ課税されます。
法人税等には
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
が含まれており、これらの法人税の実効税率を約30%とすると法人税額は240万円となります。
800万円×30%=240万円
個人と法人設立を設立した場合の税額比較
先ほどの個人としての所得税と会社を設立した場合の所得税、法人税の額を比較してみると、会社を設立した方が支払う税額は少なくなっていることが分かります。
個人の所得のみの場合 | 会社を設立した場合 | |
---|---|---|
所得税額 | 720万円 | 340万円 |
法人税額 | – | 240万円 |
合計 | 720万円 | 580万円 |
法人設立の場合にはもちろん法人税額が発生していますが、それを加味しても税金の支払い額には140万円の違いが生じています。
また給与所得に関しては翌年住民税も10%の割合で発生しますので、法人設立にその分住民税も節税することとなります。
会社の設立により社会保険も節税に
また会社を設立することにより、税金だけでなく社会保険料の額も抑えることができます。
近年社会保険料の額は上昇傾向にあります。健康保険料率は介護保険も含めると11.6%、厚生年金保険料率は18.3%もあり、個人としての負担も非常に大きな割合を占めるようになってきています。
会社を設立することにより個人の所得を下げることができますので、その分社会保険料の支払額も下げることができます。
勤務医が会社を設立することによるメリット
勤務医が会社を設立することによるメリットは大きく分けて
- 節税効果
- 経費の幅が広がる
- 財産承継
があります。それぞれについて解説していきます。
会社設立による節税効果
これまでお伝えしてきたように、会社の設立による最も大きなメリットは節税効果です。源泉所得税、住民税(広い意味での税金と考えた場合社会保険料も)の節税をすることができます。もちろん法人税が課税されることになりますが、所得税は最大で45%の税率のなっているため、所得によっては法人税の税率の方が低い場合もあります。
また昨今法人税率も軽減されている傾向にあるため、今後の税率のことを考えても節税効果が高いと考えられます。
法人設立により経費の幅が広がる
病院から支給される給料に関しては税引き後の金額が手取りとして使えるお金になります。つまり、毎月の給料から源泉徴収された後の手元に残った金額が自分で使える額となります。
では法人の場合にはどうでしょうか。法人の場合、税金を差し引く前の金額も自分で使うことができます。ご自分が設立した法人ですので経費として何を購入するかを自分で選ぶことができます。車を購入することも、パソコンを購入することも自分で決められるのです。
そしてそれらのものを購入した後の金額に対して税金が課税されます。そこが法人を設立する1つのメリットでもあり、法人は個人とは違い税金を引かれる前の金額を処分することができるのです。
もちろん、完全に個人として使用するたものを購入した場合には給与扱いになり課税されますが、多くの場合、仕事との割合に応じて適切に按分するなどして経費として参入させることができます。
財産承継の際の節税効果
相続の際には亡くなった方の預金や不動産に対して相続税がかかります。しかし法人を設立して法人がそれらの財産を所有している場合、それらの財産は個人の財産から外れますので相続税の対象とはなりません。
もちろん保有している会社を相続する形になりますが、事業承継に関しては現在様々な優遇措置が取られているので、実質ほぼ税金をかけずに会社を承継することも可能です。
勤務医が会社を設立するための手順
勤務医が法人を設立するためにはどのような手順を踏まなければならないのでしょうか。法人設立のためには以下の資料を作成し各役所に提出、申請を行う必要があります。
- 定款作成、認証(公証役場)
- 資本金の払い込み
- 登記書類の作成
- 会社設立登記申請(法務局)
- 設立届けの提出(税務署、都道府県、市区町村)
事前に商号や事業目的など必要な事項を決定しておく必要がありますが、早ければ2~3週間ほどでこれらの手続きを済ませることが可能です。これらの続きが完了したのち、社会保険などの諸々の手続きが必要となります。
法人設立にかかる費用
株式会社の設立にかかる費用
