不動産による減価償却の仕組み
不動産を購入することがどのようにして節税につながるのでしょうか。不動産の購入により不動産に含まれる土地、建物部分は一度貸借対照表上の「資産」に分類されます。このうちの建物部分は毎年の減価償却により按分して経費にしていくことができます。この減価償却費は現預金の支出を伴わない経費となります。
例)土地2,000万円、建物1,000万円の不動産を購入した場合
購入時の仕分け
借方 | 貸方 |
---|---|
土地2,000万円 | 預金3,000万円 |
建物1,000万円 |
期末の減価償却の仕分け
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 200,000円 | 減価償却累計額 | 200,000円 |
この期末に行われる減価償却費が、耐用年数に応じて毎年の「経費」となっていくわけです。実際は減価償却費を計上するその年に200,000円の現預金での支払いをしているわけではありませんが、会計上では経費とすることができます。会社や個人としてその200,000円分利益が減少しますので、法人税や所得税を節税することができます。
ちなみに購入した「土地」部分に関して償却は行いません。土地に関しては価値が減少していくという考え方はないので、あくまでも建物部分のみの償却となります。
不動産の減価償却耐用年数
この建物部分に関して、減価償却の耐用年数は建物の「構造」と利用の「目的」によって年数が異なります。基本的に、「鉄骨鉄筋」や「鉄筋コンクリート造り」であれば耐用年数は長く、簡易的な建物になるほど耐用年数は短くなります。また細目は事務所の方が耐用年数は長く、店舗や住宅用の方が耐用年数は短くなります。
構造・用途 | 細目 | 耐用年数 |
---|---|---|
木造・合成樹脂造のもの | 事務所 | 24 |
店舗・住宅用 | 22 | |
木骨モルタル造のもの | 事務所 | 22 |
店舗・住宅用 | 20 | |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの | 事務所 | 50 |
住宅用 | 47 | |
店舗用 | 39 | |
れんが造・石造・ブロック造のもの | 事務所 | 41 |
店舗・住宅用 | 38 |
減価償却費を計上する上でこの耐用年数が何年になるかはとても重要で、期間が短い方が毎年減価償却費として計上できる金額は多くなり、期間が長ければ毎年の償却額は少なくなります。
不動産を減価償却する方法
不動産を償却する方法には大きく分けて「定額法」と「定率法」があります。定額法は毎年一定の額を償却し、定率法は一般的に当初の償却額が大きくなります。建物に関してはこのうちの定額法を採用しており、耐用年数で按分した金額を毎年一定額償却していく形になります。
不動産購入による節税対策(法人編)
法人の場合、不動産を購入することでどのように節税できるのでしょうか。
不動産を購入し、減価償却費を計上することで法人として利益を圧縮し「法人税」を節税することができます。また不動産購入に伴い修繕費や固定資産税などの諸経費も法人の経費として計上することができます。法人が支払う法人税は法人の利益により、800万円までは19%、800万円を超える部分は23.4%となり、利益の額によって税率も異なってきます。
法人で不動産を購入する場合
法人ではもちろん事務所として不動産を購入する場合に経費計上できますし、その他、例えば法人名義で不動産を購入して社員や役員に社宅として貸すこともできます。どちらの場合でも不動産にかかる税金、修繕費、減価償却費を経費として落としていくことができます。またローンでの購入の場合には「利息」部分も経費とすることができます。しかし注意しなければならないのはローンの元本部分の返済については法人からキャッシュは出ていっているにも関わらず経費とはなりません。
法人が不動産を購入するケース
- 事務所として
- 社宅として
法人で社宅を経費とするための条件
この社宅として利用する場合、法人としては一定額を社員や役員から賃料として受けとらなければなりません。この家賃収入がない場合には、これらの不動産にかかる減価償却費や支出を法人の経費とすることはできません。
不動産購入による節税対策(個人編)
では個人事業主の場合には不動産の購入でどのようにして節税対策をすることができるのでしょうか。個人の節税対策として多く使われるのが投資用の不動産の購入です。例えばサラリーマンをしているような場合、不動産投資を行い減価償却で毎年赤字を作っていくならば、「損益通算」によりサラリーマンの給与所得で課税されている源泉所得税を還付させることもできます。
損益通算により節税
この損益通算とは、
- 1.不動産所得
- 事業所得
- 譲渡所得
- 山林所得
のうち、所得の金額に「損失」が生じた場合、そのほかの総所得金額、退職所得金額または山林所得金額等を計算する際に所得の金額から控除することができることを言います。
例えば、給与所得が500万円、不動産所得で△200万円だった場合、損益通算により、所得税の計算は差し引き300万円部分に対して課税されます。この所得税の税率も所得に応じて税率が異なります。所得が多くなるにつれ税率も上がり最大で45%まで税率は上がります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
例えば先ほどの例では不動産の赤字がない場合には所得は500万円となります。上記の税率表に当てはめると所得税は572,500円となります。もし不動産の赤字200万円と通算するならば、所得は300万円となり、所得税額は202,500円まで下がります。
<計算式>
損益通算しない場合
5,000,000円×20%−427,500=572,500円
損益通算する場合
3,000,000円×10%−97,500=202,500円
この場合ですと不動産で計上した赤字と損益通算することにより所得税の税率も10%下がり、所得税額も370,000円節税することができます。
損益通算により所得税額が下がった場合には確定申告により税金の「還付」を受けることができます。また所得が下がることにより翌年の住民税も節税することができます。