法人設立にはどれくらいの費用が発生するのでしょうか。株式会社か合同会社化によっても異なりますが、株式会社を設立する場合には242,000円の費用が発生します。
定款認証手数料 | 50,000円 |
---|---|
定款の謄本手数料 | 2,000円 |
登録免許税 | 150,000円 |
収入印紙代 | 40,000円 |
合計 | 242,000円 |
もし電子認証を行なった場合、収入印紙代40,000円部分は不要となります。ただしこの場合、専門家に依頼することが前提となりますので行政書士や司法書士への報酬を支払わなければなりません。
報酬の相場はおおよそ5~10万円円程度となります。
合同会社の設立にかかる費用
では合同会社を設立する場合、いくらの設立費用がかかるのでしょうか。合同会社は株式会社と比べ設立費用が少なく、近年では合同会社を選択する方も増えています。
合同会社となると認証手数料がかからず、登録免許税も6万円となるため、収入印紙代の4万円と合わせ102,000円で会社を設立することができます。
定款認証手数料 | 0円 |
---|---|
定款の謄本手数料 | 2,000円 |
登録免許税 | 60,000円 |
収入印紙代 | 40,000円 |
合計 | 102,000円 |
さらにこちらも電子認証を行なった場合、4万円の収入印紙代は不要となります。
勤務医が会社を設立する際の注意点
これまで勤務医が会社を設立することによる節税面でのメリットや、設立のための手順についてご紹介してきましたが、会社を設立する際の注意点についていくつかご紹介します。勤務医が会社を設立する際には、
- 社会保険料の額を合算させる
- 法人には維持費用がかかる
- 事業所得に該当するのか
- 規定で副業が可能かどうか
ということに注意しましょう。
社会保険料の額を合算させる
設立した会社でも役員報酬を受け取る場合、法人ですと社会保険加入義務が発生します。勤め先でも社会保険に加入しているため、所属している2ヵ所での社会保険加入義務が発生する形となります。
この場合、「健康保険・厚生年金保険被保険者所属選択・2以上事業所勤務届」を提出し、両方で受け取っている賃金の合算額をもとに標準報酬月額が決め、毎月の保険料は各社ごとの賃金で按分する必要があります。
会社には維持費用がかかる
法人の設立費用に関しては先ほどご紹介しましたが、法人を維持するためにも費用が発生します。
まず固定で発生する費用としては毎年の税金があります。
個人では赤字の場合税金は発生しませんが法人の場合、赤字だとしても最低7万円(資本金が1千万円以下、従業者が50人以下の場合)の税金が発生します。
また個人の場合にはご自分で確定申告をすることも可能ですが法人の場合、多くは申告業務を税理士に依頼することになります。
税理士に依頼する場合には顧問報酬や決算料なども支払うことになり、それらも法人を維持するために必要な費用となります。
事業所得に該当するのか
新たに設立する会社の事業所得として計上しているものが「給与所得」に該当するものでないか注意しましょう。
例えば、勤務している病院の他でアルバイトをしたというような場合には給与所得となりますし、その他にも以下のような形態で受け取る収入に関しては給与所得扱いとなります。
- 雇用契約が存在する
- 使用者の指揮命令に服して提供した労務である
- 空間的、時間的な拘束がある
このような条件で収入を受け取っている場合には給与所得に該当し法人の事業所得には該当しませんので注意しましょう。
規定で副業が可能かどうか
医療機関によっては副業を禁止しているところもあるため、そのような病院に所属している場合今回の法人設立による節税対策は使えません。特に公的な医療機関で働く場合には副業に関しての規定は厳しくなります。
法人を設立する前に一度所属している医療機関の規定を確認しておきましょう。
まとめ:勤務医の医師が会社を設立して節税するための方法
今回の記事では勤務医の医師が会社を設立して節税するための方法についてご紹介しました。
個人に対する所得税は超過累進課税率を採用しているため所得が上がるほど税率も高くなります。法人を設立することにより所得を分散し、大きな節税効果を期待することができます。
ただし法人の設立や維持にも費用がかかりますし、場合によっては規定で禁止されていることもあります。
会社設立による節税は大きな節税効果を生みますが専門性の高い節税対策のため、専門の税理士か節税コンサルティングサービスをご利用ください。