不動産による節税対策は課税の繰り延べ
しかし実際、この不動産を取得による節税対策は「課税の繰り延べ」を行なっているにすぎません。どういうことかと言うと、不動産などの資産を購入した場合、どこかのタイミングで必ず税金は支払わなければなりません。課税されるタイミングは大きく分けて
- 売却
- 贈与
- 相続
です。不動産を保有している場合、いずれはその資産の「移動」が行われます。売却によるのか贈与、相続によるのか、それぞれタイミングは異なりますが、いずれにしろこの移動のタイミングで税金が発生するようになっています。減価償却により一定期間経費を作ることができますが、将来的には必ず課税される時期がやってきます。
売却の場合には法人税または所得税、贈与の場合には贈与税、相続の場合には相続税が発生します。もちろんそれぞれの税によって税率も異なりますし特別な控除がある場合もあるので節税は可能です。
不動産購入による節税対策の注意点
不動産を購入することによる節税対策では、いくつか注意しなければならないことがあります。不動産購入による節税を行う場合には以下の点に注意しましょう。
初期投資によるキャッシュアウト
この不動産による節税を行う場合には必ず「初年度」に大きなキャッシュの減少が発生します。具体的に不動産を購入すると以下の費用が発生します。
- 仲介手数料
- ローン事務手数料
- 登記費用・登録免許税
- 抵当権設定登記
- 収入印紙
- 固定資産税・都市計画税分担金
- 火災・地震保険料
- 不動産取得税
不動産購入に伴い不動産の本体価格に加えこれらの諸費用が発生します。購入の初年度には法人や個人から大量のキャシュが出ていきます。もちろん借り入れによってキャッシュを調達して不動産を購入する場合もありますが、不動産購入にはそれに伴う諸費用も発生するといことを覚えておきましょう。新築や中古によっても異なりますが一般的に物件価格の3〜10%程度は諸費用がかかると言われています。
決算直前の不動産購入には注意
先ほども少し触れましたが、減価償却費は耐用年数で按分して計上します。初年度は更にそれだけではなく「月数」で按分した金額が減価償却費となります。つまり節税対策として決算直前(決算月)に不動産を購入したとしても実際にその期に経費とすることができるのは不動産の購入価格(建物部分)を耐用年数で按分し、さらに1/12で割った金額部分のみを減価償却費として計上できる形となります。
例えば建物部分10,000,000円の不動産を購入した場合、
10,000,000円÷22年※×1/12=37,878円のみが減価償却費となります。
※木造、住宅用の不動産を購入した場合
ですので「今期は利益が出そうだから税金対策を・・・」と決算直前に不動産を購入したとしてもその期での節税効果はほとんど見込めません。不動産購入のタイミングには注意しましょう。
デッドクロスに注意
不動産購入に伴う支払いを「借り入れ」によって行なった場合、そのような場合には「デッドクロス」に注意しなければなりません。
デッドクロスとは、ローンの元金返済額が減価償却費を上回ってしまう状態のことを言います。どういうことかと言うと、このデッドクロスの状態に陥っている場合、帳簿上では利益を出しているにも関わらず手元資金がなくなっていってしまいます。
デッドクロスとは、
ローンの元金返済額>減価償却費
このようなデッドクロスの状態が続くと資金繰りが悪化し最悪の場合「黒字倒産」となってしまうケースもあります。ローンにより不動産を購入する場合にはこのデッドクロスの状態に陥ってしまわないか注意が必要です。
建物割合に注意
不動産を購入する場合には建物と土地の割合に注意しなければなりません。先ほどもご紹介したように土地部分は減価償却をして経費にすることはできません。つまり、購入する側としては建物割合を多く取った方が節税面で有利になります。不動産を購入するにあたって土地と建物の割合が定まっていないような場合には「交渉」により建物割合を決めます。購入する側としてはできるだけ建物割合を多くしてもらうと節税面でのメリットがあります。一方で売却する側からすると建物部分には消費税が発生してしまいますので節税面では不利となります。
新築不動産と中古不動産の減価償却
では不動産を購入する場合、新築不動産と中古不動産では節税面でどのように変わってくるのでしょうか。中古不動産を購入する場合、計算式は以下の通りです。
(法定耐用年数- 築年数)+ 築年数× 20%
例えば法定耐用年数22年、築年数10年の不動産を購入した場合、
(22−10)+10×20% = 14
この場合、中古不動産の耐用年数は14年となります。
では耐用年数を経過している場合、減価償却費を計上することはできないのでしょうか?実は耐用年数を経過している不動産でも減価償却費を計上することはできます。中古不動産で耐用年数を経過している場合、計算式は以下の通りとなります。
法定耐用年数×20%
例えば、法定耐用年数22年、築年数30年の不動産を購入した場合
22年×20%=4.4
法定耐用年数が経過している場合には法定耐用年数に20%をかけて耐用年数を算出します。この場合には法定耐用年数22年に20%をかけ4.4年→4年が耐用年数となります。
中古不動産は耐用年数が短くなりますので、新築に比べ短期的に大きな経費を作ることができるので節税対策として有効です。
まとめ:不動産の減価償却で節税するポイントと注意
今回の記事では不動産の減価償却で節税するポイントと注意点についてご紹介しました。不動産の減価償却は金額も大きいので節税対策として有益です。しかし不動産の減価償却による節税を行う場合、以下のことに注意しなければなりません。
- 初年度のキャッシュアウト
- 決算期直前の購入は按分
- デッドクロス
- 建物割合
また新築と中古不動産では耐用年数が異なり、中古を購入する場合には耐用年数は短くなります。不動産は節税効果こそ大きいです。しかしその分、額の大きな買い物となります。不動産を購入すべきかどうか、新築にすべきか中古にすべきか、購入のタイミングをどうするかなどのご相談は弊社の節税コンサルティングサービスにご相談ください。